「城乃内―!放課後職員室に来い!!」
授業も終わり、皆で昼食を食べようと各々が動いていた時であった。
体育教師苅田の怒声に、一瞬生徒はびくっと驚き静まりかえった。
だが彼は用件を言い終えると教室の扉を閉めてしまったし、
生徒たちもすぐにいつもの賑やかさを取り戻す。学校とはそんなものだ。
城乃内も気にした様子はなくコンビニ弁当を取り出した。
丁度真向かいに座った遊戯と、隣の席に座った本田は少し心配で口を挟む。
「城乃内―、おまえ一体何したんだよ?」
「うん、どうしたの?刈田先生ってことはテストとかのことじゃないよね?」
本田と遊戯が心配そうに聞くが、
とうの城乃内は本当にケロッとした顔で弁当を
口に詰め込みながら短く答える。
「髪」
「かみ?」
本田があっけに取られている隙にペットボトルのお茶を奪い、
飲み干してから頷く。
あ、俺の!!と本田が奪い返そうとしたが時既に遅し。
すっかり中身は空になってしまった。
「そうそう、この前服装検査があっただろ?
それで髪を染め直して来いって言われただけだぜ」
この学校は(無視されがちだが)校則で
髪を染色したりピアスをしてはいけなかったりと細かに服装を制限されている。
更に今年に校長が代わって、
いきなり服装検査や荷物検査なるものを実施し始めたのだ。
「そういえばあんた髪染めてたわね」
呆れたように杏子は口を開く。彼女も比較的地毛にしては明るい色だが
素行も良いし、周囲が強烈な人物が多いのであれこれ言われたことはない。
「もともとは茶色だったけどな。あれ、静香の色と似てる」
杏子が納得したように言ってちらっと遊戯と獏良を見る。
金髪に染めている城乃内があまりそういった意味で目立たないのは
この二人がいるせいだろう。
視線に気づいた遊戯は苦笑いしながら髪を弄くる。
「僕は遺伝だし・・でも最初は注意されたなー。
子供の頃の写真と親にちゃんと地毛だって
証明してもらったから何も言われないよ」
確かに遊戯の祖父もよく似た髪形をしている。
おそらく若い頃は色も同じだったのだろう。
「獏良もなんか言われたんじゃねぇのか?」
城乃内が気遣うように話を向ける。
獏良は時々学校に来ないことがあるので、
これを機に色々嫌なことを言われているのではないか、と考えたからだ。
だが獏良はのほほんとパンをかじりながらゆっくりと答えた。
「ん〜、僕?・・・僕も生まれつきっていうか、遺伝子の変異らしくて。
学校の先生がさぁ、そういう障害のことを色々言ったら問題じゃん?
見た目からしてアルビノってわかるし、無いやー」
アルビノというと、兎やらなんやらは何度か見たことがあったが
獏良がそうだとは思いもしなかった。
一同は物珍しそうにしたが獏良はさらに言葉を続ける。
「それに、生徒指導の刈田先生って何故か僕を避けるんだ」
その理由に思い当たりのある四人は深くため息をついた。
御伽はあまり事情が飲み込めなかったが、
何かを察してあえて突っ込んで聞くことはしなかった。
だが御伽の微妙な態度の違いに気づいた遊戯はこっそり耳打ちした。
「もう一人のバクラ君が・・色々やってさ。
刈田先生も人形にされたりしたんだ」
もう一人のバクラには会ったことがあるので、そこそこ納得できた。
刈田先生も、ということはおそらく遊戯たちも人形にされたのだろう。
どういう状況でそうなったか興味を持ったが、
「へぇ、大変だったんだね」と流す。
すると今度は杏子が御伽に話しかけた。
「そういえば御伽君も派手なピアスしてるけど平気だったの?」
彼の右耳にはサイコロを吊るす形になっているピアスがしてある。
何かあったのか御伽は顔をしかめる。
「うん、注意された。聞く気も無かったし無視しようと思ったんだけど、
父さんにばれちゃってさ」
父さん、という単語を聞いて遊戯はぴくっと反応した。
このメンバーの中できちんと御伽の父親を知っているのは遊戯だけだった。
あの父親はどうするだろうか?かなりの過保護っぷりだったので、
流石に御伽を叱りはしなかっただろう。
「学校に直談判したんだ」
それには一同驚いて、本田がついつい口を挟む。
「おいおい、普通息子に注意しないか?」
「うん、ただこのピアスって父さんがくれたものなんだ。
僕に内緒で学校に来て怒りだして収拾つかなくなったらしいよ。
・・・・・・・・それ以来先生も注意してこなくなった」
御伽は疲れたように明後日の方角を見る。彼も色々苦労しているらしい。
だが、それでもそのピアスをつけているあたり
父親のことは嫌いではないのだろう。
すると城乃内と本田が何かを思い出したかのようにぴたっと動きを止める。
二人はしばらく顔を見合わせ、それから意を決したように御伽を見る。
「この前、本田と補習受けてたんだけどよ、
帰りに『龍児は渡さんぞー!!!』って
泣きながら怒鳴ってるピエロ見たんだけどよー・・・・」
あれっておまえの親父?
妙な沈黙が流れた。
皆が御伽を見るが、本人はなかなか返事をしない。
遊戯は自分のことではないのに胸が止まり、
隣にいる御伽の顔を怖くて見ることができなくなった。
だが予想に反して、御伽は至極穏やかな声で笑った。
「はは、聞き間違いじゃないの?
そりゃ僕もゲームショップやってるけど、学校にピエロ姿で来る
変質者なんて知り合いにはいないよ!」
ねぇ遊戯くん?
そう言って遊戯に笑いかける御伽は眼だけが笑っていなかった。
「そ、そうだね」
「悪かったな御伽!いくらお前がゲーム屋やってるからって
ピエロはねぇよな!」
城乃内はそう言って快活に笑う。
杏子もつられて「そうよ、今のは確かに御伽君に失礼だわ」
と言ってくすくす笑い出した。
皆が笑い出し楽しい午後のはずなのに、
何故か遊戯の背中は冷や汗でびっしょりと流れていた。
余談
「なぁなぁ、一昨日海馬が来たとき偶々持ち物検査があっただろ?」
プライバシーを考慮してか、体育館に仕切りを作り
一人ずつ自分の手荷物を持って検査されたのだ。
遊戯もD&Mのカードを見つけられて僅かながら注意された。
・・僅かで済んだのは遊戯が名のある決闘者を押しのけ
頂点に立っているからだろう。
「出席番号が近いから海馬の後ろだったんだけどよ、
俺が入ったとき教師がみんな顔真っ青になってたんだ」
ありゃ拳銃でも入ってたんじゃねぇかなー。
本当に快活に笑う城乃内はらしいといえばらしいのだが、
「城乃内君、それは笑えないよ」
「笑えないわ」
「ってか本当に入ってたんじゃねぇの?」
あまりにもひどい遊戯たちのコメントに
獏良は苦笑しながら海馬のフォローをした。
「いくら海馬くんでも学校に拳銃を持ってきたりしないよ」
それに頷くことで賛同する御伽。
杏子がふと気づいたことを漏らす。
「あ、そっか。二人ともDEATH-Tをやってないから・・・」
それにあぁ、と三人も納得する。
獏良と御伽は首をかしげながら聞く。
「デスティ?そんなに海馬君の見方がかわるようなものだったの?」
「あいつアトラクションで俺らを殺す気満々だったんだぜ!?」
「それがデスティっていうの?」
「そういうこと」
きっと命の危機に晒されたのは本当なのだろう。
それでもこうして海馬と仲良くライバルをやっている
遊戯や、それを穏やかに見ている彼らは・・・・・・
御伽はそこまで考えて心の中だけで首を振った。
折角普通の学校生活をエンジョイしているのだ。
例え友人たちが普通でなくても、それを敢えて指摘する必要はない。
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