パシャン、パシャン
アカデミーの授業は午前中だけだった。
天気予報で雨が降ることはわかっていたが、
予想外の豪雨であった。
もう夕方みたいに辺りは暗くなり、
生徒たちは傘を差して足早に家へと向かう。
「あれ、ナルト傘持ってこなかったの?」
一人の少年が話しかけてきた。
同じクラスで、確か一番背の小さい男子だったことは覚えている。
薄い茶髪で、童顔。身長を含め実際の年よりもずっと幼く見える。
・・・・名前は忘れた。
「おう、家に置いてきちまったってば!ついてねーってば」
嘘だった。
予報を聞いて青い傘を持ってきた。
帰るときに気づいた。無くなっていたことに。
それでも、そんなことを微塵も気づかせないようにことさら明るく言った。
「・・・ふーん「おい!行くぞ!」
少年が途中まで喋っていた台詞は別の少年の声に遮られた。
ナルトが新たに現れた少年に眼を向けると、顔を背けられた。
それを見た幼顔の少年はナルトをちらりと見る。
「じゃーな、また明日」
そう言って少年は、少年たちは、ナルトを振り返ることもなく走り去ってしまった。
だが耳のいいナルトは、二人がくすくすと笑っているのはわかっていた。
青い傘。
別に大して高価なものではないとはわかっている。
どこにでもある傘だ。
初めて、三代目のじーちゃん以外の人間から貰ったものだったが。
・・シカマルが、くれたものだったが。
そう考えると目から温かいものが流れてきて、急にあの傘が惜しくなる。
もしかしたら、アカデミーの傘置き場に戻れば、青い傘が置いてあるかもしれない。
否、あるはずが無い。
あれだけ必死に探しても見つからなかったじゃないか。
もう一度見ることが出来たとしても、それはきっとボロボロに壊された姿だ。
諦めるしかない・・・・。
そう言い聞かせてはいるが、足は動きが鈍くなって、歩くのを止めた。
ザーザーと雨の音が聞こえる。
今まで全く気にならなかった雨音が、耳に心地よい。
いや、そんなことは今はどうでもいい。
もう一度、探してみよう。
見つかる可能性が皆無だろうがなんだろうが、あと一回だけ。
俺は今まで来た道を振り返って走り始めた。
いや、走ろうとした瞬間何かにぶつかった。
「・・・ってぇ。何するんだナルト!!」
お互い尻餅をついて、向こうが怒りながら俺の名前を呼ぶ。
シカマルの声が雨音にかき消されながら、それでも聞こえた。
「シカマル・・・」
もともと濡れていた俺も、傘を差していたシカマルも
激しい雨で、もうどちらも大差ないぐらい濡れて泥まみれだった。
シカマルは自分の荷物を背負いなおし自分の持っていた傘を俺に向けた。
「ったく、こんな雨の日に傘差さないなんて馬鹿だろ」
ぼーっとしている俺を無理矢理立たせて自分の傘に入れる。
「ずっと突っ立って、人が話しかけようとしたらいきなり振り向いて走り出すたぁ
タイミングいいよな」
と横で呟くシカマル。
「悪かったな、偶然だよ。・・・俺、ちょっとアカデミーに忘れ物探しに行くから。サンキュな」
俺はシカマルの傘から抜け出し、再び雨の中に出てきた。
さっさと走ろうとしたが、呼び止められた気がした。
振り向いてみたがシカマルはじっと俺を見て、
何か言いたそうではあったがそれ以上何かを喋る気配はなかった。
ただ俺に無言で近づいて、手を肩に乗せたと思ったらいきなり手刀をくらわせた。
気がついたら自分の部屋にいた。
布団の上に、タオルケットを1枚だけかけられた状態で。
髪は少し濡れていたが、服は取り替えられていた。
時間が気になって時計を見ると夕方の四時半。
窓から綺麗な夕焼けが見えた。
いつの間にか雨は止んでいた。
ふと、台所を見ると出した覚えの無い鍋があった。
蓋を開けると温かい湯気とスープの匂いが漂った。
・・・・・つい先ほどまでいたのだろうか?
もう、こんなに時間が経っていてはアカデミーに行っても無駄だろう。
ため息をつき、一杯だけスープを入れたマグカップを片手にテレビをつけて明日の天気予報を見る。
「・・・は、台風の影響で再び午後から雨足が強まるでしょう。また・・」
それだけを聞くとテレビを消した。
台風が近づいていることは元々知っていたがどうやら進路を変更することは無いらしい。
あの1本が家にある唯一の傘だった。
今更探しても仕方が無いので、俺は財布を持って代わりのものを買いに行く決心をした。
一応折角なので、スープは飲み干した。
トマトの酸味がよく効いて、身体が温まる。
細かく刻んだ俺の嫌いな野菜はいらなかったが、それでも美味しかった。
靴はぐちょぐちょに濡れていたのでサンダルを履き外に出た。
扉を閉めたとき、何か青っぽいものが立てかけられていたのがわかった。
・・・・・・・・・・青い傘だった。
名前も何も書いていないこの傘の持ち主を知っているのは
俺と、これを隠した連中・・・そしてシカマル。
あいつらがわざわざ返すはずが無い、俺でもない。
ということは・・。
「今日も台風が近づいているから午前中で授業は終わる」
イルカ先生の一言に教室が騒がしくなった。
皆、それを期待していたのだろう。
イルカが静かに!と一喝した。
「はしゃぐのは結構だが、間違っても外で遊んだりするなよ?
今日は五人も欠席している、昨日雨の中遊んでいたらしい。絶対真似するな!」
確かに教室を見渡すと、まとまって空いている場所がある。
昨日帰り道に会った少年たちも確かあそこら辺の席だった気がする。
ナルトは誰にも気づかれないように、熟睡しているシカマルを盗み見た。
当の本人も視線に気づき、顔だけを動かしじっとナルトを見返した。
「ありがとう」
口だけを動かし、ナルトはそう言った。
シカマルは口の端を僅かに上げて、再び眠る体制に入った。
「って、シカマル居眠りをするんじゃない!!!」
イルカ先生のチョークが飛んできた。
話のポイントはナルトの嫌いな食べ物を
細かく切ってスープに入れ、食べさせようとするシカのお母さんっぷり。(違っ)