秋が近づいているせいか、最近は連日空気が冷え込んで
真撰組の屯所でも冬用の布団を出している。
だが、今日は珍しく暑い日であった。
土方は一人、見回りと称して公園のベンチに座って煙草を吸っていた。
屯所には戻りたくなかった。
ここ最近、この時間になると何故か自分の部屋に銀髪が現れるからだ。
『多串くーん・・お腹減ったー、なんかちょーだい?』
武装警察に飯をたかる男・・・というか、何故自分の部屋に
入ってこられるのか不思議でならない。
誰も気づかないのか!?それとも気づいてて咎めないという
自分に対する嫌がらせの一つなのだろうか?
わざとだったら、隊士たち全員たたっ斬ってやろうと物騒なことを考える。
土方はポケットから出した新しい煙草に火をつけた。
この一本を吸い終わったら見回りにでも行こう。
そんな折、こちらに子どもが向かってきた。
何なんだ・・と思いながら何も言わず見守っていると、
その子どもはこちらを一瞥してから隣に座った。
どこかで見たことのある子どもだった。
・・・・・確か、あの銀髪とよくいる子どもだった・・・・・・気がする。
「おい」
土方が何とはなしに話しかけてみると
くるりと顔を向けた子どもは、片手を軽く挙げた。
「よぉ、多串くん」
しれっとした顔で喋る子どもに、土方は眉間を手で押さえた。
「それはやめろ」
「でも銀ちゃんがいつもそう言ってるヨ」
「あいつの真似ばっかしてたら碌な人間にならねーぞ」
それもそうアルね、と否定もせず頷く子ども。
・・・・・見た目は普通なんだがなー・・
土方は横目で神楽を見ながらそんなことを思う。
あの頭はともかく腕は確かな総悟と互角なこの少女。
そういえば、花見の際銀髪が『夜兎族』と言っていた。
戦闘においては素晴らしい力を先天的に持った部族・・と聞いている。
普通じゃないのはやはり総悟の方か。
「「・・・・・・・・・」」
会話が続かない。
もとより続ける気はないが、妙に気まずい。
土方は静かに立ち上がると、袖を引っ張られた。
「どこ行くアル」
「見回りだ・・・ってか放せ」
いくらなんでも子ども、しかも女に刀を向けるほど性根は腐っていない。
「私お腹空いてる。なんか食わせろよ兄ちゃんよー」
「銀髪に食わせてもらえよ」
「銀ちゃんだってお金無いから恋人の家に入り浸ってるネ」
「誰が恋人だ!!!!」
「そりゃあんたのことですぜェ、土方さん」
楽しそうな顔をした総悟がいつの間にか後ろにいた。
「いやー、まさか土方さんが幼女趣味だったとは思いませんでしたさぁ
 万事屋の旦那も報われねェ」
「・・・・・・・」
ここで何かを言い返せば余計に会話の雲行きが怪しくなるのは
長年の経験でわかっているので、土方はため息をついてだんまりを決めこんだ。
だがそんな土方を意外にも神楽が援護した。
「うっさいネ。これから私こいつに奢ってもらうから、おまえもどっか行くヨロシ」
「そっちこそうるせぇってんだ。土方さん、さっさと屯所帰りましょうぜ」
土方の目の前で睨みあい、一触即発な二人。
とりあえずここから脱出を試みようと、そーっと後退ってみる。
だが当然気づかないはずも無く、土方の両腕を二人が掴む。
「何逃げようとしてるネ」
「そうですぜぃ。何も逃げるこたぁないじゃないですか」
容姿だけは可愛らしい子どもたちがにやりと、
純真無垢という言葉とは正反対であろう顔で笑う。
何でこういうときだけ結託しやがるんだ!!
土方の心の叫び(ツッコミ)など、この鬼っ子たちに通じるはずが無い。




→ある喫茶店で。
「土方さーん」
「土方サーン」
「うっせぇぞ!・・・・ったく、何で俺がおめぇらに奢んなきゃなんねーんだよ・・」
「部下に奢ってやるのも上司の務めですぜぃ」
「そんな細かいこと気にするの、器が小さいアルよ」
「おまえら食いすぎなんだよ!!!全然細かいことになってねぇから!!」
土方は、店員に教えられた金額の桁の多さに頭痛を感じた。
「まあまあ、俺たちも食ってばっかじゃないですぜ?土方さんのためになることもしますさ」
「そうアル。例えば・・・あ、銀ちゃんとの愛のキューピッドになってあげるヨ」
「お、それはいい考えだ」
「・・てめーらいい加減にしろよっ!!!」