ある真撰組屯所の一室。
「で、銀ちゃんと多串くんをくっつけるにはどうすればいいアルかね」
お茶を飲みながらまるで我が家のようにくつろぐ神楽。
向かいには沖田が座っている。
「あ、多串くんってのは止めといた方がいいですぜィ。
最近それ呼ぶだけで刀向けてきやすから」
呼んだのか沖田。
「そんなことどうでもいいアル。じゃあトシちゃんで。
今日は具体的にどうやって二人をくっつけるか会議するアルよ」
当然、私議長ネ。と付け加える。
「ま、いいでしょう。ほら、山崎おまえもちゃんと席につきなせぇ」
沖田は呆然と立っていた山崎を無理矢理座らせる。
「って、えぇ!!?俺、偶然この部屋に入っちゃっただけですよ!?
何でこんな恐ろしげな会議に出なきゃいけないんっすか!!」
「見てしまったからには」
「入るアルよ」
絶妙なコンビの二人。
有無を言わせない迫力がある。
山崎は心で泣きながら力なく座った。
「で、議長はなんか考えがあるんですかィ?」
議長(神楽)は自信満々で親指を立てる。
プランA
「おいおいおいおい!!てめぇぶつかっといて謝罪もなしかよ!?」
「そんな・・そっちからぶつかってきたんじゃないですか!」
「あぁん?兄ちゃんよぉ、俺の仲間が腕折れちまったんだぜ?!
慰謝料出せってんだろ!」
「だーかーら、あんたらがぶつかってきたんだろ!!」
「なんなら身体で払ってもらおうか!?」
「きゃー助けてー!!」
「待てぃ!」
「だ、誰だ!?」
「ぎ・・・銀髪」
「土方は置いてってもらうぜ」(キラーン)
「なんなんだこいつ・・ともかくやっちまえぇ!」
「ふ・・・弱い!!」(軽くやっつける銀ちゃん)
「銀髪・・・・・」(すごく見ほれるトシちゃん)
「大丈夫だったか・・・・トシ」
・・・・・・・・・・・・・・。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
「どうアル。完璧ネ」
「そうですねぇ、これなら金もかかんないし・・いっちょやりますかぃ」
「ってあんたら何考えてんですかー!?無理でしょ、これ明らかに無理でしょ!!」
神楽と沖田が冷めた目で山崎を見る。
「全く・・これだから女っ気の無いムサ男は駄目ネ」
「おい山崎ぃ、こういう色恋ってのは女のほうが
男の俺たちよりずっと理解が深いんだぜぃ」
「ってか常識で考えてくださいよ!!」
「はぁ・・・どこらへんが問題あるのか言ってみろィ」
沖田にいきなり言葉を求められて焦る山崎。
しかし、ゆっくり深呼吸して考えを整理する。
「あの、まず副長が暴漢に絡まれたら・・絶対斬ると思います」
「じゃあ副長より強い設定にするアル」
「(何、設定って!?)大体・・あの副長が助けを求めますか!?」
「まぁ助けを求めなくても話は通じるぜぃ」
「・・・・こんな都合よくあの人が助けに来ますか?」
「銀ちゃんならできるヨ」
山崎は一瞬言葉に詰まった。
確かに副長が調子悪い時、いつもどこからともなく銀時は現れて
心配そうに声を掛ける。(それがかえって副長の体調を悪くしてるのだが)
「で、でも実行するには副長より強い暴漢探さなきゃいけないんですよ!?」
「おまえやるヨロシ、副議長」
「俺が副議長ですかィ?でも俺の顔、土方さんにはモロバレですぜ」
「む・・・・」
「副長が知らない人で、なおかつ強い人でしょう?探すのは難しいですよ!」
山崎が畳み掛けるように言うと、神楽はつまらなそうに頷いた。
「議長、他になんか考えないんですかィ?」
「とっておきのあるヨ。しかも簡単。これがプランBネ」
「な、何ですか?」
山崎がどもりながら尋ねる。
よほど成功の自信があるのだろぅ、余裕の笑みを神楽は見せる。
「既成事実作らせちゃえばいいアル」
僅かな沈黙。そして
「・・・・・・よしっ、それでいきますかぃ。山崎ぃ、文句ねぇなぁ?」
「大ありですよ!!あんたらもっと子どもらしい考え持てないんですか!!」
「うっさいネ、下っ端!私銀ちゃんも多串くんも大好きアル。
そんな二人にくっついてほしい思うのどこが子どもらしくないカ!?」
既成事実って方法に行き着く時点です。
山崎はすっと立ち上がりダッシュで部屋を出ようとする。
「あ、どこ行く気アル!?」
「副長にこのことを教えないと!身の危険です!!」
「させるかってんだぃ」
沖田が山崎にタックルして動きを止めようとする。
しかし勢いよくやったため、そのまま二人で襖を破ってしまった。
「痛たた・・・隊長何するんですかー!?」
「おまえがチクらず、心に留めておけば見逃してやってもいいんだぜィ・・・・ん?」
二人の目の前に二本の足がある。
別にここは屯所だ。他に隊士がいたって何も不思議がることはない。
だがこの目の前の人物・・頭上から凄まじい怒気を発しているのだ。
そりゃあもう、目が合ったら石になるかもしれないぐらいの。
「あ、トシちゃん」
後ろから神楽の声。
ああ、やはりこの目の前の人物は・・
「誰がトシちゃんだ!!・・・で、てめぇらはさっきから何の相談をしていたのかねぇ?」
「俺と多串くんをくっつける相談だよ」
その声にバッと振り返る土方。
予想通りというべきか、飄々とした風体の銀時が立っていた。
「な、銀髪!!おまえいつからそこに・・・!?」
「多串くんが三人の声が聞こえてこの部屋の前で立ち止まるあたりかなー」
後ろから抱きつきながらにこにこと答える銀時。
屯所内にストーカーがいました。
「って放せ、銀髪!!」
「・・・なあ多串くん。なんでうちの神楽がこんなに俺たちくっつけたいのかわかる?」
「・・・・・は?」
呆気に取られる土方。
只単に面白いからとか、そういう理由とも言えないような理由じゃないのか?
「神楽は親と離れ離れで一人で地球にやってきたんだぜ。
それでも時々母親が恋しくなることがあるもんさ。
でも新八の姉ちゃんは料理激マズだし、あのババァは妖怪だし・・
だから俺と多串くんをくっつけて、母親になってほしかったんだ」
嘘でしょ嘘。
今、神楽さん、はっとした表情で急いで悲しげな顔作りましたよ!?
・・と山崎は思うには思ったが、
この場の雰囲気がツッコミを許せる雰囲気ではなかった。
土方は神楽を見る。
涙目で、ちょっと気まずそうな神楽の顔。(嘘泣き)
普段だったら土方だって母親扱いされれば怒る。
だが子どもには甘い男、土方。
情にほだされかけている。
(副長・・騙されないで下さい!この子は副長に既成事実作らせようとしたんですよ!)
「おい、お前らそこで何やってんだー?」
この恐ろしい雰囲気を打開したのは、我らが局長だった。
「あ、近藤さん」
「おー、トシ!こんな大人数で廊下にたむろしてるの・・異様だな!!」
よくよく考えれば、この廊下をさっきから誰も通らない。
・・・異様な雰囲気に勘づいて避けているんだろう。
そうした雰囲気には鈍い近藤でさえ気づくほど・・異様だったんだろう。
「近藤さん。今すごいおもし・・大切な状況なんですぜぃ」
「・・・(隊長!!あんた今おもしろいとか言おうとしましたね!?)」
近藤が介入したことによって大分冷静になった土方。
「俺仕事あったんだ・・・」
白々しい台詞を吐いて脱出を試みる土方。
「そ、そうですよ副長。俺も副長に提出したい書類が!!」
それをフォローするように山崎が話を合わせる。
この場を離れていく土方を銀時が引きとめようとするが
「おい銀時!!折角来たんだからもっかい勝負しねーかぁ?
今度は負けねーぞ!!」
すごく嫌そうな顔をする銀時。
「あのさー、俺「さー道場行くぞ、道場!!」
見事銀時の言葉を遮って引きずるように持っていく近藤。
伊達に癖のある隊士たちの上に立ってはいない。
「・・ちっ、いいとこまでいったのに」
「そうですねェ。あと少しだったんだけどなぁ」
「・・・このまま帰るのもすごい癪アルよ」
「んー・・じゃあ、土方さんの飯でも食べてきますかィ?」
「トシちゃん本当にお母さんアルか?」
「マヨネーズさえ入れさせなきゃ美味いですぜ」
「じゃあ行くヨ」
煙草を吸って休んでいる土方の部屋に、この二人が突撃するのはあと五秒後の話・・。