犠牲者

 


「ほー・・・、そりゃ大変だな」
「・・・・ちょっと、あんたちゃんと聞いてんの!?」
アンコにバシンと背中を叩かれた。

ゲンマは久しぶりの休暇だった。
ずっと任務詰めでなかなか家に帰れないほど忙しかったが、
やっと・・やっと一日の休みをもらえたのだ。
今日は家の掃除をして、そしてちょっと豪華に外食でもしてみようかな。
そんなささやかなプランを立てているとき、偶然にもアンコに出会った。

「あら、ゲンマも今日休みなの?」

ゲンマの穏やかな一日は、この一言で早くも瓦解することとなった。


「・・・ってわけでさぁ、いきなりそんなこと命じられても困るわけよ」
愚痴をつらつらとこぼし始めるアンコ。
かなりの鬱憤が溜まっていたようだ。
それを半ば聞き流していたゲンマ。
勿論、あのアンコがわからないはずがない。
そういうわけで最初のやり取りに戻るわけだが、酷い。

「っててて・・・聞いてるぜー?」
「嘘つきなさい、ったく役に立たない男ねぇ」
背中をさすりながら言い返してみたが、ピシャッと毒をもって言い返される。
憮然とした面持ちで腕を組むアンコ。
その背後には夜叉・・・いや、なまはげが包丁を持って立っているように思える。
ゲンマはため息をついた。

これで、結構いい女だということは認める。
たとえ暴力的だろうが怪力だろうが
本当にきついときは驚くほど細やかな気配りもできる。
甘いものが好きだが、太ることを気にする女らしい一面があることも知っている。
だが、こういう時のアンコはどうしても女だとは思えない、認めたくない。
いつだったか、愚痴を言いながらエビスの肩の関節を外したと言う事例もある。
更にいつだったか、ハヤテをどつき、彼は咳と共に血を吐いたという事例もある。
ともかく・・・・愚痴を言うアンコに付き合うのは、並大抵の任務より危険を伴う。

ゲンマは心の中で神に祈った。
普段祈るなんて面倒だなぁ、というか俺無神論者だしぃ?とか思っているゲンマが心から祈った。
『誰でもいい、助けてくれ』、と。
その祈りが本当に通じたのかどうかはわからないが、
彼に救いの手が差し伸べられた。

「あら、コノトにカノコ?」
前方に、青年が二人。
古本屋の前のセール品の籠を
楽しそうに物色している普通の青年たちに見えなくも無い。
アンコは気軽そうに二人の肩を叩いた。
「やっほ、あんたたち何してるの?」
「げ、アンコさん」
「呼び捨てでいいって言ってるでしょ、カノ・・」
「ストップ!!こんな街中でそれ以上俺たちの名前言わないっ!!」
これでも俺たち顔もわからない正体不明の暗部で通してるんだから。
・・こそこそとアンコに耳打ちするコノト。傍から見てもかなり怪しい。
「・・・・あー、そうだったの。そりゃすまなかったわね」
「全く・・・・あぁ、ゲンマもいたんだ」
「おい、そりゃ酷くないか?」
「冗談だよ。で、お二人さんはデート?」
「・・・・・すまん、それマジで勘弁してくれ」
コノトの楽しそうな問いに、顔を青くして答えるゲンマ。
「ちょっと、何よその反応!?」
「・・俺もゲンマの反応わかるかも・・・・」
「カノ「だから言わないでって言ってるじゃないですか!」」
「・・じゃああんたたち、それどういう意味よ!?」
「「「どういう意味も・・・・・ねぇ?」」」
声をそろえる男性陣。
「あーもう、ただでさえムシャクシャしてるのに!!今日は飲むわよっ!
 ・・・・勿論、あんたたちも付き合うんだからねぇ?」
こんな状態で飲んだら・・物凄く荒れそうだから嫌だなぁ、とのんびりと思ったりするコノト。
「なぁゲンマ。何でアンコあんなにイラついてんだ?」
「ああ、なんか中忍選抜試験の試験官にされたせいで
 しばらく裏の任務入れてもらえなくなったから・・・らしいぞ」
ビシッ、とコノトとカノコの穏やかな雰囲気にヒビが入った。
だが幸いにもゲンマは気づかなかった。
「・・・ゲンマも?」
「いや、俺は違う。でも確か、ハヤテとイビキも試験官だったなぁ」
ビシビシッ、とまた背後のオーラが奇妙な音を立てる。
やっとゲンマもその異常に気づく。
「どうしたんだ、二人とも?」
「いやー・・・・へぇ、そうか、アンコが中忍試験の試験官かー」
「・・似合わねぇなー、と思っただけさ」
「今年の受験者が可哀想だなって思うな・・・」
「そうだな・・・・可哀想だな、今年の下忍」
お互いを見て、自嘲的な笑みを浮かべるコノトとカノコ。
ゲンマは特に何も考えず明るく同調する。
「だよな!?俺も絶対アンコには合わない仕事だと思うわけよ」
「うっさいわよ!!ほら、行くわよ」
アンコは三人を一喝して一番近くにいたカノコの腕をひっぱる。
苦い顔をするカノコ、だが決してアンコの手を振り払ったりはしない。
「あのー・・・まだお昼なんですがねー」
「そうね・・さすがに昼はやってないか。よしっ、ゲンマこれからあんたの
家に行くから酒の用意しときなさい!」
「ちょ、俺の家で酒盛りする気かぁ?」
「何?文句なんてあるの?」
迫力のある目で凄まれては、首を横に振るほかない。
「・・・・はぁ、じゃあ俺たちは酒屋でなんか他に酒でも買ってくるから、
 ゲンマ・・・・・・頑張れ」
コノトに肩をぽんと叩かれ、無性に泣きたくるゲンマ。
だが、コノトの台詞はまだ続いていた。
「ああ、イビキとハヤテも連れて来いよな?」
「・・・・・・・・・・・いや、あの二人は任務だから」
ゲンマの言葉に、コノトはカノコを見やる。
その視線を受けて、カノコは笑いながらゲンマに言う。
「ゲンマ、任務っても、確か午前中に終わる任務じゃなかったか?」
「・・・・・・なんでおまえ知ってるんだよっ!!」
「友達を売りたくないっていう、ゲンマの心意気は立派だったよ。
 ・・でも、(アンコの犠牲者は)多ければ多いほうがいいだろ?連れて来い」
ゲンマの問いを綺麗に無視して、コノトは畳み掛けるように説得する。
遠くからアンコの声が聞こえた。
「ちょと、買いに行くならさっさと行くわよー!?」
「待ってくれって・・・・んじゃ、またな、ゲンマ」
にっこりと微笑んで立ち去っていくコノト。
ゲンマの眼からはキラキラと涙が零れ落ちた。
「・・・すまん、イビキ、ハヤテ!!俺は無力だ・・・・・」







天間様へ 「下忍のスレナル&スレシカ&特別上忍のギャグ」
色々と失敗してしまいましたが、開き直りでアップしました。
しかもギャグというよりはほのぼのに。(どこらへんがほのぼのか言ってみろよ)
天間さまー、こんなんじゃ駄目ですか?
アンコ姉さんが最強の話だし・・・
と、とりあえず代リクありがとうございましたー!!

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