俺とナルトは似ている部分も多い。
同い年で、同性で、異能とも言える突出した能力があって、
最近じゃ同じように暗部をやって、コンビを組むようになって、
まあ、ともかく、色々似通ってるからこそこうしてつるんでいるわけだが。

だが俺は、今日この日まで、ナルトとの致命的な違いに気づいていなかった。
あまりに当たり前すぎて、俺にとっては当然の『日常』

ナルトは生まれたときから家族がいない、九尾のせいで里人に排除されている。
その事実を知りつつも、あいつがその環境にしてあまりにも普通だから、
きっとこいつにはこいつなりの『一般的な日常』があるのだと勘違いしていた。


その勘違いに気づいたのは、俺が初めてナルトの家に招待された日のことだった。




少しだけ仏頂面のナルト。といっても俺から見ればそれはただのフリだ。
こいつも初めて家に人を招いて、どういう態度をとればいいのかわからないのだろう。
俺はスーパーで買ったスナックとジュースを手土産にドアを潜る。


そこは、非日常の世界だった。







「………シカマル?」



ナルトが怪訝そうに俺を窺う。少し不安げだ。
この瞬間、俺の態度によっては、
きっとこいつは二度と人を招きたくなくなるぐらいのトラウマを負うかもしれない。
だから、最大限、俺は気を使うべきだ。
こいつは普通じゃない。そんなの、わかっていたことだろう。
ちょっと想像していたのと違ったぐらいで、何を動揺している奈良シカマル!


「……あのさ、もしかして、俺の家って、何か変?」



ナルトの声が、心なしか震えている。
そんなことないぜ、と俺は何とも無いように言えばいい。ただそれだけ。
ああ、ただそれだけなのに何故それが言えない。

いや、でも、これはナルトの人生に関わることだ。
俺が口を出さなければ、きっと、誰も何も言えないだろう。
(何せこいつは俺以外を家に入れたことがないらしいのだから)


俺は、意を決して、ナルトに向き合った。









「掃除するぞ、ナルト」











ナルトは、俺の言葉に、こてんと首を傾げた。



「誰か殺すの?」
「それは正しい意味じゃねぇぇええ!!!」

思わずいつものツッコミの要領で頭をどついてしまった。
叩かれたナルトは一瞬むっとした表情を作るが、
俺が何に対して怒っているのかわからないので文句は言わない。



「ああ、もう、ひとまずゴミを……ってゴミ袋がねぇ!!
 洗濯は…………おい、洗濯機が無いが、お前、いつも服、どうしてるんだ?」
「風呂に水溜めて、つけて、乾かす」
「洗剤も……いや、洗濯機も必要だな。雑巾はそこの汚いタオル使うとして、
 …………食器も洗えねぇよこの家!!!おい、ひとまず買い物行くぞ、ナルト!!!」
「えー、何でそんなにカリカリしてるのシカ」

何でお前はこんなゴミ屋敷に住めるのか、謎だよ俺は。

「………おまえさ、普段スーパーとかで何買ってるんだ?」
「んー。トイレットペーパーにティッシュ。あとカップラーメンと牛乳!」
「そんなんで生活していけると思うなぁぁぁぁぁぁああ!!!」
「生活できてるじゃん!」
「おまっ……ああ、もう、いい!ともかく買い物だ買い物!」







その後、何とかこいつの生活習慣が一般レベルに回復するのに一月掛かった。
流石に飲み込みが早い。
ナルトも、改善された生活の方が住み心地がよいらしく、今も何とか維持している。
是非とも続いて欲しい。




…………………持続どころか、このナルトがいつの間にか主婦の生活の知恵と節約術を
マスターする日が来るとは、この時の俺は想像すらできなかった。






080104


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