午後三時三十分

「今日ティッシュと牛乳の特売じゃん!」

木の葉の超天才忍者コノト、別名うずまきナルトは、
その多額の収入からは考えられないほど、節約に徹した生活をしていた。
本人曰く、主婦の節約術は続けるとクセになるらしい。
初めてナルトの家に招かれた頃は素晴らしいゴミ屋敷に案内された気がするが、
人間とは変わるもの、いや、成長するものだ。

「シカ、お一人様一つだからお前も来い!!」

シカマルは半ば強制的に商店の大通りへと引きづられつつ、
こいつが充実してるならまあ付き合ってやるのもいいかと思った自分に呆れる。
無意味なことには時間を割かない主義なのだが、大概自分はナルトに甘い。




午後四時


「タイムサービス! 卵2パック!!」

店のセールを、所詮ナルトの道楽と考えたことを改める。
これは、戦場だ。
家族を守るのは男の務めだと育てられたが、日々家を支えているのは……女。
逞しい腕と気迫に、人間の本質的な強さを見た。




午後四時二十分


「あらシカマルじゃない。あんたこんなとこで何やってんの」
「母ちゃんに……父ちゃん」

偶然にしては高確率だった。元から、母親はバーゲンやセールに目がないのだから。
隣で口うるさかったナルトは急に静かになって距離をとる。
うちの両親に警戒、というよりは、遠慮しているのだろう。
だがいくら無関係を装ったところで、主婦の密集する中に子ども二人は、目立つ。
母親は目ざとくナルトを視界に入れて微笑んだ。

「そちらの子は?」
「友達のナルト。こいつ独り暮らしだから、買い物に付き合ってた」
「あらそうなの。シカマルと同じ年ぐらいなのに凄いわねぇ。あんたも見習いなさい」
「へいへい」

流石にナルトのことを知らないわけがない。
だが、快活に喋る母は勿論、親父も…無言ではあるが嫌な感情はない。
ひとまず、家族と友人の間で修羅場が起こらなかったことにほっとした。

「ナルト君? いつもうちのシカマルが迷惑かけてるでしょう」
「あ、いえ。俺のほうこそ、いつもお世話になってます」
「一人暮らしってことは、ご飯も自分で作っているの?」
「はい。時々、ラーメンとか食べますけど」
「………おまえも、一楽が好きなのか?」

親父がぽつりと零した質問に、ナルトは不思議そうな顔をした。

「俺『は』一楽、大好きです」
「そうか」

妙に寂しそうに笑うものだから、
一体誰とナルトを重ねているのか聞ける空気ではなかった。
誰もが喋るネタが尽き、沈黙になったところで一拍一呼吸。
母と親父が息ぴったりで同時に口を開いた。(会話の癖は夫婦で似てくるらしい)

「今晩、うちに来ない? ナルト君」「今晩、うちに来るか?」













午後五時三十分


奈良家の居間にある薄橙のソファに座るナルト。
その左隣に配置されたソファには、シカマルの父親が肘掛に腕全体を乗せて寛いでいた。
母親とシカマルは台所で夕飯の支度をしていて、居間には二人きり。

(き、気まずい…………!!)

思えば『ナルト』として大人に接するのは、そう多くない。
ましてや友達の親なんて肩書きのある人にどう接すればいいかなんて、わからないのだ。
だからナルトは借りてきた猫のように大人しく、相手の出方を伺っていた。

「なぁ…ナルト、君」
「なんですか?」
「…………飯はもう少しでできそうだなぁ」
「そうですね」

あ、まただ。
どういうわけかこの人は自分の名前を呼ぶときに、同情めいた視線を向ける。

「うちの母ちゃんの飯は美味いぞ。野菜たっぷりだが、美味い」
「わぁ、楽しみです」
「ナルト、君は、一楽が好きだと言っていたが、
 栄養はバランス良く摂らんといかんし、いつでもうちに来ていいんだからな」
「は、はい」
「子どもなんだから遠慮なんて以ての外だ」

奈良のおじさんは相変わらず名前を躊躇いながら呼ぶ。
でも、会話の内容はとても友好的。(俺の食生活の改善に必死だ)
罪悪感からか、それとも、誰かと重ねているのだろうか。
後者であれば雰囲気がよく似ていると噂の父親、四代目の可能性が高い。

「あの、おじさん。俺って、誰かに似てるの?」
「………何でそう思ったんだ?」
「いや、なんとなくっていうか……おじさんが凄く懐かしそうな眼をしてるから」

その反応から見て、ビンゴだ。

「…ああ、悪いな。昔の知り合いに雰囲気が似てたんだ」
「どんな人だったの?」

やはり四代目?それなら是非とも話を聞きたい。
三代目からある程度人柄は教えられたが、多分、良いように脚色している。
英雄ではなく生の人間として知りたいのだけれど……
一番よく知っていそうな師の自来也は里外で放浪中、
弟子のカカシはその話題には頑なに口を噤む。

「……とてもいい人だった」
「へぇ」

故人に述べる印象としては、随分と一般的な言葉だ。
あまり深い仲では無かったのかと、少し残念に思う。

「だが、俺はあの人がしたことを、全部正しいとは思えない」
「何をしたんですか?」

知らないほうがいい、と頭を撫でる。
また、俺を哀れむような瞳。
恐らくその『とてもいい人』が犯した過ちとは……

「だからこそ、せめて小さいうちは、ラーメンばっかり食べちゃだめだぞ」

…………九尾のことじゃなかったらしい。
すごく、肩透かしを食らった。この人は絶妙なタイミングでひとの期待を外す。
大体、ラーメンで過ち?何なんだ。


「親父、ナルト。飯できたからさっさと来いよ」
「ちゃんと食べる前に手を洗いなさいねー」

シカマルとおばさんの呼びかける声で、おじさんは自分が喋りすぎたと気づいた。
話なんてしてなかったみたいに打ち切って、俺を手洗い場まで案内。
結局詳しいことは聞けなかった。



午後九時

子どもは寝る時間だとシカマルの部屋に布団を引いて押し込められる。
夜の仕事もなかったのでそのまま就寝。
枕を並べて今日の気になったことを話したが、
「何かくだらねー匂いがぷんぷんする」と一蹴された。












070114:書き直しました
050324:作成


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