「・・・・・・・・・・何をしているんだい?」


後ろから誰かに声をかけられた。
オカリナじゃない、若い男の声。
叱られるのではと慌てて振り向けば、ベースが立っていた。
いつも喋る首じゃなくて、それを持ってる男の方。
病気のように青白い肌は相変わらずだが、普段より生気のある藍色の瞳。
本能的にこのベースは自分を怒らないと感じ取って、返事をする。

「お母さんを見ているの」
「この人が君のお母さん?」

その質問に違和感を感じたけれど、とりあえず頷いた。
ベースがこの部屋に母を置いた張本人だろうに。
私の疑惑の視線に気づいて、ベースは苦笑いで誤魔化した。

「多分、そのときは寝てたんだと思う」
「寝ながら動けるのか?」
「僕はできるんだよ」

なるほど。眠りつつあれだけ動いて指示が出せるなら、
さぞ効率的で有能な仕事ができるのだろう。
流石魔族たちを束ねるだけある。
感心していると、ベースも隣までやって来て母の水晶を見上げた。

「美人な人だね。君はお母さん似だ」
「嬉しくない!」
「どうして?」
「・・・・・・・・・・」

純粋に見返される瞳に、ぐっと言葉が詰まる。
嫌いなのだと、憎んでいるのだと答えれば彼を傷つけてしまう・・・
冥法王相手に下らない気遣いだとは思うが、そう思った。
だから答え代わりに質問を返す。我ながら拙い手だ。

「ベースの母上はどんな人なんだ?」
「うーん・・・難しい質問」
「何それ」
「今思うと、あまりに理想の親子で嘘くさかったかも」

お互い無意識だったからなぁ、と懐かしむように笑う。
理想の母親の何がだめなのか理解できなかった。
いや、それよりもベースの母親が理想だとは全く想像できない!

男は微笑を崩さず私の頭を撫でた。優しい手つきで。
何だかいつものベースとあまりにも違いすぎて、
思ったことをそのまま口に出した。

「もしかしておまえ、ベースじゃないのか?」

荒唐無稽だと思いつつも、言葉が止まらない。
魔族しかいない北の都に自分の同属がいるわけはないのだが、
それでも、この男は他の魔族と何かが違う気がした。

「んー?」
「私と同じで・・・・・天使なのか?」


男は黙り込んで、私の頭を撫で続ける。
誤魔化すなと真剣に見上げると、哀しげな笑みを浮かべられた。



「ごめん。僕は魔人なんだ」



そろそろ帰らないと、ベースにもオカリナにも怒られてしまうよ。
そう言って繋がれた手は氷のように冷たくて、

何故だかとても、悲しかった。









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