ある新月の夜、ナルトとシカマルは森の中を歩いていた。
別に二人で仲良く散歩をしているわけではない。
サコウに頼まれて、厳密に言えば任務としてこの森にいるのだ。
といっても詳しいことは何も言われずただこの森のある場所にこの風呂敷を持って行けと言われただけだ。
風呂敷も大して重いものでもなく、直接渡されたシカマルが今は担いでいる。
「ここだよな?」
「そうだ、と思うが」
大きくは無いがそこそこ拓けた平地で、二人は近くの木の根元に腰を下ろした。
里の明るさも賑やかさも少し離れたここには届かず、静かで虫の音がよく聞こえる。
ナルトは心地よい音に目を瞑り木の幹に身体を預けながら聞き入った。
シャラン、シャラン。
「・・・なぁシカ、鈴の音が聞こえないか?」
同じように目を瞑って眠る体制に入っているシカマルに横から尋ねる。
「ああ、聞こえた。何だろうな」
しばらく集中して鈴の音を再び聞こうとしたが、やはり虫の音しかしない。
気のせいだったか、と周りをぐるっと見渡すと小さな明かりが見えた。
「なぁシカ、火が見えるんだけど気のせいか?」
先ほどと同じような台詞を口にするが、先ほどと状況は明らかに違っていた。
「俺にも見えてるぜ?・・・ついでに結構な数に見えるな」
そう、無数の火がこちら側に列となって向かってきているのだ。
身構えて戦闘態勢に入ろうとするが、もしかしたら依頼関連の人なのかもしれないと
思い直しクナイをしまった。
無数の樹木の間から最初に出てきた明かりの先頭は、真っ白な美しい狐だった。
そこからどんどんと出てきて、あっという間にぐるりと二人の周りに輪を作った。
「・・・・ナルト。これってもしかして嫁入りの参列じゃ」
「奇遇だなシカ、俺も全く同じことを考えていたよ」
二人は互いの顔を見ながら引きつった顔で笑う。
まさか、よりにもよって狐の嫁入りを見てしまうとは。
大抵この後は八つ裂きか呪われるか、と相場は決まっている。
倒すことも出来るがそれで里まで襲われたらどうしようもない。
とりあえず交渉だけでもしてみようと二人で最初の白狐を見ると
「・・・やはり、あなたがあの吾子殿でございますか!」
その白狐はいきなり嬉しそうな声でそう言った。
「「は?」」


「・・・・えっと、つまりお前たちは九尾の狐さんの遠い親戚なんだな」
「そうです、血のつながりは薄いのですが九尾殿には大変世話になりました」
ナルトがそう言うとシカマルに視線を向けた。会話のバトンタッチといったところだ。
「それで今回結婚することになって是非とも九尾さんにも参列して欲しかったんですね」
「ええ、勿論九尾殿が封印されてしまったことは存じておりますが。
 それでもなんか生きているみたいですし、なんなら器の吾子様ごと列席してしまえばいいかと・・」
アバウトだなぁ、おい。
二人は同時に全く同じことを思ったがかろうじて顔には出さなかった。
「・・まさか、サコウさんに来させるよう頼んだんですか?」
「ええ、このことを相談したら任せろと」
するとナルトが困ったように白狐に話しかけた。
「でも俺たち正装着てこなかったし・・こういう大切な祝儀には」
はっと何か思い当たったらしいシカマルが風呂敷を解いた。
・・中にはきちんと二着分の真っ黒な着物が入っていた。しかも紋入りである。
狐は楽しそうな声で「ささ、お着替えください」と勧めた。
ナルトが呆然としているとシカマルが口を挟んだ。
「俺はやめておこう。ナルトはともかく俺は狐殿とはなんの関係も無い人間だからな。
 あなたがたも嫌であろう?人の匂いしかしない者が混じっているのは」
もし自分とシカマルの立場が逆転していたら自分も同じことを言っていただろう。
それだけ人間と妖魔・・化け物と呼ばれる類のものとの関係は良くないのだ。
「いや、ご心配には及びません。私たちは他と違いそこまで人間嫌いではありません。
 何よりあなたはこの吾子殿の大切な方のようですし」
数匹の狐が風呂敷を持って二人の側に寄った。
どうやら着付けを手伝うつもりらしい。
「・・・・・・・・・・わかった、ただし俺たちから条件がある」
ナルトが地を這うような低い声を出す。
ごくっと唾を飲む白狐の頭をぽんっとシカマルが軽く撫でた。
「「名前で呼んでいいし敬語もいらないから」」


着替えた二人は和装がよく似合っていて、狐たちも感嘆の声を漏らした。
あまりにも早く周りに溶け込んでしまったのも理由の一つであっただろう。
「へー、この子が奥さん?美人じゃん・・あれ、列にはいなかったよな?」
「そうだよ、こっちでは宴のときに嫁が登場して参列者に紹介、という流れなんだ」
白狐の隣には鮮やかな花嫁衣裳をと化粧をした白い狐がいた。
美人、という言葉に花嫁は頬を赤らめている。
ナルトはそれを見てちょっと拗ねている白狐に笑いながらちょっかいを出して逃げた。
一方シカマルはというと、他の参列者を酒を酌み交わしていた。
「うわ、これってあの北部の地方でしか取れない銘酒じゃんか」
「雪咲だ、よく知ってるなぁ小僧、でも酒は成人してからにしろよ!」
子ども扱いしながら嬉しそうに杯に入れて飲む狐を軽く睨んでポケットから小さな布袋を取り出した。
中を開けて見せると、そこには様々な木の実や豆類が入っていた。
「な、これは・・!」
「そう、あんたら明葉山から来たんだろ?向こうにはナッツとかつまみになるものが無いんだろ。
 酒の肴にはぴったりなのに可哀想―」
「・・・・・・・・・・・・・・・坊ちゃん、こっち来いや」
にやりとシカマルは笑って隣に座り杯を受け取った。


「今夜はありがとう。ナルトとシカマルのおかげで大変楽しい宴になった」
「・・いや、こっちこそ悪かったな。本当は九尾に来て欲しかったんだろ」
ナルトが暗い顔でそう言うと白狐は首を横に振った。
「本当に二人に感謝してるんだ。何か、また別の宴を開くときはまた誘っていいか?
 今度はナルトとシカマルっていう個人としてさ」
「「勿論」」
笑い合いながら歩いていくと、白狐は立ち止まった。
「私がついてこれるのはここまで、ここからはナルトたち人間の領域だ」
「おぅ、嫁さんも待ってんだろ?じゃあな!」
「・・ナルト」
手を振りながら里に向かおうとすると白狐が呼びかけた。
「私は、年は100を越えているがこっちではまだまだ子どもといっていい。
でも、これから何年もかけて、強くなって、長になるつもりだ。
それでまた人と共存できるような世界を作りたい」
だから、
「二人ももっと強くなって、そっちで火影になれよ。
 両方の長が友達なら二つの種族がまた助け合う関係になれると思うんだ」
妖魔の世界がどんなものなのかは知らないが、
夢を語るその姿は人間のそれと全く違いが無かった。
ただ真っ直ぐと自分の夢に向かって歩もうとする目も。
ナルトは穏やかに微笑んで、そしてそれを隠すかのように豪快に手を前に出した。
「俺は絶対火影になる!勿論里人も全員認めるような!!」
白狐がナルトの手の上に自分のてをバシッと重ねた。
「私は強くなって長になり、人と共存することを説得する!」
シカマルは今まで二人のやり取りを黙って見ていた。
ため息をつきながら、だがしっかりと自分の手を重ねた。
「めんどくせーけど、俺は火影の補佐になる。ついでに・・てめぇらが背負うことになる
 くだらねーこと出来るだけ引き受けてやるよ」


月のでない漆黒の夜、三人は誓いをたてた。
大人たちが無理だと言って鼻で笑い飛ばすような夢を
必ず果たそうと誓いあった。






「サコウさん、昨夜はよくもはめましたね?」
「おやシカマルこんにちは。狐の嫁入りを見れただろう?」
「ええ、おかげさまで」
「いやー、私は元々奥さんの方と知り合いでね。子供の頃から知っているから
 結婚してしまってちょっと寂しい感じがするなー」
「サコウさんって・・・・人間ですか?」
「ははは、さーて今日はいい天気だから散歩に行ってくるよ」
「・・・・・・・・・・(質問に答えてないし)」