「なぁ、七班はどうだ?」
湯気を立てたほうじ茶とどっかでお徳用に売ってる煎餅。
奈良家の縁側で寝転ぶ俺の隣に座るシカマル。
俺は結構、味覚に自信が無いというか、食事はどうでもいいんだけど
面倒くさがりのシカマルはめっちゃくちゃコダワリ派グルメな人間。
茶一つ入れるのにも湯飲みを先に温めるだの
熱湯より少しさめたお湯で少し茶葉と馴染ませるだの、
俺にはさっぱりわからないこだわりがあるらしい。
(普段の食事は俺より頓着無いくせに)
ひとまず、煎餅に手を伸ばしてシカマルの問いに答えようと思考を巡らせる。
「どうって、別に普通。サスケとサクラはアカデミーと大して変わってねぇし、カカシも、まあ普通」
「へぇ、カカシ上忍が普通、ねぇ?」
シカマルは妙な含みを持たせてにやにやと笑っている。
何だっていうんだ。
こいつの反応からして、七班のことを聞いたのは明らかにカカシの話題に持っていくためで。
だが、今のところカカシはごく普通の標準的な担当上忍だ。
(勿論、木の葉でもトップクラスの腕で一目も二目も置かれてはいる)
「・・・で、カカシが何だってんだ」
「いや、ナルトはあいつのことどう思うのかなーと思ってよ」
「んー。エリート上忍って呼ばれてる割には情に厚いというか、
一旦懐に入れちまうと何だかんだで甘やかす傾向があるな」
これでも上忍観察は欠かさないようにしている。
何かと情報の切り札は多いほうが便利。
(どっかの陰険腹黒眼鏡のスパイも似たような趣味を持っているらしいが、一緒にしないでほしい)
シカマルは「そうかぁ」と適当に言ってるけど・・・・・・・・・絶対何か隠してる。
何だろう、実は俺の暗殺計画でもしてるのかな。
九尾の事件で死んだ四代目は、師匠だったらしいし。
それとも里抜けだろうか。
木の葉は結構人使い荒いし、納得。
他は・・・俺たちの正体に・・・・いや、それはない。
何だっていうんだ。どれもありきたりすぎて、逆にこれといって合わない。
「こうさーん。それで、カカシ上忍がどうしたわけ?」
「あの人なぁ」
「うん」
「子ども好きなんだ」
とてん。ばしゃん。
「あーっつぅぅぅぅぅ!!!!!」
下らなすぎてずっこけて、お茶が思いっきり足にかかった。
地味に熱い。そして一人コントが恥ずかしすぎる。
シカマルはおいおい何やってんだよって呆れてるけど、ぶっちゃけお前のせいだ
し。
ひとまず自分を落ち着けて。
クールダウン。
俺は誰だ?俺様何様ナルト様。
「・・・それで?」
「ん?」
「ほら、カカシ先生が子ども好き」
「あー」
シカマル、今の数分で忘れかけてたな。
自分で話題振っておいてなんて奴だろう。
「別に、指導者としては子どもが好きなんて悪いことじゃねぇだろ」
とりたてて言うことでもないし。
任務に支障をきたすなんてこたぁ滅多にないだろう。
子どもを殺すなんて胸糞悪い任務も無くはないが、
カカシぐらいならそれは割り切っているはず。
「何ていうかなぁ・・度が過ぎるというか」
「例えば?」
「七班の任務、妙に子守とかアカデミーの手伝いとか多いだろ」
「・・・・・」
「カカシの部屋には大量のフォトアルバムが隠されていて、
主なのは昔任務で長期隠し撮りしたナルトの・・・」
「ちょっと待て、誰だそんな依頼したの」
「そんな人、俺は一人しか思い浮かばないけど?」
「・・・・・・・くっ」
俺は、メモとして使っているスケジュール帳を出して、
今日の日付に新たな予定を忘れないように書き加えた。
火影シメる
「・・それでさ、結局カカシは俺が好きなのか」
任務で世界を渡り歩けば、様々な嗜好を持った人間と会うことになる。
同性や、自分より遥かに年下の人間しか愛せない性癖があることも、知識としては知っている。
まさかダブルパンチの人間が身近な知り合いにいたとは思わなかったが。
「いや、別にそういう意味で好きってわけじゃなくてだな」
「・・・・・・?」
「俺の知る限りキバ、サクラ、サスケ辺りも写真撮られてたし。
他人の性癖に一々口出すのも面倒臭ぇけど、一応『ノーマル』だとよ」
「ってことは」
「本当に純粋に、子どもが好きってだけらしい」
うっわ、逆にやりづらい。
不純な心持で手を出してくれるなら、こちらとしても心置きなく潰せるのだが。
子ども好きって何なんだよ。イルカ先生タイプ?
「ま、度が過ぎてるから一応気をつけろよ」
シカマルはそりゃあ楽しそうに俺を労わって肩を軽く叩いた。
世界にこれ以上面白いことは無いってぐらい明るい笑顔だ。
そうだよね。君は俺の不幸が一番の喜びだもんね。この性悪め。
アスマ班である以上ほっとんど係わり合いにならないから他人事だもんな。
・・・・・・・・だったら、話は簡単だ。
「ちょっと出かける」
「・・・・何しに行く気だ?班替えは、無理だぞ」
「そんなことしない」
「しばらく、アスマ班と合同任務にしてもらうだけ」
俺たち運命共同体。
だったら、困難も一緒に乗り越えて行こうじゃないか。
毎日歯磨きを欠かさない白い歯をきらりと見せつけ爽やかに笑いかけたのに、
シカマルは何でか睨み付けてきた。
「させねぇ!!!」
「うっせ、てめぇも道連れだ!覚悟しとけよっ!!」
俺を捕らえようとする手を振り払い、窓からハイジャンプ。
純粋なスピード勝負なら、こちらに分がある。
後ろで舌打ちをして苦々しげに追いかけてくるシカマルの気配がしたので、余裕っぽく手を振ってやった。
「やぁ、君たちが熊んとこの子たちだねー」
案の定と言うべきか、カカシは珍しくも時間ぴったりにやって来た。
十班の中で一番社交的ないのが猫かぶりでカカシに会釈した。
「はい!カカシ先生ですよね?山中いのです。今日はよろしくお願いします」
あんたたちも挨拶しなさいよ、といのはシカマルの首をぐいっと引っつかんだ。
リーダーというよりは母親そのもので、見ている分には面白い。
チョウジも横目で心配そうにシカマルを見ながら、礼儀正しく挨拶。
最後に、「奈良シカマル・・よろしく」と無愛想にシカマルが頭を下げた。
「俺ははたけカカシ。いやー、十班は可愛げがあっていいねぇ。
今日はこいつらと、まあ、よろしくやってくれ」
「カカシ先生!私たちに可愛げが無いって言うんですかー!?」
「デコリンちゃんにあるわけないじゃなーい?」
「何ですってイノブタ!」
「ちょ、二人とも喧嘩しないでよぉ・・・」
チョウジが慌ててサクラといのの間に割り込んだ。
うん、この個人主義と喧嘩っ早いメンバーの中で唯一の仲裁役。
俺は最初から関わりたくないので距離を置いてるし、
サスケも気持ちは同じらしく離れた位置で様子を見ている。
ははは、清々しいほどバラバラだなぁ、うちの班。
「ったく面倒くせぇ・・アスマも来てねぇし俺あっちで寝てるから」
「あ、ちょっとシカマルー!」
輪から出たシカマルに、俺も昼寝ーとばかりに近づく。
が、背後からカカシが俺たちの肩に手を回してにっこり笑った。
「じゃ、俺も寝ようかな」
何言ってんだこいつ。
「セ、センセ?アスマ先生がいつ来るか、わかんないってばよ?」
「だいじょーぶ、あと一時間あるから」
「は?」
「気にしない気にしなーい」
気にする、それはとーっても気にするとこだから!!
何が悲しくてこの年になって添い寝なんてされなきゃならないんだ・・・
あのイルカ先生でさえ、ここまではしないっ!
しかも一時間ってかなり具体的なのが引っかかるし。
シカマルは諦観したのか既に睡眠モードに入りかけてる。
諦めるな!なんか俺カカシ苦手っぽいんだって!おまえだけが頼りなんだーっ。
ささやかな抵抗心なんて無駄だったけどね。
「いやー、すまん。集合時間勘違いしちまって・・・・何やってんだお前ら」
「遅イッスヨ、アスマ先生?」
本当に一時間きっかり後に来やがったよ。
シカマルの静かな怒りに冷や汗だらだらのアスマ先生。
謝りながらも、木陰で川の字(真ん中は当然の如くカカシ)に寝転がっていた俺
たちを、
奇怪そうな目つきで眺めている。
そうだろうね。川の字の当人が俺じゃなかったら気味悪がったと思う。・・俺じ
ゃなければな!
「もう、アスマ先生遅いったら!」
「珍しいよねー、先生が遅刻なんて」
「わーるかったって。俺のだけ時間変更の連絡が来てたんだよなぁ」
少なくとも、嘘はついてない。
カカシの隣で寝させられて、目を瞑っている間中ずっと
生暖かい視線を送られてかなり気色悪い一時間を過ごす羽目になった遠因ではあるが、
どちらかと言えばこのアスマも嵌められたのだろう。
誰に?
疑問に持つまでもねぇけどな!
『ナルト』
『何?』
相変わらず幸せオーラを放つカカシの横で、シカマルが口パクで話しかけてきた。
俺が無愛想に返したのに労わるような態度をやめない。
普段のこいつだったら絶対ありえない。
『・・・がんばってくれ』
よりによってシカマルに同情された。
俺が苛められても、殺されかけても哀れむどころか
『はっ(嘲笑)、馬っ鹿じゃねーの?』と喧嘩売ってくるあのシカマルに・・・・!
罵倒よりも憐憫の方がずっしりと精神ダメージがくることを、俺は初めて知った。
060811:書き直しました
050324:作成
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