ある冬の月、アカデミーの一室に子どもたちが集められた。
正規の授業では無いせいか、皆一様に騒がしく、また教師たちもいつもよりは寛容である。
その中で、海野イルカは名簿に自分のクラスの子どもたちの出席をつけていた。
他クラスの教師はそのイルカの生真面目さに苦笑。
休ませようと教師席に促す。

「イルカ先生、別にこれは普通授業じゃないんですし・・出席つけるのも大変でしょう?」
「いえいえ・・まだ半分も出席取れてないですし」
「そんなの取らなくていいじゃないっすか、ほら、こっち座りましょうよ」

この授業は、強制参加ではないのに、よくもまぁ出席なぞ取る気になれるものだ。
なにより、この教室の満席具合から、どうやら生徒は全員来ているようだ。
数少ないならともかく、この状況では自クラスの生徒を見つけるのも困難。
廊下側に立っていた教師が、席の無い子供のために椅子まで取りに行く始末だ。

「・・・あれ、人数分の席は、用意してましたよね?」
「数え間違えですかね。でも、余らないってことは全員揃ってますよイルカ先生」

イルカが怪訝な顔で首をかしげる中、教室がふっと暗くなった。
ざわめきもぴたりと止む。

「よしっ、それじゃあ始めるぞ!みんな静かにしてろっ」

そう言って教師たちは部屋の明かりを消してスライドを映した。
一代目、二代目、三代目、四代目・・・
一人ずつ順々に写真が写されていく。
やはり一番写真が多かったのは三代目であった。
その代より前と四代目の写真は九尾の事件で多くは消失してしまったり、
唯一の女性火影である綱手嬢は年齢がバレる、と言ってほとんど資料に貸し出してはくれなかった。
五代目の綱手の写真が終わると、六代目のナルトの写真が出てきた。

「あー、イルカ先生だ!!」

何人かの子どもたちがアカデミー時代の
ナルトの写真を見て、後ろに小さく写るイルカに気づいた。
子供の時の彼はよくイルカに懐いていたためか、よく一緒に写っている。

「そうだな、俺は六代目の担任だったし」

すげー!!と、小さなざわめきができた。
何故か教師の中にまで、驚きと尊敬の眼差しでこちらを見る者がいた。
ナルトのスライドが終わると前列に座っていた少年が問う。

「先生、六代目ってどんな子どもだったんですかー!?」

教室の明かりをつけると、子どもたちが興味深そうにイルカを見ていた。
やはり、火影というものは憧れなのだろう。

「そうだなー・・問題児だったな!悪がきで、
 他の奴らと一緒になって悪戯ばっかしていたよ。勉強もできなかった」
「へー・・・・!」
「でも修行とかは人一倍すごい真面目に取り組んで、
 今こうして火影になって立派に仕事をこなしてるんだぞ!!」

丁度イルカの話が途切れたところで、前のドアが開いた。
タイミングのせいもあり教室中が注目する。
中に入ってきたのは痩身の白衣を着た男。
その容姿はかなり整っていて、女子の間でこそこそと話し声が聴こえた。
彼は無表情で一度、子どもたちを見渡してからイルカに目を合わせる。

「・・あー、ども。講義中にお邪魔しましてすみません」
「シカマルじゃないか!久しぶりだなぁ」

その言葉に年若い教師は驚いて眼を見開く。
シカマルといえば、六代目火影の右腕であり、
知略に優れ、『もしかしたら六代目は・・』と六代目就任前によく話題に出た人物だ。
そんな相手に馴れ馴れしく話すイルカ。
二人の関係を知らない若手の新人教師はあたふたして顔が青くなっている。

「ご無沙汰してます・・・ナルトの話やってたんですか」
「そうそう。折角なんだし、生徒たちに話してくれ」

大親友なんだろ、とマイクを押し付けるイルカにちょっと嫌な顔をしながらも
しぶしぶと口を開くシカマル。

「えー・・みなさん、どうもこんにちは。
 六代目の元クラスメート兼他称大親友のシカマルです」

六代目の大親友など、当然見たこともない子どもたちは
目を輝かせてシカマルを見る。
低い声音だが、こういった場に慣れているのか
存外聞き取りやすい声で言葉を途切れさせることなく耳に入ってくる。

「俺から見て、ナル・・・六代目は頭が良かったし色んな才能もあったと思う」

その言葉に生徒の何人かはイルカを見やる。
確か、イルカ先生は六代目は勉強ができないと言っていなかったか?
だが当のイルカは気にした様子も無く、
まるで生徒の発表会を見守るような顔でただシカマルの言葉を聞いている。

「だが、六代目の本当の強みは、そんなんじゃない。
 あいつは・・まあ、色々あって里中に無条件で嫌われてたんだが、
 それでも負けずに笑って状況を覆すぐらいの心の強さがあった。
 おまえらの中に、六代目を尊敬する奴がいるなら、そういうとこを見習ってほしい」

シカマルは言い終えるとマイクをイルカに返して
生徒たちの席に向かってつかつかと歩いていく。
一人の、特に目立っているわけでもない普通の生徒の前で立ち止まった。
その生徒の首根っこを掴んだシカマルは、にっこり笑った。

「だけどな、こんな風に火影になってもサボり癖が抜けないような奴にはなるなよ?」
「ちょ、ちょっと何なんですか?!放してくださいー!!」
「てめぇのことだよ、この馬鹿ナルト!!!」

どかっ、と・・シカマルはその少年を教壇まで投げ飛ばす。
あの細身にどうしてこんな力が・・・・・とこの場にいた全員が思った。
教壇に投げ飛ばされた少年はというと、受身をとって壇上で起き上がって埃をはらう。

「ナルト?」

イルカが駆け寄って心配そうに尋ねると、少年は煙を上げて変化を解いた。
煙から現れたのは、先ほど見たスライドの青年と全く同じ顔をした・・ナルトだった。
わーー!!と生徒たちの間で歓声があがる。・・まあ、いきなり自分たちと一緒にいた生徒が
先ほどまで紹介されてた火影だったら、驚くし、嬉しいだろう。
子供たちの歓声に両手をあげて応えるあたり、六代目はサービス精神も旺盛だ。

「全く、人が懐かしくアカデミーで学生生活をエンジョイしてんのに、邪魔すんな!」
「うっせ!!俺だって、おめぇが仕事終わらせれば文句言わねーっつうの!
 おまえがやんねぇと俺にしわ寄せが来るんだよ!!」
「じゃあ、俺の分までやれって」

ぶちっ、と鈍い音がシカマルから、した。
両手にクナイと手裏剣を持ってゆっくりとナルトに近づいていくシカマルに
イルカは慌てて静止の声を掛けた。

「や、やめろシカマル!こんなとこで、ってか火影に何やってんだ!!」

シカマルはにやっと笑ってイルカを見る。
腹黒さを隠しもせず、というか怒りで目がイっている。

「いいじゃないっすか。生徒たちにもいい戦闘の見本が見せられるし、
 火影さん直々になんて、おまえたちも見たいよな?」

前半はイルカに、後半は子どもたちに問う。
子どもたちは事態の危うさを理解せず、嬉しそうな顔で何度も頷く。

「ほら・・・大体、火影だろうがなんだろうがナルトはナルトだ。
・・・・・・・・・・・・・ぶっ飛ばしたいときは、ぶっ飛ばす!!!」

最後の言葉が無ければなんていい言葉だったんだろう、と誰もが思うシカマルの台詞。
ナルトも嬉しそうにクナイを左手に持ち、右手だけで印を組みながら戦闘体制に入る。

「あーー!!こんな狭いところで口寄せするんじゃない!!ナルト!シカマル!!」

イルカの絶叫は、空しく教室に響き渡った。
結局、二人の見本試合(とは名ばかりの憂さ晴らしの喧嘩)は
五代目の綱手が教師陣に懇願されて現れるまで続いた。




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