「・・・おい、食べすぎじゃないか?」
「そうか?」
イビキの低い問いにコノトが不思議そうに問い返した。
だが、イビキの問い自体は間違っていない。
その細い身体には不釣合いなほど沢山の空になった皿が
コノトの目の前に並んでいる。
長い付き合いからか、隣に座るカノコだけは全く気にせず
黙々と自分の料理を食べている。
「カノコは知ってたの?」
「まあな。こいつとの付き合いも、もう十年近くになるし」
「へぇ、そんなに!気が合うんですね」
最初は恐怖の思い出のフラッシュバックのせいか、
二人を見て青ざめ、やばいぐらい咳き込んでいたハヤテも
時間が経って慣れたのか会話に加わる。
「そうよね、十年も付き合うって結構すごいと思うわ」
「「いや全然。気なんか合わないし」」
一言一句違わず口をそろえる二人。
すごく気が合っているように思えるが・・。
「だって、カノコの奴、最近は変なものに凝り始めてよー。
すっげぇ危険。少しは周りのことを考えてほしいね」
それに同調するように、ゲンマとハヤテは深く頷く。
どうやら、二人のトラウマじみた恐怖による反応は
カノコの凝っている『変なもの』に原因があるようだ。
「はぁ?コノトだってアレ作るのに面白がって加担したじゃねぇか。
・・・・ところでよ、やっぱり二階への階段は木製じゃ駄目だと思うんだが・・」
「え、そう?だからさぁ、木だからこそできるもんってあるじゃん。
古典的なものに仕上げる気はないけど、見せかける分にはよくない?」
いきなり、込み入った話をしている二人に、イビキは尋ねる。
「アレ、とは何なんだ?」
「え?ああ、からくり屋敷」
その言葉にゲンマとハヤテの顔から冷や汗がだらだらと出てきた。
「からくり屋敷?」
「そう、誰にも攻略できないからくり屋敷を作ってみたくなってさ。
今誰も使ってない廃屋に色々仕掛けを組み入れてるんだ」
「・・・・・それにハヤテたちが引っかかったわけ?」
「そうそう。・・運が悪かったんだ」
ゲンマとハヤテは・・・ここでは書き表せないほどやばい状態になりながらも
お互いキラキラと爽やかに微笑みあっている。ぶっちゃけ、かなり怖い。
「でも、結構前だったよなぁ。迷い込んできたの」
「うん。一年ぐらい前だったはずだよ?そんないつまでも引きずるなって」

「ありゃ一生もんのトラウマだって!!!!」
「いっそのことあの家取り壊してください!!!」


カノコの言葉に、恐怖の思い出から復活した二人が物凄い勢いで食って掛かる。
「「勿体無いから駄目」」
にやっと笑うコノトとカノコ。
後でどんなことがあったのか聞いてみよう、とアンコは心に決めた。

「あー美味しかった!」
「食った食った、ゲンマたちも面白かったし、誘ってくれてありがとな、アンコ」
「どーも。無理やり誘ったから、無愛想になるかと思ったけど、そうでもなかったわね」
「別に、そこまで俺たち心の狭い奴じゃねぇって」
「・・ってか、あの二人はともかくイビキは?」
カノコが辺りを見回して尋ねる。
もともと、自分たちに会って調子悪そうだったあの二人が
早めに切り上げることは予想がついていた。
「ぶっ倒れそうなゲンマとハヤテが心配で一緒に帰ったわ。
・・・ねぇ、一体何やったらあんな風になるわけ?」
「まー、それは、あいつらに聞いてみなよ?面白いから!」
「俺たちもどのトラップに引っかかったのかは全部把握できてないしな。
・・・それじゃ、俺たちも帰るよ。じゃあ」
コノトたちが帰ろうとするのを、アンコは肩を掴んで引き止めた。
「何・・ですかねぇ?」
「あんたたちこそ何言ってんのよ。夜はこれからよ?」
「まさか、まだ飲みに行くつもりじゃ」
「つもりよ。当然付き合ってくれるわよね〜?」
「「はぁ!!??」」
ずるずるとアンコに引きずられるコノトとカノコ。
カノコが懐から懐中時計を取り出して時間を見る。
十時を僅かに過ぎたころ。
・・・・夜明けはまだまだ遠い。