「ナルト、おまえ髪結構伸びてねぇ?」
何をするわけでもなく、ただ二人でぼーっと本を読んでいるとき
シカマルが顔を上げて話しかけてきた。
今日は珍しくシカマルが、何の約束も無くいきなりやって来たのだ。
「あー・・でもほとんど影分身や変化することが多いから、生活に支障はない」
「切らないのか?」
「前髪はたまに自分で切るけど、ほら、俺が町に行くだけで色々あるし」
シカマルは思いっきり眉をしかめた。
それに気づいたナルトはごまかすように笑った。
「本当に支障ないから」
ぱたん、と本が閉じられる音が聞こえた。
シカマルは勝手知ったる他人の家、と引き出しからハサミを取り出した。
「切ってやる、座ってろ」
「・・・・・・・・・・・・・シカマル熱あるだろ?」
「ねぇよ、ともかく切るから・・・風呂場のほうがいいか」
珍しいことに喧嘩を売ることも買うこともせずにそう言って、
本を読んでいたナルトの腕を引っ張って風呂場に連れて行った。
シャキ、チョキ。
「・・・・・・・意外に上手いな」
「手先は器用なんでね」
少し言葉を交わすがすぐに二人とも無言になった。
ハサミの髪を切る音だけが静かに聞こえてくる。
「・・・・・・・・・・・・・・・・これから」
「あん?」
「伸びたら切ってやるよ。安上がりだし、その分俺に何か奢れよ」
「えー・・まさか今日も奢んの?」
「当たり前だ、ギブアンドテイクだろ。今日は・・夕飯ラーメンがいいな」
「ったく、じゃあ一楽な」
「おう、ほんと好きだよな、一楽」
わかってるさ。
本当は別にただでも俺の髪を切ってくれることぐらい。
だけどそれじゃ俺が変に遠慮すると思ってギブアンドテイクとか言ってくるんだろ?
悪い、俺そういうお前の優しさが・・・・・・・・・・・・・嬉しくて嬉しくてたまらない。
「私の店にね、この前あの化け物がウィンドウ越しにこっちを見ていたの。
髪を切りたいのかしら・・嫌よねぇ、絶対嫌だわ。金髪の人は禁止って張り紙でも
張っちゃおうかしら!?」
「あら、そうね。やっておいたほうがいいわ。来てからじゃ遅いもの」
二人の女性が道端で話しこんでいる。
どちらかの娘であろう、子供が話しに割り込む。
「ねーママ、金髪の人ってあの子のこと?何で?ママ嫌いなの?」
子供の指を指す方向には確かに金髪の少年がいた。
ママと呼ばれた女は慌てず屈みこんで子供の髪を撫でた。
「そうよ。あの子は化け物なの。だから近づいちゃいけないしお店に呼んじゃだめよ」
おそらく金髪の少年がいることには子供が話しかける前から知っていたのだろう。
聞こえるようにそこそこ大きな声で喋っている。
少年が走り出したのを、汚らわしいものを見るような目つきでじっと眺めて笑った。
・・・・・そこには、もう一人少年がいた。
話をしている女たちのすぐ横の本屋で雑誌を読んでいたのだ。
真っ黒な目は静かに怒りを湛えていたが、ふと少年は素早く印を組んで変化した。
金髪の、見栄えのするいい男に。
「お二方、その金髪禁止には僕も入ってしまうんだね?」
再び話し込んでいた二人は話しかけられて振り返り、愕然とした。
「よ、四代目!!」
「嘘・・・・」
四代目と呼ばれた男は無表情で二人の女を見やる。
「ふー・・・僕はこんな里人たちのために命を落としたのか」
そう言って心底残念そうに、そして二人を軽蔑するような眼差しを向ける。
女たちは死者が目の前にいる恐怖と、その怒りに近い哀れみの目に何も言えず突っ立っている。
子供はただ状況が飲み込めずぼーっと一歩下がって事を傍観している。
何かを言おうと口を開きかけたとき、
「やめんか、馬鹿者!!」
という声と共に後頭部に嫌な鈍痛が走った。
「いって!」
思わず変化が解けてしまった。
「三代目!?」
「すまんな、この童はまだ変化の術を覚えたばかりで誰かに使ってみたかったようじゃ。
多めに見ておくれ」
そう言いながら黒髪の少年の頭を抑えて無理矢理謝らせた。
「いえ・・・しょうがないですわ」
二人は心底安堵したような声で話す。
子供だから許してやったわ、と高慢な態度を隠そうともしない。
それに眉に皺を寄せ、少年から殺気が漏れ出す。
それに気づいた三代目は少年がキレて二人を殺してしまうのではないかと
冷や汗を流したが、少年は手を振り払いただ逃げただけだった。
「シカマル!」
三代目は追いかけていた少年の名前を呼んだ。
少年は少し迷った様子だったが、足を止めて足場の木の枝に座った。
三代目も追いつき、そのまま同じ木の枝に座った。
息を整え、じっと遠くを見ている少年に話しかけた。
「悪かったな、シカマル」
一部始終を見ていた、どちらが悪いのかわかっていた、
だが体面を保つためにしかりつけた。
「いいですよ別に」
「・・・・・・よくないだろう。わしに怒りをぶつけていいぞ、原因の一部だ」
それでもシカマルは目線をこちらに向けなかった。
だが、よく通る声で三代目に向けて言った。
「俺は別に三代目が原因だとは思ってません。
四代目も違う。九尾も・・違う。
ただ、里人の心の弱さが招いているだけなんだ。
九尾の事件も、ナルトのあれも、全部・・ただ心が弱いだけなんだ」
その弱さは今はどうにもならないものなのだ。
わかっているが、どうしても見せ付けてやらずにはいられなかった。
お前らがやっていることは四代目が望んだこととは違う、と。
シカマルは目を伏せてしばらくじっとしていたが、いきなり目を開けて立ち上がった。
「何処へ行くんじゃ?」
「・・・・・・聞かなくてもわかってんだろ、じーさんなら」
顔を僅かに赤く染め、それをごまかすようにぞんざいな口調で返し枝から飛び降りた。