ビーダマンの特訓の帰り。
偶然会った必人と銃兵衛と、途中まで一緒に並んで歩いていた。
今日もがんばったとか疲れたとか、また会うときには強くなっているとか、
そんなとりとめのない話題も尽きかけていた頃。



「あ、テルマだ」


必人がぼそりと呟いた先には、確かにテルマがいた。
特徴的な外見は簡単に彼を判別できる。
スーパーの袋を両手に持って、泣いている子供を見下ろしていた。
神岡テルマという人種は全くもって信用できないが、
こと子供に関しては絶対に危害を加えないことは、周知の事実。
案の定、彼は座り込んで子供と目線を合わせ、優しく話しかけていた。


「おやおや、転んじゃったんですね。大丈夫ですか?」
「・・ぅ、っく、痛い・・・・」
「んー、ちょっと擦りむいただけみたいですからすぐに治りますよ。
 あと甘いものを食べると痛いのも緩くなるんですよー」

買い物袋から、お徳用の大きなチョコレートパックを出して、
一つを手渡す。最近流行っているアニメのシール付のものだ。
転んだ子供も好きなものだったのか、少し元気になって笑った。

「・・ありがと。お兄ちゃん」
「どういたしまして。君もこのチョコ好きなんですか?僕も大好きなんですよ」
「うん。僕シールも集めてる」
「あはは、中々全部集まらないですよねー」
「僕全部揃えた!」
「おや、すごいじゃないですか。僕はまだレアを見たことないんですよ」
「あー、あれはね、バーコードが・・・・・」



気づけばシール談義に入る二人。
子供の方は、もう全く怪我のことを忘れているようだ。
長引くかと思えば、テルマはすぐに話を切り上げる。

「なるほど。今度試してみますよ。
 ・・じゃあ、君もそろそろお家に帰るんですよ?消毒もしっかりしなきゃだめですから」
「・・・・・消毒沁みるから嫌」
「こら、ほっとくともっと痛いことになるんですからね」

はーい、と元気よく返事をして走っていく子供を手を振って見送るテルマ。
一部始終を見てしまった身としては、何と言えばいいのか。
児童館での彼の態度を見て、わかっていたことだが、

「すっげー。泣いてる子供を瞬時に笑わせたぞ。しかも懐かせた」
「・・・あれで態度が激変しなければ僕も言うこと無しなんですが」
「わしはどっちも面白くて良いと思うぞ?」


あっはっはと笑いながら、必人は何やら思いついた様子で笑った。
息を大きく吸い込む。


「テルマ兄ちゃーん!」
「はい、何ですかぁ?・・・・・・・・ってテメェらかよ紛らわしい!!!!」
「何だよテルマ兄ちゃん、俺たちにだけそんな態度って酷くね?」

銃兵衛も必人の行動ににやりと笑って、便乗する。

「そうだぞテルマ兄ちゃん。わしらにも優しくしとくれ」
「キッモ!!ってかおまえは俺とタメじゃねぇかよ!」

本当に気持ち悪いらしく、腕を抱きしめて後ずさるテルマ。
まあ・・・・確かに銃兵衛に「兄ちゃん」とは言われたくないかもしれない。

「にしても意外というか予想通りというか、テルマ兄ちゃん優しいよな」
「そうじゃのぉ。見直したぞテルマ兄ちゃん!」
「いい加減にしろっ!キショいからその呼び名使うな!!くそっ、調子狂う奴らだな・・・・!!!」

僅かに頬に赤みが差している。
照れている・・・のだろうか。
なんとなく、いつもの奇声で笑ってくれないと、普通の人というか・・むしろ



かわいい








「俺はもう帰るっ!!」
「あはは、大変ですねー。あの二人は結構ノリが良いですから」
「・・・・おまえが手綱を掴んでおけっつーの!」
「僕はそこまで面倒見切れませんよ。そういう役目はテルマ兄ちゃん、でしょ?」

テルマ兄ちゃんテルマ兄ちゃんと呼び続ける二人を無視して帰ろうとする彼に、
にっこりと笑顔をプラスしてその呼称を使うと、全力で睨み付けられた。
が、赤い顔で言われても全く迫力が無い。

「・・・・・・おまえまであいつらに付き合うとは思わなかった」
「僕だって甘えたい年頃なんですテルマ兄ちゃん」








冗談のつもりで言ったのだが、去り際に彼はチョコレートをくれた。
無愛想に、目線も合わせず、すぐに走って逃げて。



でもご丁寧に三つ分。











「・・・・うわ、どうしよう」



年上で、胡散臭くて、目つきも悪くて、ビーダマンの扱いもメチャクチャで、

なのに、






かわいい
















「天使」は演技なのだとしたら、
必人たちの前じゃもう本性見せたから演技嫌かな、って思ってました。
見事に天使スマイルで必人たちの前に再び現れたときは・・くすん。
それとも、初対面の銃兵衛がいたから、天使面だったん?