折角のバレンタイン。
今まで渡す相手もいなかったけれど、
今年は男の友達も増えて、ちょっと渡してみようかなんて思ったり。
勿論渡すまでは隠しておいて。どっきりびっくり大作戦。
だけれど作る場所も、方法も検討がつかず時間は無常に流れ。
そんな時に、顔見知りが菓子作りの雑誌片手に歩いていれば、
声かけるでしょう?
「おいバカ女。粉類は一回ふるっておけよ」
「・・・・・・・」
「あー、そこ濡れてんじゃねぇか!!タオルで拭け、ボケ」
「・・・・うっさいわよー!!一々嫌味を言わなきゃあんた気がすまないの!?
」
「はぁ?逆ギレしてんじゃねぇよ。
大体おまえが菓子の一つも作れねぇからこんなことになってんじゃねぇか!」
ぐぐっ、とナナは拳を下ろし、睨み付けるに留まる。
確かにこうして何だかんだでテルマはチョコ作りに協力してくれているし、
この簡易キッチンも、口利きで児童館にあるのを提供してもらっている側だ。
けれど、それでも、もうちょっといい教え方というものもあるのではないか。
「っつか、バレンタインで手作りチョコなんて今時流行んねーよ。
今は愛情は値段に変わる高級志向だぜ〜」
「うっさいわね。日本の菓子業界の戦略に流されてるんじゃないわよ。
大体あんただって手作りじゃない。」
「いや、板チョコでもチョコを買った時点で十分お前も流されてるっつーの。
それにこれはガキ共にやるもんだから量産タイプを加工で十分」
喋りながら卵を上手く片手で割る態度の悪い男。
態度の良い方でも胡散臭い態度が嫌だが、悪い方でも結局のところ嫌な奴には変わりな
い。
どちらにしろ、この男自身と自分は相性が悪いのだと、ナナは実感した。
「・・・・ん」
更なる口争いの火種がつき始めたところで控えめなノック音が聞こえ、
テルマは即座に身だしなみを整え、笑顔を作って応対する。
いい加減この男の変容っぷりには慣れてきた。
「はい、どうぞー」
「テルマお兄ちゃん!明日バレンタインだけど、
お休みの日だから今日持ってきたよ!」
「エミちゃんと一緒に作ったから、食べてね!!」
「おやおや、ユリカちゃんにエミちゃん。僕のために作ってきてくれたんですか
ぁ?
ありがとうございます。きっと美味しいんでしょうね」
可愛らしくラッピングされたチョコレートを受け取って、
テルマは二人の女の子の頭を撫でた。
調理の作業中だったのですぐにこちらに戻ってきたが。
室温で溶けないように手早く備え付けの冷蔵庫に包みを入れる。
一息。
笑顔でこちらを振り返り、腕をまくる。
「やっぱりバレンタインは女の子にとって大切な行事ですからね。
さ、ナナさんもあと一息ですから頑張りましょう」
「・・・ってさっきと言ってること違うじゃないの、この二重人格者ぁ!!」
「ちょ、落ち着いてくださいー。今生地が床に落ちたら作り直しですよっ」
宥めるように手をばたばたさせるテルマを見て、握った拳をひとまず降ろす。
確かにここで暴れるのは得策ではない。
何より正確がチェンジされているのなら、それはそれで得だ。
「そうね・・・あの悪口まみれの男より、こっちの方がやりやすいし」
「はっ、教えてもらってる側が注文つけてんじゃねぇよバーカ」
「嫌がらせかこのバカテルマぁぁぁ!!!」
「うわ、ちょ、マジギレ!?」
テルマは軽やかに椅子を飛び越えてキッチンから抜け出す。
流石、ビーダーとしての基礎体力は高い。
だが、こちらとて女だてらに体力馬鹿の必人たちと一緒にいるわけではない。
椅子を蹴り飛ばしてテルマを追う。
子どもたちが外遊びに出かけていて本当に良かった。
「・・・大体あなたがいけないんですよ。ナナさんをからかうから」
「うっせぇなぁ。お前だってあの手つきはやべぇって思うだろ!?」
「それでも、ナナさんは一生懸命やってるんですから。失礼ですよ」
「お前なぁ、俺はあの劇物を食わされるであろうあいつらの身を案じて
口出してやってんだぜ!?むしろ感謝されるべきだろ」
「必人君たちには気の毒ですが、僕は自分の身が最優先です。
ってわけでほら、ナナさんに謝ってください」
「・・・・・・ちっ。悪かったよクソアマ」
ぺこりと、テルマの左手の悪魔の人形が頭を下げた。
右手には天使の人形が、つぶらな瞳でこちらを見つめている。
テルマの背後には『人形劇』とでかでかとマジックで書かれたダンボールが
無造作に置かれ、とりあえず人形の出所は推測するに容易い。
正直、追い詰めた部屋に乗り込んでみれば
いきなりこの男がこんな芝居をし始めたので、どうしようかと思ったが。
「・・・・その会話は、あんたたちの脳内会話?」
「いえ、僕の自作自演です」
「・・・・・・・・・・・テールーマー!!!!!!!!!」
「あっはっは、ナナさん怖いですー。怒ってばかりじゃ健康に悪いですよー」
その後二人揃って仲良く児童館を追い出されました。
15話で天使ちゃんも結構いい性格してるのがわかったので自由な人に。
(あれがその場のノリだったら、それはそれでいい。
確かに、結構周囲の目を気にする子っぽいし)
でも悪魔でも、あんまり口汚い言葉は使わないかなぁと反省。
ナナちゃんがどういう子かわかりません。(致命的)