気まぐれに出歩いた先で、偶然知り合いを見かけた。
いや、知り合いと言うほど知ってもいないが、
とりあえず顔は覚えている程度に、印象深い男だったから

声を掛けた。



「よぅ、美人さん」
「・・・・・皆さーん、今日はもう日も暮れるんで帰りましょうねー」

存在を認識された瞬間、男は遊び相手をしていた子どもを突如帰し始めた。
冷やかしの呼称が嫌で無視しているというよりは、先日の一件故の警戒、なのだろう。
別に見境なく何でもかんでも破壊するわけでは
・・・・無いとは言い切れないので別段その行動は不快ではない。

「こんにちは。ちょっと、まだ片付け終わらないので
 用があるなら待っていただけませんか?」

子どもが残して言った玩具を片付けながら、こちらを見もせず言い放つ。
随分と愛想が無い。
あっても気持ち悪いが、何故だか一瞬、笑った顔が見たいと思った。

「随分とあの時とは印象が違うぜよ」
「・・・人違いなんじゃないですか?それならあなたも帰ってください」
「人違い、ねぇ」

こんなどピンクの格好の男が、そうそう二人も三人もいるわけがない。
黙々と片付けている姿を見続けてもつまらないので、自然と周囲の建物に目がいった。

どうやれば派手に壊れるかを先ず考える。
別段壊したいわけでは無いのだが、習慣のようなものだ。

「にしてもぼっろいのぉ。壊しがいの無っさそうな場所じゃぁ・・」
「・・・・・・・冗談、ですよね?」

独り言のような呟きを、地獄耳で聞き取って尋ね返してきた。
放っておいてもその内壊れそうだが、随分と固執しているようだ。
態度が変わらぬよう努めているが、その本心を探るような眼が、妙に加虐心を煽る。


「・・・ダークリザードの本拠地はそう遠くないき、呼ぼうと思やすぐやな」
「冗談、ですよね?」


冗談じゃないと言えば、この男はどうするのだろうか。
あの凶暴な本性でビーバトルでも挑んでくるか。
玉賀必人との勝負の時に水を差したのは腹立ったが、あの腕なら暇つぶしには十分だ。

挑発するように、わざと顔を近づけて嘲け笑った。


「ほんまやったら、どないする?」




頬に、ピタリと冷たいものがあてられた。
『何か』を突きつけられているのだろうが、見えなかった。
ナイフの類か、鈍器の類か。どちらにしろ、相手は何の躊躇いも無い目で微笑んでいる。
楽しい喧嘩になりそうだと、こちらも自然に口元が釣りあがった。


「本当にそんなことをするなら」



「息の根止めま「テルマ兄ちゃーん」






子どもの呼びかけと同時に、微かな落下音。頬に押し付けられた感触も消えた。
今ボコすのは簡単だったが、武器はハンデだと勝手に決めていた。
だが男は拾おうともせず、遠くから聞こえる子どもの声に応える。


「はーい、どうしましたぁ?」
「忘れ物したの。そっちに帽子無いー?」
「ああ、ありますよ。持って行きますね」
「ありがと!」

横をすり抜けていった男は、もうこちらを見ていなかった。
久しぶりの、血を見れそうな勝負もうやむやで、握った拳のやり場も無く。
何となく、下を向いた。






蛍光色のハンマー。

プラスチックの廉価品。
衝動的に蹴り上げると軽快な音が鳴った。




「おんし、おちょくっとんのかぁぁぁ?!!」
「冗談には冗談で返しただけですー」












1,おかたいぞーさんに「美人(若しくは別嬪)さん」って言わせたかった。
2,土佐弁なんぞ知ったことかぁぁぁぁ!!!!
3,もう、天使ちゃんがいるだけでギャグになる。