自分が嫌いなんです。とてつもなくね。あなたにはその気持ちがわかりますか?(真テル)
「わからん。おぬし、結構人生楽しんでるように見えるぞ」
「アレは楽しんでますよ。でも僕は違います」
「そういうもんなのか?」
「そういうものです」
よくわからない、と素直に首をかしげる同い年の彼が
妙に可愛らしく感じて、普段では決して言わないことばを呟く。
「僕はアレより人に好かれるからこそ、ここに存在していられるんです」
「・・・・・・それで?」
「だから、最近すごく辛いんです」
またわけがわからない、と考え込まれた。
それでいいと思う。自分など、理解されない方がいい。
慣れているし、大体が想像通り。
ただ予想外だったのは・・まさかビーダマンを通して
ここまで人と関わることになるとは思わなかったこと。
『わしは、どっちのおまえさんも嫌いじゃないぞ』
あんな世間的に見ても害悪としかなりそうにない男を
好意的に受け入れる人物が・・・・いるとは思わなかった、のだ。
そして今更ながらに気づいた。
アレが、好かれてしまえば、己を偽る必要がなくなれば、
自分自身で居場所を確保してしまえば、
僕はどこに、消えるのだろうか
「いっそのこと、あなたが僕を嫌いになってくれればよかった」
「・・・・はぁ?」
あなたが僕を嫌いなら、
逆に僕は『自分』をここまで嫌いにならなかったのに。
ぶち撒かれたワイン(ダラテル)
ガシャリ。
嫌な音だ。四方に砕ける硝子の瓶は、
耳障りで、いつまでも耳に残った。
落とされたワインボトルからは透明な液体が静かに広がって
そっと絨毯やら床の溝に染み渡っていく。
「それ、結構高いワインですのよ」
「・・・・・お、まえ・・・何入れやがったぁ!?」
「何って、勤勉な従業員に甘いフルーツワインをご馳走してあげてるんじゃない」
「フルーツの味の欠片も無いぞこのグラス!!!何混ぜやがった!」
「・・・・・・・・ウィスキーと麒麟と日本酒にロートドライアイ・・・」
その言葉を聞いた瞬間に、ふらりと倒れそうになるテルマ。
酔いが回ったのかしら、とダラニが手を伸ばそうとすると
警戒心最大の猫のように毛を逆立てて睨み付けられた。
とりあえず手は引っ込める。
「・・・のクソアマ・・こちとらこれから接客入ってんだぞ・・」
「あなたみたいな口の悪い従業員を、お客様に回すわけにはいきませんわよ」
「げ、まじ?俺クビ?」
どことなくほっとしたような心情がこもっているのがむかつく。
ダラミは優雅に微笑んで首を横に振り、指をパチンと鳴らした。
三人のメイドたちが音も無くざざっと部屋に入り、
一人は零れたワインを片付け始め、
一人はまるで凶悪犯を取り押さえるようにテルマを捕獲し、
一人は己の着ているものと全く同じメイド服を持っていた。
「・・・・すみません、今を以って俺、仕事辞めさせてもらいます」
「おーっほっほっほ!認めませんわぁ!!」
「ちょ、被雇用者の人権踏みにじりまくってるぞ!!!」
「おまえたち、さっさと連れてきなさい。五月蝿いようだったら黙らせなさい。
あ、レースはピンクのがあったでしょう?それにしておいて」
「「「かしこまりました〜」」」
「ま、ちょ、まじ、待て、っーーー!!!!」
心なしか、メイドたちも楽しそうだ。
これは、どうやら期待してもいいらしい。
テルマの罵声をBGMに、ダラミはにやりと口元を歪めた。
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