「テルマ、ここは寒くなるぞ?」
「・・・・わぁってるよ、んなことは」
川原の傍で座り込む見慣れた人物に、
銃兵衛は警戒も何もなく近づいて話しかけた。
デビルビーダーではあるけれど、平時であれば大抵は
『天使』が出てくることを知っていて、だからこそ問題は無いと思った。
まさか、もう一人の方が出てくるとは思わなかったが。
「・・・・・・・・」
「・・・・・・・・」
「何で隣座るんだよ」
「だめか?」
「おまえは、あいつの方がいいんだろ?」
「ん?」
「俺だってわかったとき顔が残念がってた」
自分では全く意識していなかった態度。
だが、この男は行動こそ突飛だが思い込みだけで発言はしない。
「お主には、わしがそう見えたか?」
「他のヤツが見てもそう思うだろうけどな」
「・・・・・・・・・すまん」
自覚していないわけではない。
目の前に座るこの少年も、『テルマ』なのだと頭ではわかっているのだ。
ただどうしても、本質が同じだとわかっていても比べてしまう。
それをすぐに見抜かれるのは、罪悪感があるので余計心苦しく感じた。
「気にしてねぇよ」
たとえば『天使』と称される彼があの笑顔と善行で生き抜こうとするならば、
この男はその洞察眼を処世術としているのだろう。
とても、哀れに思う。
「よくあることだし」
見抜かない方が、幸せなこともあるのだ。
「・・・本格的に寒くなってきた。そろそろ帰ったほうがいいのでは?」
夕暮れ時の涼しさなどとっくのとうに消え失せ、暗闇と身を切るような寒さに包まれる。
空を旋回していたカラッシュも気づけば首筋により添うように寄ってきた。
自分にはカラッシュがいる。必人たちというかけがえのない仲間もいる。
今日は公園にテントを張って、完璧に整っているとは言えなくともにぎやかな寝床がある。
こんな夜に、独りでいるのは、とても、心細い。
「もし・・・・・泊まる場所が無いならば、拙者らと来るか?」
鋭く細められた『この少年』特有の目つきが、驚きで僅かに見開かれる。
言った当人の自分ですら、当たり前のようにこの口から出た言葉に驚いているのだ。無理もない。
だが、一瞬呆けた口元もすぐさま真一文字に引き結ばれ、
次の瞬間にはシニカルな笑みへと変わっていた。
「同情?」
「いや・・」
「だったら」
「僕に下心でもあるんですか、銃兵衛さん?」
「っ!テルマ!?いや、そんなつもりで言ったわけでは決してなくてだなぁ・・・」
「けけけ、ただの真似だよバーカ」
「む・・・・・・」
「おっと、冗談を真に受けて説教とかやめろよ?」
それは、あまりにも冗談としては笑えない。
彼が『冗談だ』と言わなければ誰にも判別できないわけで。
なんと性質が悪い男だろう。(しかもわかっている上でやっているから余計に)
説教じみたことの一つや二つ言いたくもなる。
しかし相手もそれを察して素早く立ち上がり、尻の汚れを落として逃げ出す準備。
この絶妙のタイミングから察するに、怒られ慣れているようだ。
「こら、待たんか!」
「嫌だね、待てと言われて待つヤツがいるか?じゃあ俺は帰ってくるから待ってろ。ほら、待てよ?」
「お主はいつもいつも下らん減らず口ばかりを・・!」
「テルマ」
「・・・・どうした?」
「俺のことをテルマって呼べたら、止まってやって説教受けてもいいぜェ?」
最初、何を言っているのか、わからなかった。
名前でいつも呼んでいるじゃないか。
「・・・・・・・あ」
無意識だった。
いや、無意識だからこそ、たちが悪い。
すぐさま謝罪の言葉を口にしようとしたが、彼は無視をきめこむ。
「大体よぉ、俺はてめぇらと馴れ合うつもりはねぇ。
お前からはタウロスを頂くつもりだし、
必人からはイフリート、コン太からはガルーダな」
コドウのペガサスとワイバーンも欲しいし、
他のダークリザード四天王のビーダマンも悪くない。
後は金に食い物に・・・・等々、テルマは途切れることなく望みを口に出す。
「いい加減にせんか、なんとまぁここまで物欲に特化するかのぅ・・・」
「まだまだあるぜぇ?・・・・・・って言っても、一番は」
一番は何なのか、と尋ねはしなかった。
けれども、その答えを聞くことがきっと過ちの罰なのだろうと思った。
こちらが黙って聞く姿勢になっているのを彼は満足げに見て、
はっきりと通る声で言葉を紡いだ。
「今の一番は、あいつから俺の名前を奪ってやりたいな」
テルマはテルマなのだと、言う資格のない自分が歯がゆかった。
銃兵衛さんの中でテルマ=天使の構図が無意識にあって、
それに気づいた悪魔さんが底意地の悪さ全開で弄ぶ話。
銃兵衛さんが思うほど悪魔さんはか弱くも切なくもないかと。