ああ、くそぅ。何で誰もいないんだ。
誰かが一緒にいたって、状況は変わらないけれど、
それでも今この場所に独りでいたくなかった。


「ったく、つまんねー。何で俺がこんな雑魚、相手にしなきゃいけないんだよ」
「・・・・・・・」
「聞いてる?」
「はい、聞いています」

自分よりも大きなゴミ袋の山の裏に隠れて様子を伺う。
布で覆われているため顔も姿もわからないが、
高性能のビーダマンで人を傷つけなれているから、『禍神』と繋がっているのだろうと見当はついた。
二人の男(判断材料は声と口調だけなので断定はできない)は、
片手にビーダマンを持ち、彼らの傍らには傷だらけで這いつくばる男。
白い布を纏った男は、心底面倒そうに愚痴りながらビー弾丸を撃つ。

横たわる人間に、向けて。



「・・・がっ・・・ぐぇぎゃ!」

何度も何度も。骨が折れているのか、決して起き上がることのできない男に、ずっと。
ビーダーとして、ビーダマンの力は身にしみてわかっているつもりだ。
血と吐瀉物の混じりあった臭い。
身体が、コンクリートをも破壊できるビー弾丸によって引き千切られる音。
悲鳴すら上げる気力がないのか、潰れた蛙のような呻き声。


「まーだまーだ壊れないでくれよ〜?」
「・・・・・・・・・・」
「何?おまえも仕事だし、やる?」
「私は補助ですから。お楽しみの邪魔をするような無粋な真似は致しません」
「へぇ?」











どんどん遠くなる足音と声。
何か別の用事があるのか、それともいたぶるのに飽きただけなのか。
今なら、もしかしたら、まだあの男は生きているかもしれない。
もう、あいつらはいなくなったのだろうか?
早く助けなければ、何もかも手遅れになってしまう。

「・・・・・・・っ!!!!」

こそりと様子見に顔を出そうとしたところで、いきなり肩を押さえつけられた。
一瞬で視界に入ったのは黒地の羽織で、先ほどまでいた、禍神の一人だった。

何をする気だ、そう問いただそうとしたが口を押さえ込まれる。
ビーダマン勝負ならまだしも、体格的には絶対にこちらが不利だ。
ポケットからガルーダを取り出そうとしたが、彼もそれに気づき、右手を抑え込む力を強くした。
このまま窒息死させられるのだろうか。
それとも、あの男のように惨たらしく拷問されて殺されるのだろうか。
兵器だの闇の暗殺組織だの、わかっていたのに、わかっていなかった自分の油断。
初めて感じた死の恐怖にパニックになりかけるが、禍神の男は宥めるように優しく語りかけてきた。


「大声出さないでください。静かにしてくだされば、開放します」


自分より少しだけ低い、落ち着いた声音。
そこには殺気も、もう一人の仲間のような狂気も感じられなくて、とりあえず頷く。
禍神の男はゆっくりと手を退かして半歩下がった。
周囲を視線だけで見回し、誰もいないのを何度も確認している。

「これ以上深入りせず、早く帰ってください」
「・・・あの人、まだ助かるかもしれないんだ」

よくよく考えれば彼の仲間が害したのだから、助けるわけがない。
何故、一瞬でも手助けを求めたのか自分で自分の思考回路が不思議だ。
当然の如く、彼はこちらの頼みを黙殺し、用件のみを繰り返す。

「帰りなさい」
「お、おまえも、人の命なんか、どうでもいいのっ!?」

禍神なのだから当たり前だ、と心の中で誰かが哂った。
虫ケラのように、人を踏みにじった禍神の男。
ビーバトルに危険はつきものだが、直接人を的にして狙うことは、ありえない。
先ほどから放置された男は、酷く痙攣していて、多分、とても、危ない状態なのだろう。

「・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・」
「・・・ええ、私は自分以外の命なんてどうでもいいですよ」

しばらくの沈黙は、とても禍神の兵士には似つかわしくないもので、
彼はまだ心のある人間なのだと安堵する。
だが、次の瞬間には硬質な音と共に何かを額に押し付けられた。
それが彼のビーダマンなのだと気づくのにしばらく時間がかかった。
銃口は額からぴくりとも動かない。
あまりに慣れた手つきで、先ほどの緊張と冷や汗がぶり返す。

「禍神流の『命令』の方が、聞きいれてくれそうですね」
「・・・」
「勘違いされては困りますが、私はあなたの友人でも知り合いでもない。
 撃たないだろうと楽観視するのはやめてもらえますか?」


矛盾する人だと思った。
友人でも知り合いでもないのに


「十秒以内に、ここから消えなさい」


この人は、自分を助けようとする。




















「これが僕の初恋なんです」
「へ・・・・へぇ」(冷や汗)
「禍神だったらテルマの知ってる奴じゃねぇの?また会えるかもな!」
「別にまた会いたいとかそういうわけじゃないからいいんだけどね」
「えー?」
「行動力のあるコン太にしては珍しいのぅ」
「さぁ?何でだろうね、テルマ君?」
「ぼ、僕にふられても・・・さっぱり!!!」












最初はコン視点のキョウテルにしようとしたから不自然。