ふと目に留まって、可愛いなと思ったら、つい。
ばきっ。
普通の平手打ちにしては随分と鈍く重い音だった。
殴られた少年は、一度だけ叩いた俺を無表情に見やって、何事も無かったように立ち上がる。
少しは怖がってくれてもいいんじゃないの?と一瞬考えた自分に笑いたくなった。
顔つきや雰囲気から、コイツラは大体見分けられる。
禍神の命令のみを完璧に遂行する、ただの人形。
リアクション求めても無駄じゃん。
「どうなされました?キョウスケ様」
「ん、気分」
「そうですか」
恐らく唇が切れたのだろう、血が僅かに滲んでいた。
手加減無しに叩いた頬は腫れ上がり、きっと今夜は痛みで眠れないだろう。
・・・いや、人形ならそもそも痛覚があるのか疑問だ。
「君さぁ、下っ端?名前なんていうのかな?」
「はい、下部組織なんで。山田太郎と申します」
名を尋ねたときの数秒、眉を顰めて視線を散らした。
しかも名乗ったと思えばあからさまな偽名。
人形の癖に、いっちょ前に警戒なんてするから、体の芯から熱が湧き上がる。
この熱は何だろう。憤怒?嘲笑?興味?殺意?
自分でもそれが何かと認識する前に目の前の男を蹴り上げていた。
咳き込みながら腹を押さえる少年の衣服を探り、カードを一枚取り上げて嘲る。
「ふーん、神岡テルマ・・・聞いたことないな」
「・・・・・・・・ッ、ハッ・・返してくれませんか、IDカード」
「山田太郎のカードじゃないからいいんじゃない?」
「・・・名を偽ったことは謝罪します」
「うん、舐めたことしてくれるじゃん」
大体、自分で下っ端とか言ってる割には悪くないビーダマン。(勿論、比べればの話だが)
恐らく下部組織というのも半分は嘘なのだろう。
・・・・たかだか雑魚の一匹に何故ここまで構いたくなるのかわからないが、
IDカードを奪い返そうとしたこいつの手首を潰れるかと思うほど強く握ってお綺麗な面を苦痛に歪ませたら、
自分でも驚くほど加虐心と快楽とがないまぜになって、気づけば馬鹿のように笑っていた。
もっと虐めてみたい。泣かせてみたい。傷つけてみたい。
殺してみたい。
「・・・と、ここまで人が目ぇつけてやったのにさ、
どっかの誰かさんは仕事って言って逃げて、なおかつそのまま抜けやがって裏切ってくれたわけよ」
「はぁ・・・・大変だったんですねぇ」
「おまえのことなんだけどね、神岡テルマぁ?」
名前を口に出すと、びくりと肩が震えていた。
必人とかいう奴は挑戦者として身の安全は保障されているが、
その連れの裏切り者まで遇するとは言っていない。
といっても、これからバトルが控えているので手を出す気はない。
怯えている分には抵抗されず余計な手間が無いのであえて伝えないが。
数週間ぶりに触れた(あの時は殴ったというのが正しいだろうが)
緑の髪は相変わらず柔らかくて、指先でしばらく弄んでから優しく笑いかけてやった。
「おかえり」
「帰ってきたわけじゃありません。師匠も・・僕も、負けない、です」
「・・・ふぅん」
愛らしい人形の目つきは、いつの間にか忌々しいあの男の目にそっくりだった。
キョウテルなんて妄想でしか補えないよな・・・
それにしたって、これは痛い妄想だったかな・・・・
と思わなくもなかったですが、それ以上だったぜ原作。(鼻血)