充実した日々でした。
地獄のような禍神での生活が嘘のように光に溢れて、
正体を隠さずに堂々と上を向いて歩ける生活。
『本当の弟子になったからには、ビシバシやるぜ』と
快活に笑って肩を組んでくれた師匠には、沢山の楽しい思い出を貰えました。
大好きです。恋愛ではなく思慕の情だけれど、愛しています。


だけど。








うっかりで滝壺に落とすのは酷すぎですぅぅぅうう!!!!!!!!





























「・・・・・さ・・、大丈・・か?・・・い・・・・・?」

誰かが肩を揺すって声をかける。
師匠?全く、大丈夫じゃないですよ。
身体の節々が痛いし、日差しが強いのか気分が悪くなるほど暑い。
熱でぼやける意識を無理矢理覚まし、半身を起こして目を開ける。
さっさと意識を手放したがる体に鞭打つのは、
ひとえに師匠に文句を言いたかったからだ。


「大丈夫か?」
「ん・・・・・え?」


なのに、自分を心配していたのは師匠ではなかった。
何で、砂漠?
大体目の前にいる黒服の男は、誰?

「あんた熱射病で倒れたんだよ。二回戦はあいつらの勝ちでドロー。
 ボスも倒されちまったし、俺たちゃ他の仲間回収しに行くわ」

平気だったら、島の端に戻って手伝い頼むと言い残し、
さくさく去っていった黒服男。
・・・・・・何なんだ一体。というか、ここはどこ?
自分たちのいた町は、山こそあれど砂漠は無かったはず。
わけがわからず、黒服さんに尋ねようかと思ったが、
右手に持ったビーダマンを見つけ、動きが止まった。
・・・・・・・・・この男、ビーダー?
そういえば見るからに禍神にいそうな凶悪顔だし、
もしかして今までのことは全部・・・・・・・・・夢。

自分はずっと禍神の訓練を受けていて、
コドウさんとイフリートを奪いに行ったのも、禍神並に理不尽で厳しい師匠の修 行も、白昼夢?



よくよく考えればあんなに、上手く禍神を抜けられるなんて、そう簡単にあるわけない・・・・か。


























いやいやいや、そんなことないから。おかしいからそれ!!


服も靴もこんなにボロボロなのは師匠の無茶な修行のせいだし、
全身の鈍痛はその師匠に滝つぼから落とされたからだ。
あの地獄としか思えない特訓を無かったことにされてたまるか。

じゃあ今こうして立っているのが夢の出来事?
ありえなくもない。きっとこの砂漠は、意識の無い自分が見 る、夢・・・
目を閉じて、深呼吸。夢は夢だと認識すると大抵は目が覚める。

<これは夢。早く起きて、師匠に文句を言わなくちゃ>

それでも暑さと砂の感触が消えない。
今度は頬を抓ってみたが、加減を間違えて涙が出そうになった。
そこまでしてもここは砂漠。




あれ・・・夢、のはずですよね?







「・・・・・テルマ、何やってんの?」



恥ずかしいことに、一部始終の行動を覗いていたらしい少女が話しかけてきた。
慌てて髪の毛を梳く動作で誤魔化すが、変わらず顔を歪めて不審がっている。

そういえば、何でこの人は自分の名前を知っているんだ?
禍神の構成員?
元々あの組織は女性の割合が少ないし、知り合いなら顔ぐらい覚えている。
・・・・・・・・・・それとも、裏切り者の始末に来た刺客?
ありえなくもないが。
それにしては、彼女からは裏の匂いはしない。
腕も細く、鍛えているようには思えないし、普通の少女だ。

「あの、貴女は、どちら様でしょうか?」
「はあ!?何ふざけたこと言ってんの!!」

怒られて、しかも思いっきり胸倉掴まれた。
そんなに激昂するほど親しい仲だったのだろうか?
どうしよう、本格的に知らない人なのだが、記憶障害の自覚は無い。
昔キョウスケに苛められたことからつい先ほど滝壺に落とされた背中の感触まで
はっきりくっきり全部思い出せるのに!


「テルマ・・・本当に、本気?」
「すみません。少なくとも僕は初対面だと思ってます」


こちらが真面目に言っていることがわかると、
彼女は口をぽかんと開けて、顔も徐々に青ざめていった。
大丈夫かと声をかけようとしたが、
凄まじい力で手首を握られ、引っ張られる。
前言撤回。鍛えて無くてもこの人、強かった。

「ちょっとこっち来なさい!!!」


















驚いたことに、彼女が連れて行ってくれた先には師匠がいた。
師匠だけじゃなくコン太さんに髪型を変えた銃兵衛さん。
遠くに他の子供たちが見えるが、彼らは知らない。
自分の知る三人は、彼女が帰ってきたことを確認し、
更に一緒に自分がいることに驚いていた。
・・・・気のせいとは思えないほど、酷く警戒されている。


「ナナ?何でテルマも一緒なんだ?」
「テルマ!こいつらはわかる?!」

師匠の声は無視で、僕に強く問いかける『ナナ』さん。

「師匠に、コン太さんに、銃兵衛さん」
「・・・・・・師匠?必人が?」
「おい、俺はお前の師匠になった覚えはねぇぞ」

・・・・・・・・・・・・・かなり傷つく発言だった。
コン太さんと銃兵衛さんは不審者を見るような目つきでこちらを伺っているし。
嫌でも現実というものと向き合わされる。
どういうわけか、彼らと、自分は、親しくない間柄のようだ。
心配するような言動にも関わらず、距離を置かれた。何があっても対処できる距離!
自分が裏切ったときでさえ、ここまで最上級の警戒をされなかったので、じくじくと胸が痛い。
最初から、この対応だったら、そんなに傷つかずに済んだのに。師匠の馬鹿。


ネガティブな思考を振り払って、頭を切り替える。
冗談にしてはあまりにも質が悪い!常識人の彼の顔が脳裏を過ぎった。

「・・・あの、マモルさん、いないんですか?」
「誰だそれ?」

・・・・状況は未だによくわからないが、何となく、感覚的に今の立場が理解できた。
神様ごめんなさい。
この前教会を盛大に爆破したことを怒っていらっしゃるんですか。

でも、いきなり、理解不能な状況に陥れるのは、酷すぎます。
今まで禍神で悪いこといっぱいしてきたツケも入ってるんでしょうかね。



人が盛大に悩んでいる中、師匠たちはアイコンタクトで
今の状況をどうするべきか確認しあっている。
自分の比ではないだろうが、彼らも戸惑っているのだ。

やがて、コン太さんが背伸びをして師匠と銃兵衛さんに何かを提案した。
周りが静かなせいか、丸聞こえだったが。
(それにしても、彼に狐の尻尾がついているように見えるのは、幻覚?)



「ともかく。テルマ君はブラックタイガーに加勢してた敵なんですから」
「いつ大人しくない方が出てくるかわかったもんじゃないしのぅ」

「捕虜、だな!」




師匠が大声で口に出した瞬間、銃兵衛さんとコン太さんが飛び掛ってきて、押さえ込まれた。
ナナと呼ばれる女の子は、まるで野生の獣と相対したかのように
師匠の後ろで様子を伺っている。・・・彼女に無理やり連れて来られたのに!



『この世界』のテルマという男がどんな人だったのか凄く気がかりだ。




















誰か、この状況の説明を