落ちたらまず助からないような高さのピラミッドから落ちて、
気づけば知らない場所に横たわっていた。
いくら落ちなれていると言っても、まさか助かるとは思わなかった。
痛む箇所もないし、ラッキーだったと喜ぼうとして、愕然。
「ほ、骨?」
「当たり前ですわ、ここは墓場なんですもの」
床一面に敷き詰められた骨に恐怖を感じていると女性の呆れるような声が聞こえた。
振り向けば、妙に見覚えのある… 確か
「我侭女社長?」
「あなた、私のことをそんな風に思っていたのね!!」
「そりゃ、そうじゃがや。否定できん」
「全くです」
続々と現れた女性の知り合いらしき人たちを見て、やっと思い出した。
「ダークリザードの四天王!……ここは何処なんですか?」
「まあ、有体に言えば」
「超人墓場」
億劫そうな説明。おそらく、何度も同じようなやりとりを繰り返しているのだろう。
「そ、それは一体どういうものなんでしょうか」
「ビーダーたちの墓場ですのよ」
「…あなたたちも、死んじゃったんですか?」
「は?おまえ死んだのか?」
「どういうことじゃ、聞かせんかぃ」
ずずいと顔面近くまで迫られて、後ずさる。
気づけば、見たことのないようなビーダーまで集まっていた。
「…なるほど、西園寺に喧嘩を売っていたのね」
「はい。だからここを出たいんです。方法はないんですか?」
「あるにはある」
伴平がポケットから水色の水晶玉を出した。
手のひら程の、小さな玉。
「これは生命の玉。ここで善行を積むと渡されるものだ」
「それで?」
「この玉を四つ持ってあの白い扉を通ると、自動的に現世に戻れるって仕組みさ」
「……僕はともかく、皆さん死んでないんでしょう?」
「多分、存在感の問題だと私思いますわ」
「はぁ………大変ですね」
「大変になるのは貴方なんですよ」
伴平はわざとらしくため息をついて、水晶玉を弄ぶ。
「僕が、この玉を一つ手に入れるのにどれ程時間かかったと思います?」
「………」
「こっちの二人なんて、未だ0ですから、0!」
うるさそうに目を細めて伴平を睨み付けるダラミと大蔵。
この二人ならまだしも、要領の良さそうな伴平でさえ玉は1つ。
できるだけ早く必人たちに合流したいのに。
どれだけの時間がかかるだろうか。
「おい」
「はい?」
「話を聞く限り、お前はコドウさんに協力していて、
なおかつ七人のビーダーとやらで必要な存在なんだな?」
「…まあ、そんな感じです」
「そうか」
一人の少年が近づいて、無理やり何かを押し付けた。
それが、伴平が持っているのと同じ水晶玉だと気づくのに、少し時間がかかった。
皆驚いているのを見る限り、この玉はそう簡単に人に譲るほど軽いものじゃなさそうだが。
「えっ、あの、これ。見ず知らずの方が何故」
「お前のためじゃない、コドウさんのために渡すんだからな。」
それと、俺はシュウ。一応、会ったことあるんだけど…」
「あ………それなら、俺も、一つしか持ってないけど渡すよゥ」
「貴方は?」
「バク、さ。もし必人に会ったら、よろしく言っといてくれよゥ!」
とても大切なものを人のために投げ出せる彼らと、
そんな彼らに好かれる必人たちを羨ましいと思った。
これなら、頑張ればすぐ四つ集まるかもしれない。
早速善行とやらを探しに行こうとすると、思いっきり袖を引っ張られた。
「な、何でしょうか伴平さん」
「……この流れで渡さないと僕がものっすごく印象悪いじゃないですか!」
「んなこと言っとる時点でもう終わっとるわガキ」
「うるさい!!ほら、受け取れ。この私を見限った西園寺の奴らに一発ぶち込んでこいよ」
「というわけで、なんとかすぐに帰ってこれたんです」
「ほー、そりゃすごい」
「実は、最後の玉も貰い物なんですけどね。誰がくれたと思います?」
「知らん」
『彼』はこの不思議な体験にもつまらなそうにそっぽを向く。
全てに興味を失ったかの如く、心の内側に閉じこもりっぱなしだ。
その方が、ある意味では良いのかもしれないが、
「ねぇ、ちゃんと聞いてくださいよー」
「うっせぇなぁ。もう興味ねぇんだよ、『外』のことなんて」
ごろりと寝転んで、本格的に耳を塞ごうとする『彼』を、
仕方なく蹴った。容赦なく、蹴った。
驚きで目をまん丸くして起き上がり、こちらを見るのを確認して、言ってやった。
「ブラックタイガーの人たちだったんです」
「………」
七人の聖なるビーダーとか、そんなことは関係なく。
善行なんて全然できない彼らがやっとの思いでかき集めた、
たった一つの水晶を
「貴方に、渡したんですよ。ばーか」
「……夢の話なのに、何で泣くんだよ」
「………・・・ばーか!」