七夕

「お兄ちゃ〜ん輪っかが切れたー!」
「僕の短冊ないよぅ!」
「ねぇこの飾りどうやって作るの?」
「輪っかはセロテープで貼り付けて短冊はテルマ君に貰ってください!
その飾りはこの型通りに切ればできますから!」


休む間も無く子供が群れをなしてやってくる。
その質問一つ一つに答えながら何故こんなことになったのかを思い出していた。


今日は朝から姉さん達がやれ帯止めが無い、
髪留めが無いと急がしそうに家中を駆け回っていた。
こんな時の最善の行動は巻き込まれる前に逃げ出す、だ。
玄関からだとばれてしまうので裏口へと回り込む。
幸い見つからずに無事に脱出することが出来た。
出来たはいいがさてこの後どうしよう。
真っ先に浮かんだのは彼の顔。
彼の所ならばバトルを申し込まれる事があってもこき使われるような事は無いだろう。
そう思ってやってきたのだが。


「ねぇねぇお願いって何でも書いていいの?」
「たくさん書いたらダメ?」
「何でも書いていいです。後、短冊1枚につきお願い事は1つだけです」


実際はこのザマだ。


「型通りに切っても上手く作れないよー!」
「俺短冊もっと欲しい!!」
「何で1枚につき1つなの?」
「あぁもう、全部答えますから待ってください!!」





「お疲れ様でした」


どうぞ、と冷たい麦茶を手渡された。


「・・・どうも」


軽く頭を下げながら一気に飲み干し喉の渇きを潤す。


「こんなとこまできてこき使われるとは思いませんでした」
「アハハ、おかげで助かりました」


軽く笑ってはいるが彼の顔も疲労が滲んでいる。


「・・・いつもこんな風何ですか?」
「はいー、毎年てんやわんやしてます。
 今年は先生が一人体調を崩していてお休みで・・・
 コン太さんが来なかったら僕倒れてたかもしれませんね」
「はぁ・・・・」


笑いながら言う事だろうかと半ば呆れていると彼が懐から何かを取り出した。


「丁度2枚余ってるんです。コン太さんも書きませんか?」


渡されたのは細長い紙。
つまりは短冊。


「・・・こんなので願いが叶うなんて非現実的です」
「気分の問題ですよ」



そう言って彼は短冊にサラサラと筆を走らせた。



「はい、コン太さんも」
「じゃあ、とりあえず・・・」


筆を受け取り短冊に願い事を書く。
普段使い慣れない筆は非常に書きにくく、短冊には不恰好な文字が並んだ。

しかめっ面でその短冊を睨んでいると彼が小さく笑ったのが聞こえた。


「何をお願いしたんですか?」
「・・・内緒です。テルマ君は?」
「内緒です」


でも、と彼は笑いながら言葉を付け加える。


「コン太さんと同じ願いのような気がします」





笹に紙を吊るすだけで願いが叶うなんて事信じてないけれど。
彼の言うとおり同じ願いをしているのだとしたら、叶うような気がしてくる。
風に揺れる笹を見ながらそう思った。


『いつまでも一緒に』