バクラとの勝負もつき、遊戯たちは何とか人形から元の姿に戻った。
獏良はすまなそうな顔で四人を見た。
「ごめんね、危険な目に遭わせちゃって」
「そんなことないよ!獏良くんのせいじゃないんだから」
遊戯が笑い城乃内たちも頷く。
獏良は困ったように微笑んでTRPGに使っていたノートパソコンを閉じた。
左手で。
「・・!!ちょ、獏良くん血が出てる!」
パソコンにも血がついているのに気づいた杏子が声を出した。
「そういえばあいつ、僕の手を思いっきり刺したなー」
全くなんて奴だ・・と呟きながら怪我をしていない手でパソコンの血を拭う。
「ってそんなの俺でもできるだろ!やっとくから獏良は病院行けよ!!」
城乃内が拭いていたタオルをひったくる。
だが、獏良はのほほんと城乃内から取り返そうとする。
「城乃内くん、人の血液はほおっておいてもちゃんと固まるから大丈夫だよ」
「限度があるんだよ!!!」
思わずつっこむが当人は軽く受け流す。
「だって、ほら」
そう言って獏良はシャツを捲る。
白い肌に何か五本の筋が見える。
本田はある程度予想が付いたが、それでもつい聞いてしまった。
「・・・どうしたんだ?」
「これに刺された」
床に放置されている千年リングを指差す。
「・・・・・・・・・いやー!!!!!」
杏子が今度こそ絶叫を上げた。
「だ、大丈夫?」
獏良が心配そうに声を掛けたが杏子は顔を覆って首を横に振る。
遊戯は見かねて獏良を説得しにかかった。
「ねぇ獏良くん。手の怪我もお腹の怪我も、そのままほっといたら化膿しちゃうかもよ?
 一回ちゃんと病院で見てもらったほうがいいって」
「うーん・・・・化膿したらまずいか。消毒液って無かったかなー」
どこまでも呑気な声で棚の中を探し始める獏良に四人はため息をつく。
とりあえず消毒だけでもさせとこうぜ、と本田が小声で言う。
それに頷き遊戯たちもそれぞれ部屋の中を探し始めた。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
「無いね」
「無いな」
引っ越したばかりだからなのだろう、極端に物が少ない。
「なんかアルコールの類はねぇのか?」
城乃内が冗談半分で尋ねる。
獏良はしばらく考え込み、冷蔵庫からビールを1缶取り出した。
(何で一人暮らしの獏良の家にビールがあるんだ)
誰もが思ったことだがあえて何も言わずことを見守る。
左手にそりゃあ、景気よくビールをぶっかけた獏良は後ろを振り向いた。
「ど、どうしたの?」
獏良はビールと血で濡れた左手を見ながら呟いた。
「しみる」
涙目で僅かに声が震えている。
杏子はその様子を見て不思議そうに尋ねた。
「どうして病院行きたくないの?」
「・・注射されるし、痛いじゃん」
至極単純な理由で驚いたが、遊戯は顔に出さず話しかける。
「その怪我じゃ多分注射されないし、
 それにビールで消毒するよりは痛くないと思うよ?」
「・・・・・・・・・・・・・・本当に?」
「本当。大丈夫だよ」
「でもさ」
「じゃあ僕たちも付いて行ってあげるから、ね?」
「・・・わかった。病院行くよ」
そう言って獏良は自室に戻って財布を取りに行った。
ぽつんと取り残された四人は、ひとまずリビングに戻った。
「なあ、遊戯・・」
「何?」
城乃内が何か言いたそうにしているので先を促す。
「ムツゴローさんって呼んでいいか?」
「駄目」
遊戯はにっこりと笑いながら短く答えた。













「・・だからね、獏良くん。この怪我は縫わなきゃいけないんだ。だから麻酔しよ?」
「注射やだ」
「でも麻酔だよ?しないと縫うときすっごい痛いんだよ」
「・・・・でも串刺しでも大丈夫だったし」
「縫うよりは麻酔のほうが痛くないから」
「・・・・・・・・・・・・」
「ね?一瞬で終わる」
「・・わかった」
「偉い!じゃあ部屋に戻って先生に謝るんだよ?」
「うん、でも終わるまで待っててね。絶対」
「じゃあ指きりしよっか」


「遊戯ってさ、やっぱりムツゴローさんっぽくないか?」
城乃内の言葉に杏子と本田は頷く。
「・・にしても獏良くん注射嫌いなんだ。ちょっと意外かも」
「それより、遊戯がすさまじいぐらい獏良を子ども扱いしている気がするんだが」
本田が二人のやり取りをそっと指差す。
「うん、だから注射嫌いといい・・子供っぽいのよね。本当に意外」
子供っぽいとかの次元じゃない気が・・、本田はそう思ったが
あえて何も言わず杏子に合わせることにした。