Let's 鬼ごっこ!



「もう面倒!!」
金髪の男が机を叩いた。
それにびくびくしながら、書類を持った男は様子を窺う。
「あ、あのー・・・ナルト様がお忙しいのはこちらもわかってますが・・」
「それも何度も聞いた!でも皆休みがあるのに何で俺だけ無いんだよ!!」
ぎろりと青い目を鈍く光らせて、薄笑い。
こういう時のナルトは、例えどんなことをしようとも逆らわないほうがいい。
「俺は今日一日休日にするっ!!!!」
だんっ、と机を踏み台にして正面にいた男の頭を乗り越え部屋を出るナルト。
ひらりと六代目の羽織が床に落ちた。
忙しない足音をBGMにため息をつく男。
「・・・・・補佐官に頼むか」


「くっ・・・俺だって仕事あるのに、ナルトめ・・・」
こめかみに青筋がくっきり浮き出ているシカマル。
六代目が逃げても補佐官ならすぐ見つけられる。
そんな暗黙の了解が木の葉の里にはある。
「さて・・・あいつはどこにいんのかねぇ」
やはり火影なのだから、たとえ抜け出しても里のことが気になるだろう。
ということは里の様子が見やすい場所・・・・火影岩。
シカマルは面倒そうに火影岩の方向へ足を向けた。


「お、六代目じゃねぇか」
「あー、アスマ上忍こんにちわー」
手を上げながら声を掛けられたので、ナルトも手を振った。
アスマの右肩には暗部招集用の鳥が乗っていた。
今日の世話当番でも押し付けられたのだろうか。
「おまえ仕事どうした・・」
「面倒だから逃げてきた」
「おいおい!そりゃ補佐官さんが怒るんじゃねぇか?」
六代目火影は人望も実力もあるが、如何せんサボり癖が酷い。
そのサボり癖を補佐官がまとめることでこの里は成り立っていると言っていい。
(といっても、まとめるためにかなりの損害が出ることも多いのだが)
「うん、もうすぐシカマルやってくるんじゃないかな」
「ほー・・ここに来るってことは、火影岩あたりか」
「そう。ああ、俺を見かけたことあいつに言わないでね?火影命令!」
「まーた職権乱用してんなぁ・・・・わかったわかった」
絶対だぞ、と念を押すナルトにアスマは笑う。
彼はシカマルの恐ろしいさをまだよく知らなかったのだ。

ナルトを見送って、再び鳥の世話をし始めるとシカマルがやってきた。
流石というか、伊達に補佐官をやっているわけではなさそうだ。
アスマが声を掛けようとすると、その前に気づいてやってきた。
「よう、元気にやってるか?」
「ああ。おい、ナルト見なかったか?」
いきなり、単刀直入である。
アスマは内心苦笑しながら、あらかじめ決めておいた回答をする。
「いや・・・なんだ、また逃げたのか六代目は」
「はい嘘、ナルトは絶対こっちのほう来ただろう」
自分でもかなり上手く答えたつもりなのに、シカマルにあっさりと一蹴されてしまった。
「はぁ・・・いきなりそんなこと言われてもなぁ」
「ふーん・・・・火影の権限使われてだんまりってか?なら別にいいけどな」
そう言い放ってシカマルはアスマの肩の鳥を見る。
鳥のほうもシカマルの顔をじっと見て動こうとしない。
いや、まさか鳥が喋るとは思わないのだが。
「・・・・・・そうか、やっぱりあいつは火影岩行ったか。でもこっちが来るのも
 読まれてるとなると・・先手必勝でいくべきか」
「って何でわかるんだよっ!!?」
「アスマ、これは俺の偵察用の鳥だ」
「いや、暗部召集用じゃねぇのか?」
「だから、暗部召集用兼俺の偵察用の鳥なんだよ」
偵察用の鳥というのは調教の難しさから決して多くは無い。
実際暗部召集用の鳥だって数は少ないのだ。
しれっと事も無げに喋るシカマルに、少し尊敬というか恐ろしさを覚えたアスマであった。
やましいことはしていないが、この鳥の容姿はしっかりと覚えとこう・・・・。


「うん、よし!町は異常無いみたいだな。これで心置きなく遊べるな〜!」
ナルトは火影岩から町を見下ろしていた。
綺麗な青空、地上には木々の緑と建物の色がよく映えている。
ここから見る里は、とても美しい。
知らず綻ぶ口元を押さえてもう一度伸びをして寝転ぶ。
昔はよくここにシカマルと二人で遊びながら寝ていた。
今じゃお互い仕事が忙しすぎて、こんなところには来ないが。
・・・・・まぁ、毎日顔をつき合わせてはいるけれど。
「明日は雨か・・・」
ここ最近春めいた天気だったが、明日からは一気に雨の日が続くらしい。
こんなにいい天気なのに。やはり、今日抜け出して正解だった。
ナルトはしばらく空を見ていたがむくりと起き上がった。
「とりあえず食べ物買いに行こ・・・・」

ナルトが商店街に出ると、食べ物のいい匂いがしてくる。
今日は色々と買うつもりだったが、その前に何か食べていくのもいいかもしれない。
やはりここは馴染みの一楽に行くとしよう。
すたすたと早足で歩き出す。ここで自分を追っているやつらに見つかったら面倒だ。
この速度なら思ったよりもずっと早くラーメン屋にたどり着きそうだ。
「やっほー、おっちゃん元気?」
「お、六代目じゃねぇか。久しぶりだな!」
一楽の親父はにっこり笑ってナルトに挨拶する。
ナルトも笑いながら暖簾をくぐり、席に座ろうとしたがすぐにやめた。
昼のピークも過ぎ、客も大していない店。
だがぽつんと一人、店の奥に座っている人物がいた。
見覚えのある、いや・・むしろ心当たりがありすぎる人物。
「よぉ、やーっぱりここ来たな」
「ちっ・・読まれてたかシカマル」
ラーメンを食べているシカマルにナルトは嫌そうな顔をする。
ここでつかまっては逃げた意味が無い。
だが安直に逃げてもこいつのことだ、きっとトラップを張り巡らせているに違いない。
どうするべきか・・・・・・
「ひゃー、疲れた疲れた!これからしばらくやっと休めるぜ!!」
「ワン!」
「うん、僕もおなか減ったよ〜」
ふと、店内の緊迫した雰囲気を全く知らずに暖簾をくぐった客たちが来た。
聞き覚えのある声。
「ん?何やってんだ、ナルトにシカマル」
「キバ・・・チョウジも」
丁度自分とシカマルの間を割るように入ってきたチョウジとキバ。
ナルトは好機とばかりにチョウジの背後に回る。
「シカマル!チョウジが惜しかったらそこを動くな!!」
「「・・・ってえぇ!?」」
いきなりの展開にキバとチョウジが声を揃える。
一体どこに自分の里の忍びを人質にする長がいるというんだ。
シカマルは鼻で笑いながらナルトを見る。
「ふん、お前がチョウジを殺せるわけねぇだろ」
「そっちこそ考えが甘くねぇか?俺の腕ならチョウジが苦しくないように
 しばらく幻術で意識不明、ぐらい簡単にできるぜ?」
昔カカシ先生にやったら上手く成功したもん、と付け足すナルト。
おいおいいつからそんな恐ろしいことやってたんだよ・・とキバは心の中だけでつっこむ。
大切な幼馴染を人質にされたシカマルだが、すぐに余裕の笑みを見せた。
「ナルト、てめぇも甘い。それなら俺はこの親父さんを人質にとる!!」
そう言ってシカマルはカウンターを乗り越え、
面白そうに二人のやりとりを見ていた一楽の親父の腕をがしっと掴む。
「ほ〜、俺かい」
「おっちゃーん!!・・・くっ、なんてことだ」
表情を崩し本気で悔しそうな顔をする六代目。
何かだんだんと低レベルになってきた火影と補佐官の掛け合い。
チョウジの隣にいたキバはちらりと赤丸に目配せする。
ともかく、六代目と補佐官がここにいることを誰か他の忍びに知らせたい。
だが赤丸に指示を出そうとした瞬間、頬にぴりっとした痛みを感じた。
間を置かず背後にあった壁が砕ける音。
ぞっとして視線を上げると、シカマルとナルトがにこやかに微笑んでいた。
「誰かに知らせるってんだったら、キバたちにはちょっとの間動かないでいてもらうってばよ」
「そうだな。俺もこいつとはサシでやりたいから余計な手出しはしないでくれ?」
「・・・は、はい」
キバが何度も頷くのを見て、再び二人は牽制しあう。
ナルトはチョウジを引き寄せじりじりと後ずさりしてシカマルから距離を取った。
「じゃー、俺はそろそろ行くわ。追いかけてくんなよ!」
「誰が!」
チョウジを放してすぐさま消えたナルト。
それを追うようにシカマルもすぐに消えていった。
「「「・・・・・・・・・」」」
ぽつんと取り残されたキバ、チョウジ、そして一楽の親父。
「・・・何だったんだろう」
「あの二人らしいよね。おじさーん、塩ラーメン一つ」
「おう、そっちの人は?」
「あ、じゃあ俺も同じの一つ」
先ほどまで人質にされていたのに全く気にせずラーメンを注文するチョウジ。
先ほどまで人質に去れていたのに全く気にせずラーメンを作る一楽の親父。
中々大物だ。
キバはそう考えながらチョウジの隣に座った。


「火影さま!」
「ん?どうしたんだ、モエギちゃん」
「町に沢山罠が仕掛けられてて、木の葉丸がひっかかっちゃったんですけど!」
「あー・・それは俺じゃなくって補佐官に文句言ってくれ」
「どーせ火影さまが原因なんでしょ!」
モエギの抗議に、ナルトは否定できなくて苦笑する。
ふと、後ろからシカマルの気配が近づいてくるのを感じた。
「やべ、そろそろ追いつきそうだ・・ってわけでごめんな〜!」
「あー!!・・・・・・もう」

「ちょっとシカマル!!」
「・・・ん、なんだよイノ」
「大通りに忍び用のトラップが大量に仕掛けられててみんな混乱してるのよ!」
「・・・・な、んでだろうなぁ」
イノの言葉に視線を逸らしながら会話するシカマル。
わかりやすい反応にイノは更に確信を得て声を荒げた。
「絶対あんたか六代目の仕業でしょ!!」
「文句なら六代目に言ってくれよ。じゃ、俺急ぐから」
「くぉらシカマルー!!!・・・・・・・・ったく、二人とも勝手なんだから!」

「・・・・あ、あのネジ兄さん・・」
「わかってます・・何なんだこの異様に多い罠は」
ネジとヒナタは町の大通りを歩いていて、すぐに立ち止まった。
忍びらしき人達が大量に倒れていたからだが、すぐに白眼を使えば原因はわかった。
街中におびただしい数の罠が仕掛けられているのだ。
どうやら一般人は普通に通れるみたいだが、忍びは罠を踏むだけでばっさばっさと倒れていく。
「・・とりあえず、家に戻りましょう。ヒナタ」
「・・・・・そうですね・・」
お互い、何故こんなに罠が仕掛けられているのかには触れない。
口に出すことさえ必要ないぐらい答えは明白だからだ。
((またあの二人だ・・・))



ナルトは木の葉の里の外れに来ていた。
人っ子一人いないこの場所に、桜の巨木がたった一本。
ひらひらと舞い散る薄桃色の花びらに目を細める。
ふと、シカマルの気配。
ナルトがもう逃げる気がないとわかったのか、何も言わず隣に来る。
「・・・・・ここは」
「綺麗だよな。桜」
前に偶然見つけた秘密の場所だった。
たった一本の桜の木なのにその存在感に自分は圧倒された。
「絶対、花見にまた来ようって思ってたんだ」
「・・・・だから今日なのか」
「うん」
明日からはずっと雨が降り続くと予報で知った。
ただでさえ満開を過ぎた桜なのだ。雨で散ってしまうに違いない。
だからこそ今日に見たかった。
「シカマルと見たかった」
本当は花見らしく食べる物も買いたかったがしょうがない。
こうして純粋にただ花を見るのも悪くはない。
「・・・・・・・・・・本当に、綺麗だな」
「でしょ?」
二人はしばらく時を忘れて、桜に見入っていた。
・・・・・・・・本当に時間を忘れて。


「ふぁ〜・・随分時間経っちまったな」
「うん、もうすっかり夜になっちゃったし」
シカマルはもう一度思いっきり伸びをする。
涼しい夜風に当たりながら仲良く肩を並べて歩く二人。
しかし、里の方に行くにつれ何か違和感を感じた。
「・・・・なんか、殺伐としてね?」
「ああ・・」
この時間なら歓楽街もそこそこの賑わいを見せているはずである。
だが今日はどういうわけか忍びたちが真剣な顔であちこちを見回して歩く姿しか見えない。
ふと、一人の忍びが二人に気づいた。
はっとした表情、二人が何かを問う前にすぐさま叫びだした。
「六代目と補佐官がいましたー!!!!」
ざざざっと、その声がした方に忍びたちが集まってきた。
怖がっていたり涙目だったり怒っていたり・・ともかく様々な表情でこちらを見る。
「・・・一体どうしたんだ?」
「・・・・お二人とも、あなたたち自分が何してたか覚えていらっしゃらないんですか?」
「え?・・・町で追いかけっこしたぐらいしか覚えはないけど」
「その追いかけっこです!!」
「お二人のトラップで町は大混乱だったんですよ!!!!!」
倒れる忍びたち。突然火を噴く壁。危険を回避しようと屋根に上れば足が屋根瓦にくっついて動けない。
そんな罠が大量に仕掛けられて、混乱しない方がおかしい。
七割は忍びたち自ら嵌って、三割は白眼などで見つけ出し除去した。一日がかりで。
しかも仕掛けた当人らは行方知れず。
文句の一つや二つ言いたくなる。
「・・・・・・と、とりあえずお疲れさ〜ん」
「ご苦労さん。罠外しの抜き打ち演習だったとでも思えば・・な?」
そう労いの言葉をかけ、二人は全く同じタイミングで走り出した。
「くっ逃げられた・・・」
「おい、せめて時間外労働手当を頂かないと・・」
「そうだ、このままじゃ本当にただ働き・・・・・」
「・・・・・・・・待ってくださーい!!六代目、補佐官!!!!」
追いかける大勢の忍びたち。逃げる六代目&補佐官。
夜中でも、木の葉の里は元気いっぱいだ。



卯月 契様へ 「六代目&補佐官の周囲を巻き込んだギャグ」
た、多分火影&補佐官ネタのギャグで・・す。(ちゃんとはっきり言いなさい)
見事にだらだら長くなってますね・・・・
こんなんでよろしければもらってやってください。
卯月さま、リクエストありがとうございました!!


NARUTO→