恋と妄想の片道切符





今日の任務は紅班との合同任務。
内容は極簡単、書庫の整理であった。


あー・・・めんどくせぇ。シカマルじゃないけど本当に面倒。
「ナルト、そんな嫌な顔しないでそっちの棚やりなさいよ」
「うー・・サクラちゃん、だって本当に面倒じゃん」
「そんなの皆同じなの!・・・・ほら、さっさと行け!」
サクラに背中を押され仕方なく、ナルトは自分のノルマの棚に歩いて行く。
途中通りかかった本棚に、覇気の無いキバがへたりかかっているのが見えた。
書庫に入る前にペット厳禁と言われ赤丸を外に残さねばならなかったからだろう。
いくら忍犬だと言い張っても頑なに断った司書。
あまりに可哀想で上忍のカカシまでもが一緒になって進言してやっていたが、
やはり最後までつっぱねていた。
ある意味司書の鑑だ。
背後にどんよりオーラを背負っているキバを一瞥して、
ナルトは分担された自分の本棚に向かう。
ドンと誰かとぶつかってしまった。
棚の影で見えなかった。
倒れることは無かったが、後ろによろめいた。
「「すみません・・・・・げ」」
お互いぶつかったことを素直に謝ったが、
その顔を見たことで一気に態度を変えた。
「ナルト・・・」
「どーしてこんなとこにいるのかねぇシカ・・んぐっ」
ナルトが『シカマル』と言おうとするが、その口はすぐさま手で押さえ込まれた。
シカマルの今の格好は暗部服。変化で容姿も変えている。
口を押さえているシカマルの手を何とかどかせて、ナルトは軽く睨み上げる。
「何するんだってばよ」
「・・・・ナルト、もうそれ嫌がらせ以外の何物でもねぇな・・」
ぎろりとシカマルは睨む。
その態度に満足したように笑うナルト。
ちらりと周囲を窺って、先ほどとは違い慎重な、小声でシカマルに尋ねる。
「で、何でこんなとこにいんだよ」
「・・・昨日の任務でのターゲットが、ここらへんの本棚に禁書いくつか紛らせたらしいんだ」
「・・・・・・・それやばくない?」
あまり使われていない書庫だが、今日は任務で下忍たちが一つ一つ手に取っている。
そのナルトの発言にシカマルは頷く。
「昨日全部回収したつもりだが、一応・・念のためにな」
取り残しがあるか調べに来たらしい。
本棚と壁に区切られ、一種の部屋のようになっているこのスペース。
シカマルのターゲットが逃げ込んで、そしてここで捕まったんだろう。
「ふーん・・じゃ、確認も含めてこの本棚の整理をしよう」
「いや、それお前の仕事だろ。一人でやってろ」
「いいじゃん、効率もいいだろ?」
「いやいや、お前がただめんどいだけだろ」
それはシカマルにも言えることだったが。
ぐっとシカマルの暗部服の襟首を掴むナルト。
それに応戦するようにシカマルも無言でナルトの胸倉を掴む。
一歩間違えれば戦闘になりかねない雲行きになってきたが、それを打破する声。
「ナルトー?さっきから話し声ばっか聞こえるけど仕事してるの?」
棚の向こう側から、ひょっこりとカカシが顔を出す。
固まる。
そりゃ、自分の教え子が暗部と胸倉つかみ合ってたら、思考停止してもおかしくないだろう。
だがそんなカカシの介入のおかげで、一気に二人の雰囲気も和らいだ。
カカシの態度を不審に思った下忍たちがナルトを見にやって来る。
「・・・ナルト、この暗部の人はどうしたの?」
カカシに代わり紅が尋ねる。
ナルトはにっこりと笑って答えた。
「この人は昨日の任務の詰めが甘くって休日返上しなきゃいけなくなった可哀想な暗部だってば」
その言葉に、上忍だけでなく下忍たちも顔を青くする。
「・・・てめぇ、言うに事欠いてそれか?」
「んー?どこか間違ってるとこあるのか?」
「俺の詰めが甘いってところが間違いだなぁ。昨日は新人の尻拭いを俺がやった形になっただけだ」
「・・・・・あのー、あなたはナルトと知り合いなんですか?」
サクラが話に割ってはいる。
二人は少し黙り込み、ナルトが答えた。
「そうだってば」
「何で暗部なんかと知り合いになるんだよ?」
今度はキバの質問。
ナルトとシカマルはお互いじっと顔を見合わせる。
まさか、暗部で一緒に仕事をしているとは言えるわけが無い。
実は正体がシカマル、なんてのはもってのほかだ。
「そういうことは機密事項だ」
「・・・・そ、そうか」
シカマルが内心冷や汗を掻きながら固い口調で言い放つと
キバはびくりと怖がって、それ以上は聞かなかった。
「じゃあ俺はそろそろこの辺で失礼する」
シカマルはそそくさとその場から離れようとするが、
服の袖をぎゅっとナルトにつかまれる。
「・・・・・何するのかなー、ナルト君」
「てめぇ、ここで俺が逃がすと思うなよ・・・」
このままシカマルがいなくなれば、自分が質問攻めにされることは間違いない。
シカマルがぎりぎりと裾を離させようとするが、ナルトも渾身の力で握りこむ。
「・・・・・・・はなせ」
「絶対ぇ、やだ」
お互い全く動かないが、小刻みに震える手から力のこもり具合が伝わってくる。
シカマルも面倒なことは嫌いなので、ここに残りたくはない。
「くっ・・羨ましい・・ナルトにこんなに引き止められて・・!!」
カカシが拳を握ってシカマルを睨みつけた。
いきなりのその発言に、二人は思わず声を揃えて聞き返す。
「「はっ?」」
「だって、ナルトとすっごい仲良くしちゃってさ!!」
「俺だってこんなに引き止めてもらったこと・・・・!!!」
カカシに便乗してサスケも同じように叫ぶ。
阿呆だ、写輪眼sは本当に阿呆だ。
二人の叫びに、ナルトは嫌そうな顔をするし、サクラにいたってはため息ついて頭を振っている。
「・・・・こ、これ・・日常茶飯事なのか?」
キバの問いにサクラは何かを悟ったような虚ろな笑顔。
「いい加減慣れるってものよ・・・」
「そうか・・・・・」
シカマルは睨む二人を冷めた目つきで見る。
「俺とナルトが仲良くしてようが、あんたらには関係ないだろう?」
「関係ある!!俺はナルトと夕日の見える浜辺で将来の約束までしてるんだから!」
そりゃ明らかに妄想だろう、と誰もが明確に悟った。
サスケも声高々に叫ぶ。
「俺だってドベと口付けまでした仲だぞ!!傷物にした責任はちゃんと持つ!
 ドベだって了承したじゃないか!!」
その言葉に、周囲の人間は深いため息をつく。
黙っていれば・・というか普段どおりならば
何もせずとも女性が集まってきそうな容姿の二人。
だがナルトへの愛を叫ぶ彼らは変態にしか見えない。・・・・なんとも勿体無い。
「おまえらなぁ・・・・」
ナルトがあることないこと喋る彼らを黙らせようとしたとき、
隣にいたシカマルがそれを制した。
シカマルは一歩前に出て、二人をそれぞれ睨む。
「てめぇら・・・・・・ナルトにそれ以上ふざけた事言えねぇようにしてやろうか?」
パチッバチッ、静電気のようにチャクラが弾けるような音。
シカマルは潔癖な性格からか、ナルトより数十倍は変態が嫌いなのだ。
そんな彼の心の琴線に見事に触れてしまった二人。
あまりの気迫に、周囲の下忍たちはざざっと三、四歩後ずさった。
「ふーん・・・この俺とやる気?」
自分の力に自信のあるカカシは、挑発するようにシカマルを見る。
サスケは喋るほど余裕は無さそうだが、引き下がる様子も無い。
「ほぅ・・手ぇ引くつもりはないわけだな・・・いい覚悟だ。表出ろ!!」
「「望むところ!!!」」
書庫の窓からシカマルは出て行き、カカシとサスケもそれに続いて出て行った。

五月蝿いのがいきなりいなくなってしーんと静まり返る。
ナルトはそ知らぬ顔。
「いくら暗部ったって、カカシに勝てるとは思えないけどねぇ・・・」
「あー紅先生、それ間違い。絶対あいつにカカシ先生が勝てるわけないってば」
「何でそんなこと言い切れるの?」
「だってあいつカ「はい、ナルト君それ以上言うんじゃねぇよ」
ナルトがシカマルの暗部名を喋ろうとすると、シカマルのクナイが飛んできた。
避けなくても外れる軌道だったので動かなかったが。
紅たちはシカマルがすぐに戻ってきたのに驚いた。
「な・・サスケくんたちは?」
サクラの問いに面倒くさそうにシカマルは答える。
「あー・・・・瞬殺」
「嘘、カカシあれでも・・・・・・・まさか」
変態であろうがカカシは一応里内でも有数の実力者である。
それをいとも簡単に倒せる忍び。
紅には心当たりが二人ほどいないわけでもなかった。
その紅の思考がよめたナルトは、にやりと笑って丁寧に答えてやった。
「先生、この人『カノコ』だってば」
「・・・・なっると!!」
ナルトの台詞に思わず胸倉を掴むシカマル。
絶対噂になってしまうからできるだけ隠したかった暗部名。
ナルトはにやにやとこちらを見て笑っている。
「そう・・あなたがカノコなのね・・・・。流石だわ」
他の下忍たちもよくわかっていないが紅の反応を見てとりあえず納得している。
ナルトがそれ以上何かを言う前に、シカマルは煙と共に消え(逃げ)てしまった。
だがもう遅い・・・・絶対このことは噂で広まるだろう。


「カノコー!!俺のお嫁さんは絶対渡さないからね!!!」
「だーかーら、違うって言ってんだろーが!俺は別にあいつと結婚したいなんて思ってない!!」
「しらばっくれんなよ!もっかい勝負しろー!」
うざいぐらいに追いかけてくるカカシから逃げていると、ふと目に留まった人物がいた。
コノト。ってかナルト。
「くっ・・・あっはははは!!大変そーだなぁ、カノコ!」
「ってか全部てめぇのせいだろーが!責任取ってこいつ引き取れよコノト!」
「はぁ?何言ってんだよカノコ。頑張って愛しのあの子を手に入れろよな〜応援してるぜ!」
カカシ、カノコ、サスケが少年N(どうやらそこは伏せられているらしい)を巡ってバトルしている。
そんな噂が里に・・上忍や暗部を主として広まっている。
面白そうに見物する者、誰が勝つか賭けをする者、告白のアドバイスをする者etc・・・
皆やることはそれぞれ違っているが、結局のところいい娯楽となっている。
今だってカノコとカカシの追いかけっこに忍びのギャラリーが出来ているほどだ。

「っ・・お、俺が好きなのはコノトだ!!!」
「「「「「「・・・・・・・・・え?」」」」」」
カノコがこの状況を打破しようと、苦し紛れに言った言葉で
また一波乱起こったりもするのだが、それはまた別の話。











藍砂様へ 「暗部シカが表の任務中のナルトと仲良くやり取りしていたのを
ナルト好きの人達に見られて、嫉妬されてバトルに発展」

長い上に微妙な話で終わってしまいました・・・
ナルト好きの人たちを誰にするか悩み、結局写輪眼sに。
しかも好きっていうよりただの変態・・・!!(汗)
ツッコミどころは多々ありますが、と・・とりあえずこれでいいですか?


NARUTO→