「えっとー、お芝居やるんだけど、これでいい?」



アカデミーの教室。
子供たちがわらわらと、話したり、集まったり、遊んだり。
いのが声を張り上げて、何とか皆静かになった。
「お題目は九尾襲撃事件。四代目の偉業を称える、をコンセプトにします」
アカデミー主催の催し物。
生徒たちもクラスごとに分かれて出し物をすることになっていた。
「・・・・よく、先生たちから反対出なかったな」
シカマルの呟きを、いのはにっこり笑って返した。
「んなもん、生徒の自主性の権利を謳えば一発よ。ってか反対される理由が見当たらないわ」
一応は反対されたらしい。
まぁ、何故反対されるのか、本当の理由を言うわけにもいけないから、
先生方も大分困ったことだろう。

「一応あれは過去にあった出来事でしょ?だから、リアリティを追求したいんだけど」
「なんだよ、どーすんだぁ?」
その質問に、いのの隣にいたサクラがにやりと笑った。
どうやら良い案があるらしい。
「この中に、お父さんとかお母さんがその事件に関わった人、どれくらいいる?」
全員手が上がる。
一応、大抵の子供は親も忍者である。
そうでない子供も、木の葉に何か店などを構えていたりと、
とりあえずあの事件に関係していないわけではない。
「あのね、この劇では、九尾と火影様以外の役を、お父さんやお母さんの役としてやってみない?」
「・・・・・・え?」
「だから、お父さんの名前で忍者役とか、お母さんの名前で食べ物屋さんとか。
 まあ、勿論いちいち名前を言うわけじゃないけど」
僅かな沈黙。
この中には、その事件で親を亡くした子供も、いないわけではない。
だが、キバは場を明るくするように大きな声で喋った。
「いいんじゃねぇか!?親父の活躍、キバ様がかっこよく演じてやるぜ!」
「俺も」
「うん、私もそれ、いいと思うな」
ぽつぽつと好意的な意見が出て、サクラは笑顔になった。
いのもそれに頷いて、皆をぐるりと見渡す。
「じゃ、これでいいと思う人、手ぇ上げてー!」
いのが手を上げると、他の子供たちも続いて手を上げた。
見る限り全員が手を上げているようだ。
・・・・だが、一人、手を上げていない子供を見つけ、いのは不審がった。
「・・・・・ナルトは、この案あんまりよくないと思う?」
珍しい。
クラス1の悪がきとして有名な彼なら、嬉々としてやるだろうと思ったのに。
今のナルトは、何か悩んでいるようだった。
「どうしたの?だめなとこあるなら言ってよ」
「なぁ・・・いの」
「何?」

「俺は九尾と四代目のどっち「ナルトてめぇマジうぜぇぇぇぇぇ!!!!」


ほとんど机につっぷした状態で話し合いに参加していたシカマルが、
掴みかかるようにナルトを殴り倒して襲い掛かった。
ナルトは一応受身を取っていたらしく、大した怪我はなかったが
他の子供たちはいきなりの乱闘に巻き込まれて思いっきり被害を被っていた。


「ちょっと、あんたら何やってんの!」
「「うっせぇ!!」」

プチッ

何かが切れる音がした。













「ってわけで、意外に『親の役』が大人気で、
 四代目と九尾の役が決まってないの。だからあんたたちでやりなさいね」
「え、ちょっと。勝手に決められちゃうの!?」
「寝てたんだもの、しょうがないでしょ」
「・・・いや、寝てたっていうか、実力行使で寝かされたっていうか・・・・・」
「ん?」
「「・・・・・ナンデモナイデス」」






「で、どうする?」
子供たちが帰った後。
ナルトとシカマルは裏の任務があるので、合流する手間が面倒だとシカマルがナルトの家に来ていた。
「シカマルどっちがいい?」
「ってか、おまえが九尾やったら恐ろしいことになりそうだろ」
暴動とか暴動とか暴動とか。
ただでさえ、9月22日になると危ない輩が増えるのに、
そんな芝居上演された日にはどんなことになるのやら。
「じゃあ、俺が四代目。・・・ま、これはこれで問題ありそうだけど」
「九尾よりはましだろ」
「まーね。・・・・・んじゃ、衣装とかは三代目とかに俺が相談してみるよ。
 もしかしたら四代目の服とか細かいとこまで教えてくれるかもしんないし」
「OK」




「・・・・・・・・・・・・・・・ナールートー君?」
「ぎゃはははははは!!!!最っ高!!それ着て、今すぐ速攻着ろ!!」
ナルトから渡された衣装。
明らかに、子供たちの手作りではない。
「誰がこんな出来損ないのヌイグルミみたいな服着るかっ!!!」
「いや、『みたいな』じゃなくてまんまだから、普通にヌイグルミのきぐるみだから」
「おまえがやれ、おまえが九尾!!」
「やだぁ、暴動怖いもーん」
「てめぇなんていくらでも返り討ちにできんだろうが!!大体これなら顔も見えねぇ」
顔に被るのと、肩から下の服で、二つに分けられるタイプだ。
だが、顔に被る方は、かなり大きいし重い。
・・・これは、喜劇か?いのたちの話を聞く限り真面目な芝居だと思ったが絶対違う。

「あ、こんなとこにいたの?シカマル、それ九尾の衣装?さっさと着なさいよ!」
「・・・・・マジで?」
「衣装、合わなかったら大変でしょ」


「・・・・・・・・・・あっはっはっはははははははははははっ!!!!」
「・・・ちょっと、これは、お笑いになっちゃいそうね」
表情は見えない。可愛らしいつぶらな瞳の狐の被り物に隠されているから。
だが、明らかに今のシカマルは怒っていることがわかる。
それでもナルトは笑いを止められない。

「ヌァートー!!!!」(ナルト!!)
声がくぐもってよく聞こえないが、シカマルがナルトに向かって突進してきた。
その行動に、ナルトは口元を歪めて好戦的な表情。
「ふん、九尾ごとき、この四代目が退治してくれるー!」

九尾の拳がぶんっと凄まじい音をあげる。
だが、もふもふとした毛で覆われているので、あまり大したものには見えない。
それでも軽いフットワークで九尾はナルトに連続攻撃をしかける。
ナルトもかわしながら、九尾に小さな打撃を与えていく。

「きゃー、何あれ。可愛くない!?」
「ってかアレ何?アライグマ??」
「違うよ、犬さんだよ!」

何故かギャラリーまで出来はじめた。



「あ、子供がくまさん攻撃した!」
「ひどーい」
「くまさんガンバレー!あ、やった、よし、そこ!!」
「わ、わー!!くまさん!!」

何故かくまさんコール。
女性や子供が多い。特に子供は何故かくまさんをヒーロー扱いしている感がある。



「・・・・・・シカ、何か違くね?」
「・・・」
こくりと頷くシカマルことくまさん。
一応九尾なのだが、デザインが可愛らしすぎたか。
「・・ま、とりあえずこのデザインは没っぽいな、くまさん?」

挑発したら無言で再び追いかけられた。
殺気がびしばしと伝わってきた。
逃げた。
でも追いかけてきた。

「あー、くまさん行っちゃう!!」
「がんばってねくまさん!!」


くまさんコールを背に受けつつ、二人は走っていった。




この行動で、里中がくまさんブームになるとは、未だ知らず。