俺は見たんです。
ええ、はい。信じてくれないかもしれないけど確かに。
つい三日前の出来事でした・・
その日に大雪が降ったの、覚えてますよね?
俺は徹夜の任務明けで、近道をしようと畑のある平地を横切ってたんです。
・・そりゃ、立ち入り禁止でしたけど。
でもそんなの守ってる真面目なひとなんていないじゃないですか!
ああ、責めてるわけじゃない?・・・すんません。
それでですね、真っ白な雪原みたいになった畑を、横切ったわけです。
そしたら・・・・はい、子どもがいたんです。
雪遊びをしていたとかじゃないんです。
寒いのに裸足で、しかも浴衣みたいな薄い服を着ていたんです。
おかしいなって思ってよくよくその子どもを見ていました。遠目でしたし、
真っ黒の長い髪が印象的で少女かと思ったんですが、ちゃんと見れば少年でした。
でもやっぱり服装といい、状況といい、怪しくて
警戒しながら見てたんです。
その子、何したと思います?
・・脇にバケツが置いてあってですね、その子はそれに手をつけたんです。
すぐに腕を引き出したんですが・・・・真っ赤に染まってました。
職業柄よく見かけるからわかります。あれ、絶対血でしたよ。
それだけで怖かったんですが、その子は血で滴った腕を振り上げて、色んな場所に撒き散らしていました。
恐ろしいと・・・・・でも、すごい幻想的で綺麗でした・・・はい。
ずっと魅入られていると、ふと気づいたんです。
撒き散らされた血の跡が何かの模様のように広がっていることに。
はい、あれは多分口寄せや土遁とかの時に使うチャクラの陣のようなものなんでしょう・・
そこで初めて気づいたのですが、子どもは二人いたんです。
血の陣に囲まれるようにして立っている子どもがいました。
・・・金髪で真っ白の着物だったから、目立たなかったんです。
あれは・・・・・・九尾の子どもでしたね。
別に俺は偏見とか持ってませんが、それでも『ああ、やっぱり九尾』とか思っちゃいました。
だって、異常ですよ。あの雰囲気は。
町で見かけたことがあるんですが、そのときのような明るさは全然なくって、
いたって冷静に血を撒く子どもを見ているんです。
普通の子どもがそんな光景正視できますか?
ある程度血を撒き終わった子どもは、狐の子に近づいていきました。
それから二人で向き合って印を組んで・・急に目の前が真っ白になったんです。
・・・雪とか、意識とかのせいじゃないですよ。
それぐらいまぶしい光が二人を包んでいたんです。
普通の忍術だってあそこまでの光を発することはないですよ!
眼が眩んで、でもしばらくしたら納まりました。
もう一度、彼らの方を見たら目が合ってしまいました。
殺されるんじゃないかって、理由も無く急に怖くなって急いで逃げ出しました。
本当に、不思議で、ちょっと怖かったんです・・・・
え?・・いや、なんか誰かに言ったら呪われそうで、怖くて誰にも言えませんでしたよ。
でもあなたたちは、あの子どもたちについて何か知ってるんでしょ?
もしかして任務・・・いや、これは聞いちゃいけないことでしたね。
だから正直に話したんっすよ。
なんか参考になりました?あ、なったんなら幸いです。
・・・・・何で笑ってるんですか?
あなたたち、あの有名なコノトさんとカノコさんですよね!?
ねえ、だってその面は本物ですし・・・何の真似ですかっ!
・・・・・・・・・・・・・・っ・・・・・
「コノト、ちゃんとやったか?」
「おう。完璧に記憶消去した。ここ数日の記憶は思い出せないさ」
コノトはにやりと笑い、倒れている男を担ぎ上げた。
大して重労働ではなさそうなのでカノコは手伝わずに隣を歩く。
「でもまさか、あの契約場面を見られるとは思わなかったしな・・・」
「ああ。そういえば、ちゃんと成功したのか?あん時契約した白笛鳥」
雪の中でないと現れない、雪の主と呼ばれる鳥。
その鳥と口寄せの契約をするためだけに、二人は
寒い雪の中を薄着と裸足で歩いた。頑張って歩いた。
「んー・・・一応契約は上手くいった。カノコも手伝ってくれてありがとよ」
「おう・・・・ったく、あれ呼び出すためだけに何匹の魚の血を使ったと・・」
「食べきるの大変だったよなぁ」
「おまえ結構余裕で食ってたけどな」
先ほどいた場所より少しだけ人通りのある通りに担いでいた男を放置する。
コノトとカノコはゆっくり息を吐いた。
「なあ」
「何?」
「『コノト』とか『カノコ』の名前って便利だな」
カノコはしみじみと眠っている男を見下ろす。
こんな怪しげな二人組でも、コノトとカノコだと明かせば
ぺらぺらと情報を喋ってくれる。
感慨深げにするシカマルを見て、笑いながらコノトは答えた。
「今更気づいたか?『真っ黒の長い髪が印象的で少女』に見えたシカマル君」
数秒後、
巨大なチャクラの塊がぶつかり合う音がした。