中忍試験も混乱の中終了し、里の修復作業があわただしく始められた。
忍者不足で下忍であろうとも任務に追われていた。
勿論任務といっても里外のものではなく、破壊された建物や樹木などを
退かしたり運んだりする単純な肉体労働が主だったが。
今回は広範囲にわたる作業であったので異例の四班合同任務であった。
早朝から広場に現地集合で、カカシは時間通りに来なかったが
先に仕事を始めることになった。
(・・後にわかったことだが、アスマとガイはカカシの遅刻癖をよく知っており
カカシ班と合同任務の際は下忍を現地に直接来させるよう決めていたらしい。)
二人一組に分けて掃除をすると言われたので勿論ナルトはシカマルと組んだ。
リーが入院しているので一人余るが、チョウジが「男手も必要なの!!」と
いのに引っ張られさくらと三人班になったので問題も無くなった。
他も各々適当に組んでそれぞれの担当のところに散っていった。
町の広場はなかなか大きく、一応全体は見渡せるがそれでも
端から端までは結構な距離があった。
「・・・・何なんだよ」
しばらくは普通に瓦礫を少し大きな台車に積んでいたのだが、
ナルトは我慢の限界というように低く呟いた。
シカマルは諦めたようにため息をつき、ナルトをそっと見た。
傍目からは黙々と真剣に作業をしているように見えるが
目は明らかに怒りを帯びている。
それもそうだ。自分だってあんなふうにじっと監視されるように見られたら嫌になる。
しかも見ている人物がヒナタとネジ、白眼ではたまったもんじゃない。
「何かやったのか?」
「知らねぇよ、ネジには全くそんな覚えはねぇし・・
ヒナタだってここまで見てくるようなことは無かったんだが」
「とりあえずゴミ捨てに行こうぜ、そこなら流石に見てくることはしねぇだろ」
ふぅ、と一旦手を休める。
瓦礫やごみで山積みになった台車を眺めた。
台車はいっぱいになると子供でも一人では運べなくなるほど重くなるため
二人で押して捨てに行くことになっている。
ナルトは右、シカマルは左に立って押すことにした。
「で、シカマル君。本当は何か知ってんだろ」
ナルトは通り道にある茶屋に寄り、ワラビ餅を二人分頼んだ。
それを横で聞いてにやっとシカマルが笑う。
「おう、大体そうなったわけは知っている」
「教えろ」
シカマルは茶を啜りながら遠くを見た。
「若いな」
「・・あの二人が、か」
出された皿を一つ受け取り、シカマルは黙って食べる。
それを肯定と受け取ったナルトは嬉しそうに笑った。
「なーるほど、それで・・・・」
「言っとくが、からかってやるなよ?あれで隠してんだからよ」
「勿論、だけどこのままじゃ困るんだよ。いくら俺でも白眼で四六時中監視されてちゃ
ぼろが出るかもしれないだろ?」
そう言うとシカマルが何かを企んでいるような顔でこちらを見てきた。
昼になり、昼食を食べることになった。
広場の横にある花壇の横ではサクラとイノは喧嘩をしながらも一緒に食べたり
また、水の出ていない噴水の側で仲の良い八班はキバが一方的に喋りながらも楽しそうに食べている。
シカマルはチョウジと食べていたが
ナルトはさっさと食べ終えてネジの元へと行った。
「・・何のようだ」
ナルトが目の前に立つと座っているネジは見上げるような形になった。
「ちょっと話があるってば、こっち来いよ」
文句を言ってくると思ったが、何も言わずネジは付いて来た。
大分離れたところまで来るとナルトは口を開いた。
「ネジってば、何で俺のことずっと見てんだ?」
「別に・・・」
ナルトは首を横に振って否定した。そして目を逸らしながら言った。
「俺知ってるんだ、ネジ・・好きなんだろ?」
ばっと顔が赤くなったネジが微笑ましくて、思わず笑いかけようとした自分を
なんとか抑えた。
「でも俺、ネジの気持ちには答えられないんだってば。ネジはカッコいいし
女の子にももてるんだから、諦めて新しく頑張るってばよ!」
「・・・って違う!誰がナルトのことを好きだと言った!!?」
呆けて聞いていたネジが慌てて否定した。勿論ナルト自身、自分がネジに
そういった恋愛感情を向けられていたとは思っていなかった。
「は!?だって、ネジってば俺のことずっと見てたってば。あれはどうして?」
「・・・・・・・・いや、その・・別に」
「じゃあ、やっぱり俺のことが好きだったってば!」
「だから違う!!俺はヒナタ様がナルトのことを気にしてるからこういうのがいいんだと・・!!」
「ふーん、なるほど。ヒナタの好みに合わせようとしてたってわけ」
にやにや笑うナルトにはっと赤くなったり青くなったりするネジ。
「・・・言っとくけどなぁ、ヒナタって別に俺のことそういう意味で好きってわけじゃないってばよ」
は?と素直に聞き返すネジにナルトは呆れたように返す。
「あれって、思ったことを素直に言える俺に憧れてるだけだってば。
しかもネジは気づいてないみたいだけど、ヒナタも結構ネジのこと気にしてるってば」
「・・・・・・・・・・そんなことは」
ネジは俯く。
(ネジってこんな性格じゃ無かっただろ・・・!)
ナルトは密かにつっこむ。
「ったく、なら証拠見せてやるからもっかい付いて来いってば!」
「なぁヒナタ、ちょっと話があるんだが・・来てくれないか?」
そう話しかけられ、ヒナタは戸惑いながらも小声で「うん」と言って頷いた。
隣にいたキバとシノが不思議そうな目でシカマルを見上げた。
シカマルはイノ以外の女子と喋っているところをあまり見かけたことが無い、
ましてや自分から話しかけるなど無いといっていいほどだ。
ヒナタもあまり喋るほうではなく、この二人が会話を交わしている時点で
それはとても珍しい光景であった。
二人が離れて、ちょっと尾けて行こうかとさえキバは思った。
「なぁ、めんどくせーし率直に言うが、ヒナタはナルトのことが好きなのか?」
シカマルは横にあった倒木の上に腰掛けながら尋ねた。
ヒナタもその横にそっと座る。
「う・・・・・・・・・・・ん」
「だよなぁ、あんなに熱心に見てたわけだし」
やっぱりばれていたか、とヒナタは恥ずかしくなった。
ナルトの側にいた彼なら確かに気づいてもおかしくなかった。
「あいつのどこが好きなんだ?」
「・・・えっと、優しくて自分の思ったことをちゃんと言えて、明るくて・・」
「自分もそんな風になりたい、か?」
「え・・・・」
「ヒナタのそれって、自分が無いものを持っているナルトに憧れている、って感じっぽいな」
ヒナタは考えるように手をぎゅっと握りしめ、シカマルに目を合わせた。
何を言おうとしているのか察したシカマルは先に言った。
「別に、誰かに言いふらそうとは思わねぇよ」
「・・・私の家は、シカマル君も知ってるかもしれないけど、宗家とか分家とかで色々あるの。
ネジ兄さんもそれにすごい巻き込まれてて、でも兄さんは強いから苦しみながらも頑張ってる。
・・・・・だから、私もいつまでもびくびくしてたらだめだなって・・」
こうして自分の思いを人に告げるのは初めてだった。
目の前に立つ少年は、何故か優しげで、つい閉ざしていた口を開けてしまう。
「大切なことが抜けてる。・・それもやっぱり憧れなのか?」
ヒナタはしばらく考えてから、違うと呟いた。
「ネジ兄さんの、隣に立ちたい」
真っ赤になりながらも自分の思いを口にするヒナタに、シカマルは微笑んだ。
「頑張れよ。俺も応援してる」
「・・・・・・わかっただろ?」
少し離れた位置にナルトとネジは隠れながらシカマルとヒナタの会話を聞いていた。
ネジは俯いたまま顔を上げようとしない。
「・・・・ネジ?」
「どうしろと言うんだ。・・ああそうだ、俺はヒナタ様を愛している。
だがどうしようもないだろ?お互い好きあっていても周りは許してくれるはずが無いさ。
俺は分家だからな。何でそっとしておいてくれなかったんだ!?
何も知らなければこんなに苦しいことにはならなかった!!」
いつもの冷静なネジとは思えないほどの声で怒鳴られた。
だが、不思議と怒る気にはなれなかった。
ネジの顔が、今すぐにでも泣きそうな顔だったから。
「なぁネジ、お前間違ってるよ。・・・ヒナタはそういう身分とか変なもんを
お前と対等になりたいために吹っ飛ばそうとしてる。なのに、お前がそんなんじゃどうすんだよ」
黙ったままのネジにナルトが言葉を重ねる。
「・・・ネジはこっそり俺を見るんじゃなくって、しっかりとヒナタを見るべきだってば」
首突っ込んで悪かった、と最後に言い添えてナルトは走り去った。
ネジはそれを見送り、ゆっくりとヒナタの座っていた倒木に目を移した。
意外なことに、シカマルはいなくなっていたがヒナタはまだ座っていた。
何か考え事をしているのか、じっと動かず一点を見ている。
「・・・・・俺のほうが見習うべきだったみたいです、ヒナタ様」
ぼそっと呟いてヒナタの元へ歩いていった。
「なぁ、あの二人上手くいくと思うか?」
ナルトが広場に戻る途中でシカマルに聞いた。
「くっつく方に今日の夕食賭けるぜ」
「・・・・賭けになんねぇし。でもネジって素直じゃねぇからどうなってるか・・」
別に、あの二人がどんなやり取りをしているかバレずに覗き見ることはできたが、やらなかった。
「馬に蹴られて死にたくはねぇだろ」
「そうですね、シカマル君」
「えぇ、でもあとでネジ君には事後報告をしてもらわないといけませんよ、ナルト君」
「勿論、黙秘権は使わせないようにしないと、ですね」
けけけっと悪魔のように笑いながらも、存外二人の顔は優しい顔だった。