夜の任務が入れられた時は、アカデミーが終わってから
シカマルがナルトの家に夕時やってきてそのまま一緒に出勤、
というのがいつの間にか暗黙の了解となっていた。
定刻通り律儀にナルトの家に入ってきたシカマルは、
視界いっぱいに何か大きなものを持ち込んでいた。
「おい、邪魔。どけって」
「ってか何、その布団」
シカマルがタオルケットのようなものを両腕に抱えている。
そんなもん抱えてうちに来るな、目立つだろ!
と注意しようとするとシカマルがのんびりと遮った。
「十一時に召集だろ?まだ六時間以上あるんだ、寝るぞ」
「はぁ?」
「人間の欲求のうち一番強いのは睡眠欲だ。ってことで眠らねぇと」
納得できかねるが、とりあえずナルトは文句を言うのをやめた。
シカマルが最近別口の暗号関係の任務で、
深夜まで机と睨めっこしているのを知らないわけではなかった。
「起こしてやるから寝てろよ」
今にも眠りかねないシカマルを、とりあえず自分の布団に引きずる。
しかしシカマルは、何故かナルトの服の裾を放さなかった。
新手の嫌がらせか?
「・・・・・・放しなさいシカマル君」
「うっせ、おまえも寝とけ」
そう言い残して、健全に睡眠欲の赴くままに従った少年はぱたりと、
動くことすらしなくなった。
規則正しい呼吸音が聞こえてきて、仕方なくナルトは布団に座り込む。
眠りながらも、相変わらずその手はしっかりと自分の服を握りこんでいる。
「どうしろってんだよ・・・」
ナルトはシカマルの横にごろりと寝転がった。
どっちみち動きが取れないなら、こちらも寝てしまおう。
枕元の目覚ましを一応八時にセットしてタオルケットに潜り込んだ。
・・・が、頬に触れるシカマルの長い髪の毛がくすぐったくて眠るに眠れない。
もう一度、手を見るがやはりしっかりと握っている。
「この野郎・・・・」
暇を持て余したナルトは乱れたシカマルの黒髪をいじくる。
普段なら飛び起きて取っ組み合いになるのだが、
よほど眠かったのかぴくりとも動かない。
試しに弄んでいた一束の髪を僅かに引っ張るが起きる気配はない。
ナルトは更に、ささっと鮮やかに三つ編みを作ってみた。
・・・・・ここまでされても起きない。
解いてしまうのは勿体無くて、影分身を一体作って輪ゴムの箱を持ってこさせた。
先ほど編んだ束をゴムで結び、また別のところを編み始める。
単純作業だが、何故かすごく面白かった。
目覚ましのアラームに起こされて、身を起こした瞬間頭に妙な違和感を感じた。
何故かナルトは横でぐーすか寝こけているし、
その服を自分はしっかりと握っていた。
どうやら眠っている間ずっと握っていたらしい。
ナルトに少し悪いことをしたかなと思いつつ、俺は頭を触った。
・・なんかいっぱい結ばれてるし。
1,2,3・・・・・数えるのが怖くなってきた。
気になってしょうがないので爆睡しているナルトを置いて、洗面所へ。
鏡を見た俺は、一瞬だが・・不覚にも意識が遠のいた。
無数の三つ編みが俺の頭に垂れ下がっている。
ぶっちゃけ・・・・自分じゃなかったら笑ってたな。
「・・・・・・・・・・・・・くっ・・・
ぶはっ、ぎゃははははははははは!!!」
「・・・てめぇ、ナルト」
いつの間に起きていたこのトラブルメイカー。
背後で笑いを堪えきれず馬鹿笑いしているナルトを睨む。
「あーっははは!!さ、最高!シカマル最高!!!」
「おめぇ、笑ってられるのも今のうちだからな!!」
「ふん、残念ながら俺って三つ編みできるほど髪長くないんでね!」
「いーから頭貸しやがれ!」
「やだ。ぜーってぇやだ」
「あ、待て!!こら、ナルト!!」
頭を手で隠しながら走り出すナルト。
最初は家の中をどたどた走っていたが、そのうちナルトは窓から飛び降りた。
俺も、この髪型は恥ずかしいので変化の印を組みながら窓を飛び出した。
絶対三倍返し!!!
結局、つかまったナルトは散々髪をいじってとりあえずストレス発散。
体力消耗したから定食屋で飯食って、ナルトのアパートに帰った。
結構真剣な追いかけっこだったから・・・俺たちはすっかり忘れていたわけで。
・・・任務があることを。
「あれ、何この封筒」
自分の部屋の前にぽつんと置かれた封筒。
郵便物なら家の前の郵便受けに投函されているはずだし、随分怪しい。
「一応開けてみろよ」
大抵こういうのは嫌がらせの手紙が多いのだが、
いくら何でも家に侵入してわざわざ置くだろうか・・・?
ナルトは躊躇うことなく封筒を開ける。
中には一枚の赤い札みたいなものが入っていて、
ナルトはそれを指の端摘まんで持ち上げようとした。
指先が触れた瞬間、煙と閃光が同時に起こった。
反射的に目・鼻、口元を手で覆って伏せる。
ナルトは目の前に人の気配を感じ、すぐさま封筒を手放しその気配と距離をとった。
そこに立っている人物が認識できるほどまで煙が晴れるまで、そんなに時間はかからなかった。
「・・・じーちゃん?」
立っていたのは三代目だった。何故か妙に機嫌が悪い。
「どうしたんですか、三代目?」
「・・・・・お主ら、今何時だかわかるかの?」
「店を出たのが日付が変わる直前だったから・・十二時半ぐらい?」
その瞬間、気づいた・・というか思い出した。
確か、今日の、十一時に
「忍びが任務を忘れるでない、この馬鹿もん!!」
火影の鉄拳が同時に二人の頭に振り下ろされた。
「「痛っー・・・」」
「全く!Sランクじゃぞ!?忘れましたで済むもんじゃなかろうが!!」
「わかった、わかった!今から行くからさ!!」
「そうですよ火影様!ちょっと行ってきますから!」
三代目が再び拳を握ったのを見て、二人で必死に説得する。
さらに何か言われる前に、お互い図ったように
息ぴったりで三代目の前から姿を消した。
「・・・・全く。本当にこういうところは、
同い年の子どもとさして変わらんもんじゃな・・・」
NARUTO→