三代目火影…猿飛は、幾重もの封印が施された扉を潜り、
其の部屋に足を踏み入れた。
でき得る限りの笑顔を浮かべるよう心がける。

「ナルト、元気かの」
「よぉ、久しぶりだなジジイ」
「じ、ジジイ!?……どこで覚えたんじゃそんな言葉!」

無言で隅に積まれた漫画雑誌を指差す。
せめて子供らしい生活を、と与えていたものが仇になったか。
口悪くなった子供を、諭すように軽く頭を叩く。

「ナルト…目上の人間に、そのような言葉を使ってはいかんぞ」
「俺以外の人間なんて皆目下だもん」

あぁぁ、すまん!四代目!!
おまえの息子はいつの間にか見事な根性曲がりに育ってしまった!!!
猿飛は米神に指を当て、精神的なものからクる頭痛に必死に耐えた。

「で、今日はまた何か持ってきてくれたの?」
「ああ。明日は誕生日じゃろう?流行の菓子詰めを持ってきたが…」

甘味を好むナルトならきっと喜ぶだろうと思った。
が、彼は喜ぶでもなく、嫌がるでもなく、きょとんとした顔で贈り物を眺めた。




「明日って、俺の誕生日なの?」




思考が停止する。


「ほら、この部屋カレンダー無いじゃん」


誕生日が慰霊祭だってことは覚えてるんだけどなぁ。
ぶつぶつと呟く言葉に、また胸が痛む。
慰霊祭は殆どの忍びが参加する、大規模な行事だ。
つまりは

「…すまん」
「別に。世話役も見張りもウザイだけだし」

周囲の人間がいなくなる、それがナルトにとっての誕生日だった。

「しかし」
「じいちゃん、俺に同情するフリは止めろよ。
 俺が誕生日知らないのも、時間感覚薄いのも、こんなとこに監禁されてんのも、
 結局は全部じいちゃんがやってることじゃんか!!」
「それは……ナルトのためを思って…」

柔らかなクッションを投げつけられ、口を閉じる。
駄目だ、何を言っても、言い訳にしかならない。
ベッドに潜り込むナルトに、かける言葉が無かった。




「…………………ごめん」
「ナルト」
「八つ当たりだってわかってる。でも、外に出たい」
「里人は、まだお主のことを…」
「ペットのように飼われるよりは、化け物としての自由の方が、マシだ」


幼く細い声音ながらも、そこには決して揺るがない、父親譲りの強い意思が込められていた。
この瞳を前にして、どうして立ちはだかることができようか。

頷いたのは、ほぼ無意識だった。



「……わかった。できうるだけ、善処しよう」

ナルトは、眉を寄せて困ったように笑った。
泣き笑いと言ってもいいほど、悲しげな表情。

「迷惑かけてごめん」
「いや…ナルトがそう望むのは、決して間違ったことではないぞ」


そろそろ祭事の時間だと、足早に部屋を後にしようとするとナルトが袖を引っ張った。
背は高い方ではないが、そんな自分よりもずっとずっと小さな体躯の子ども。
どうしたのかと屈んで視線を合わせれば………笑ったのだ。

邪気の無い、本当に年相応の、愛らしい微笑み。


「ありがとう」


捻くれた子どもだと思っていた。
感謝の言葉なぞ、言えるはずが無いと思っていた。
……こんなに真っ直ぐな子どもを歪ませたのは、自分たちだったのだ。





























「っ…く、くくくくくく」

三代目火影が去り、たった独り残された封印の部屋で子どもは笑っていた。
その表情から幼さは消えうせ、悪の親玉を思わせる邪悪なチャクラを醸し出す。


「押して駄目なら引いてみろ…………格言だねぇ」



三代目が、この悪童の本質に気づくのは、外に出してから、もうしばらく先の話であった。















070108:書き直しました
050325:作成


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