「・・・・シカマル、お前とはやっぱちゃーんと決着つけねぇとな」
「ふん、望むところだぜ?」
毎度毎度飽きることなく胸倉をつかみ合い一触即発な二人。
いつもならここで強力な術の一発や二発を出し合って
更に接近戦、となることが多いのだが今日は違った。
「この・・うあっ!!」
「・・くっ」
沼の近くに立っていたのがまずかったのだろう。
ナルトが右足を滑らせそのまま沼に勢いよく落ちた。
当然、つかみ合っていたシカマルも。
意外に深かったのでジャバジャバと足を動かし、すぐに水面に顔を出す二人。
シカマルはぎっとナルトを睨んだ。
「・・ナルトっ!!てめぇ何やってんだよ!」
「しょーがないだろっ!不可抗力!!」
一応忍者なので泳げないわけはないのだが
川や海と違って緑がかった沼に浸かっているのはあまりいい気分ではない。
すぐさま陸地に戻ると上の服を脱いだ。
「あー・・濡れて気持ち悪っ」
袖を絞って、ひとまず近くにあった木の枝にかける。
「・・・・・なぁ、シカ・・」
「なんだよ」
「俺の服に入れといた禁書とか今日の任務書とか、無いんだけど・・・」
「・・・・あ、俺のも少し無ぇ・・・」
先ほど、つかみ合っていたときは確かに存在していた。
二人は顔を見合わせて、全く同じタイミングで沼を見る。
「「・・・・・・」」

「どうする?」
「禁書はもう目ぇ通したし、任務書も無くても大丈夫だろ?」
「うん・・・・でも、禁書とかって放置して大丈夫か?」
「・・・だめだな」
万が一沼の掃除など誰かがしたら見つかってしまうかもしれない。
一般人や下忍、アカデミー生がそんなものを見つけたら大変やばい。
「・・・・禁書が、もう絶対人が触れそうになきゃ、大丈夫かな」
「まあ、それぐらいなら。・・どうする気だ?」
「沼ごと埋める・・・・・とか」
「・・・・・・・・OK、やるか」
「おう!」
沼に再び入ってあてなく探そうとするよりも、沼自体の存在を消すほうが容易い。
とシカマルとナルトの頭ははじき出した。
「ってわけでどうする?土遁?それとも螺旋丸とかで吹き飛ばす?」
「どうすかなー・・・とりあえず土遁でどうなるかやってみるか」
「よーし・・」
ナルトは印を組み始め、沼に意識を向ける。
するとどこからか、凄まじい叫び声が聞こえてきた。
「やーめーろーっ!!!」
「あ、白狐」
すぐ脇の茂みからダッシュで飛び出してきた少年に、ナルトは淡白な反応を返す。
白狐と呼ばれた少年はぜぇはぁと肩で息をし、へたりこむ。
「お、おまえら沼消そうとすんなよ!!」
「あー・・もしかして」
「そう!この沼は九尾おじの眷属が預かってるの!!
 そんな簡単に消しちまったら怒られる!」
ぴょこりと、白い獣耳が少年からはみ出していた。
彼は九尾の遠い親戚で、ある縁でナルトとシカマルと出会ったのだ。
狐を始めとする化け物と呼ばれる類は人間が嫌いなのであるが、彼は珍しく例外であった。
お互いを仲良くさせるために、まずは自分の世界で長になろうと大志を持っている。
今はその手始めとして人間が化け物の領域を犯さないよう見張っていると前言っていたが、
なるほど、こういうことか。
「お疲れ」
「どーも・・でも三回に一回は、お前らの破壊活動が原因っぽいんだけど?」
「あー、じゃあこれからは街中でやるよう気をつける」
「・・・・・・・そうしてくれ(それで大丈夫なのか?流石は人里・・)」
何か妙な勘違いをしかけている白狐。
「っていうかさー、俺たち沼に結構やばいもの落としちゃったんだけど」
「・・・どうしろと」
「狐さんたちの領域だったんだろ?じゃあ・・・」
「「取りに行け」」
ハモった二人に、白狐はすっさまじく嫌そうな顔をした。
「油揚げ三枚」
「くぅ・・・・・絶対だぞ!!」
悔しそうに、だが油揚げには敵わないらしい。
どぼんと沼に飛び込む白狐に、二人はひらひらと手を振った。

「ぐぼぁっ!!何、何か足に触ってきたしっ!!!」
「あー、魚じゃね?」
「嘘、絶対嘘!!だってもじゃもじゃしてるっ!!」
「大丈夫大丈夫」

その後、ずぶぬれの白狐に油揚げを買ってきたり、一緒に夕飯を作ったり・・・
どこからか迷い込んできた子犬に飛び上がって逃げ出した白狐を笑ったり。

それは、とても楽しい昔の思い出話。







「イノー・・・・もう諦めようよ」
「ちょーっと!何諦めてるのよ!!」
チョウジとイノが沼の淵で長い木の枝をひっかきまわしていた。
「櫛ー・・・・・・・折角チョウジからもらったのに!」
「ねぇ、とりあえず今日はもう諦めない?」
「やだーっ!!」
結構昔に、チョウジが上忍に上がった時にイノに贈った櫛。
それを偶然、本当に偶然に落としてしまったのだ。運の悪いことに沼に。
すぐさまそのあたりを棒で掬い上げようとするが、中々見つからない。
かれこれもう一時間以上探している。
「ん?イノにチョウジじゃん!久しぶり〜」
背後から能天気な声が聞こえて振り返ると、見慣れた人物がいた。
「六代目・・・それにシカマル・・・・・えーっと、初めまして?」
火影の装いではなく普通の普段着を着た六代目ナルト。
その隣にだるそうに歩いているシカマルはいつものことだが・・・その更に隣には・・
「あー、初めまして。私は白狐と申します。・・流石にご存知ですよね・・・」
「え、ええ・・初めまして。私は山中イノ、こっちは秋道チョウジです」
九尾の事件がありもう二十年以上も経った木の葉の里。
それでもまだ、狐や化け物の類を嫌悪する里人も多い。
そんな中、白狐という、名前の通り狐のこの男は、なんとこの里と親交を深めたいと言うのだ。
だが表立ってそのことを反論する者は一人もいない。
何せ現火影であるナルトと、更にその補佐官、
そして怪狐の長の白狐・・この三人がその主張の発案者なのだから。
あまりに強烈な印象で、半年経った今でもイノもチョウジも未だにはっきりと思い出せるほどだ。
「で、二人ともどうしたの?」
「イノが櫛を落としちゃってずっと探してるんだよ・・・」
その言葉に、ナルトとシカマルはお互いの顔を見合わせる。
懐かしそう・・というか、面白いものを見つけたような表情。
一方白狐は嫌そうな顔を隠しもしていない。
俺はもう絶対取りに行かないからな・・・とぼそりと呟く声を、隣にいたシカマルには聞こえた。
「懐かしいなぁ・・・・そういえばここで、禁書とか落としたんだよなぁ・・」
「言っとくけどさ、お前らあれマジやばかったんだぞ?
 もう狐一族に喧嘩を売りかねないことしかけるしよー」
爽やかに笑う白狐。しかしそこには怒りのオーラを隠すことなく滲ませている。
その言葉にイノとチョウジはぎょっとした表情で火影たちを見る。
「若気の至りってやつさ」
「そうそう、まあ、買ってくれるなら売ってもいいよ?」
同じく、にこやかに笑う補佐官と六代目火影。
そこには最近溜め込みまくったストレスを解消したいという欲求を
隠しもせず好戦的な表情。
ふと、何かを考え付いた顔でナルトはポンと手を打った。
「あー、イノ。櫛見つけるいい方法あるぞ?」
「どうすればいいの?」
「「沼ごとゆっくり埋め立てれば見つかる」」
台詞を先読みできたようで、ナルトの言葉に同じく言い重ねるシカマル。
「ナールートっ!!シカマルー!!!!あれか、お前らマジでやる気か?!」
「ま、いいじゃん沼の一つや二つ。後で修復してやるからさ」
「そーいう問題じゃねぇのわかってて言ってるだろ、おいィィィィィ!!!」
六代目と補佐官の言葉にぐいぐいと二人の肩を掴んでゆさぶる白狐。
首を傾げるチョウジとイノを半ば無視して、六代目はにっこり微笑む。



「油揚げ四枚にしてやるからさ」
そう言って沼に指を差した。





没ネタ理由:
『白狐って誰だったっけ?』(自分で書いたオリキャラの存在を忘れる阿呆)
『背景の沼写真使いたかっただけだろ。そのせいで文だらだらして長っ!』