今日は集合時間きっかり五分前に着いた。
俺にしては、結構早い方だ。
目印の公園には既にサクラがいて、他二人は来ていなかった。
「おはようってばサクラちゃん。今日も早いね」
「おはよ。あんた達が遅いのよ」
ちょっとした嫌味を返しつつも、その顔はからっとした笑顔だ。
この子はほんと、妙に漢らしい。
俺が任務中に嫌がらせで生卵投げつけられたとき、
昼飯のおにぎり投げ返してたし。あれはちょっとトキめいた。
「………あんた、今失礼なこと考えてるでしょう?」
「そんなことないってば。ところで、何か首につけてるの?」
誤魔化すように話題を変える。
が、とりとめのない話のつもりが、サクラにとってはドンピシャだったらしい。
「あぁ、うん…………お、お母さんが、お守りだって……」
母親からの贈り物で顔を赤くする娘がどこにいるんだ!!
つっこみたい。すごくつっこみたい、けど、我慢。
指輪に紐を通すような形のペンダントは
明らかにカップル用のものに見えるけど、詮索は、ダメ。
女性の秘密話は、女性同士で話すものだから。
「あ、サスケ君が来たわ」
……だから、野郎の秘密話は、俺たちだけで語り合おうゼ、サスケ!
「ってわけで、俺にも何かよこせ」
ずずいと勢いよく手のひらをシカマルに向けると、奴は本当に嫌そうに顔を顰めた。
「お前と恋人になった覚えはないんですケド」
「俺だってねぇよ。だけど装飾品って何かカッコいいからくれ」
「ふーん」
「十班はピアスとか揃えちゃってるしさ」
「うん」
「俺、実はもうすぐ誕生日なんですけど?」
「知ってる」
何を言っても、分厚い本から目を離そうとしない。
仕方なく、どうせ俺はハブられ者の九尾のガキですよー、と最終手段の禁句を呟くと
シカマルは諦めたように腰を上げ、引き出しを漁り始めた。
「こういうのでいいのか」
褐色のガラス瓶から出してきたのは、親指の爪ほどの大きさの青い結晶。
「穴を開けて糸通せばペンダントになるだろ」
「うわ、綺麗」
適当に困らせてやろうという冗談だったのだが、
まさかこんな色気のあるものを出してくるとは思わなかった。
俺の素直な感想に気を良くしたのか、シカマルは自慢げに説明を続ける。
「しかも、水分を加えれば十秒の時間差で毒煙を発生する希少な結晶だぜ。
有効範囲は半径5m。神経系に作用するから、諸に喰らわんでも戦闘に十分役に立つ」
「……………」
「……どうした?」
「これ、ペンダントとはいわねぇって」
「お守りみたいのがいいんだろ?ご利益たっぷりじゃん」
「ご利益じゃなくて殺傷力だボケェェェ!!!」
装飾品として使用しているときに水を被れば、
確実に被害を食らうのは自分自身だ。
そんな物騒なものを身につけてたまるかと、
思い切り投げ返すと、シカマルはそれを反射的に振り払った。
とぽん。
小さな水音。
「…………あの湯飲みに、何か入ってた?」
「そりゃ、普通、茶が入っているよな」
その時点で五秒経過。
一秒の逡巡。
シカマルと、俺は、ほぼ同時に叫んでた。
「結界、結界っ!」
「煙は透過しやすいから、重ね掛けだっ!!」
なんとか結界で毒煙の被害は抑えたが、
部屋の空気の毒抜きを終える頃には、今日の日付が丁度変わっていた。
夜食を作ると部屋を出た家主を見送り、ベッドに寝転がる。
寝転がった先に、褐色のガラス瓶がちらと見えた。
手を伸ばし、蓋を開けると、十数個の青い結晶を見つける。
肌や空気中の水分で反応したら困るので、すぐさま瓶に戻す。
「飯持って来たぞ………って、何やってんだ?」
瓶を持ったまま、シカマルを見る。
ベッドから窓際に移動。
「俺、やらなきゃいけないこと思い出した」
「何だよ」
「お部屋の危険物廃棄」
にっこりと笑う。
シカマルは、ちらりと俺の腕に収まった瓶を確認し、同じく笑った。
俺は笑顔を貼り付けたまま、窓から身を投げた。
シカマルも、笑顔のまま俺を追いかけるように窓から飛び出してくる。
手にはクナイ。
やっぱり俺たちは、言葉じゃわかりあえないんだね。
070310:書き直し
051111:作成
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