サスケに呪印を施した大蛇丸は、
走る速度を緩め、ゆっくりと止まった。
ぐるりと周囲を見渡すが、気配は無い。

「ねぇ、そろそろ出てきたらどうかしら?」

だが、サスケたちに近づいたあたりから、視線を感じるのだ。
自分が何をしても、ただ見るだけの傍観者。
アンコやカブトではない。

大蛇丸は、動く気配の無い傍観者にもう一度誘いをかけた。

「出てきなさい、九尾の監視者」




足音も気配も殺さず、黒髪の男が出てきた。
きっちりと暗部の服を着込んでいたが、最も大切な面がない。
露になった切れ長の眼は、大蛇丸をじっと睨みつける。


「あなた暗部よね。情報が早いわ、もうバレたのかしら?」
「別に。あんたがここにいるのを知っているのは、俺だけだ」
「あらあら。報告義務を怠るなんて、悪い子ね」


この男を消すだけでいい。
大蛇丸は舌なめずりをしながら青年に対峙する。

先に仕掛けてきたのは暗部。
撃たれたクナイを受け流すと、更に土遁の術を仕掛けてきた。
後ろに飛びのいて避ける。

「あの狐君、あなたのお気に入りだったのかしら?」

傍観者の癖に、九尾の子どもに攻撃したときだけ、
こちらに攻撃を仕掛けるのではと思うほど殺気を滲ませた男。

「………さぁ?」

今も、子どもの話にだけは反応を示す。

返事は、土遁で盛り上がった土壁から聞こえた。
戦闘中には、声を出すことすら危険を孕む要素となる。

にぃっと唇を歪め、そっと土の壁に手を当てる。

この土壁は良い目くらましになった。
なのに呑気に同じ場に留まるとは馬鹿の極み。


「さようなら、お馬鹿さん」



チャクラを集中させ、一気に土壁を崩した。
更に、口寄せで大蛇を呼び寄せ、逃げ場を潰す。



が、





「俺は馬鹿じゃない」




背後から、ぬっとクナイの刃が突き出された。
首筋を一閃。


大蛇丸の体が軽い爆音と共に、消え去った。



「…………影分身!?」


驚く青年の背後で、大蛇丸が薄く笑っていた。


「残念。惜しかったわね」



先ほどとは、全く逆の立場で、クナイが放たれた。



再び、ボフンと特有の音と煙が現れた。











「……お互い、影分身を使ってたわけ」
「………そうみたいですね」




するりと木から暗部の青年が下りてきた。
勿論、それが本体かどうかは大蛇丸にはわからなかった。

「面白い子ねぇ……気に入ったわ」
「俺は面白くもなんともない」
「その常に物欲しがってる眼、結構好きよ。昔の私を見ているみたい」
「へぇ」
「人並み外れた知識欲、このちっぽけな里で満たせると思う?」


サスケのついでに誘っておいて損は無い。
大蛇丸は、大仰な動作で手を広げる。


「私なら、あなたの望むものを与えることができるわ」
「…………くくっ、そうやって目ぇつけた忍び引き抜いたわけか」
「あなたは?」
「断る」


一瞬、こちらへの意識が逸れた。
大蛇丸はその隙を狙い、首筋に呪印を刻もうと首を伸ばす。


だが、青年は完全に読みきっていたらしい。
千本を眉間目掛けて思い切り振り下ろす。
大蛇丸は咄嗟に、動きを止めた。

皮一枚、すれすれで止まる。
後ほんの少しでも判断が遅ければ、無防備に青年の射程距離内に入っていた。










「これ程の腕があって、何故木の葉に拘るの?」

気をそらすためでも、時間を稼ぐためでもない純粋な疑問。
青年は忌々しそうに顔を歪めた。









「………意外に今の生活が嫌じゃないから」













050325→070311


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