最近はすごい寒くて、外には出たくなかった。
でも赤丸が散歩に行きたそうでしょうがなかったから、
俺は手袋だけ持って赤丸と外に出た。どうせちょっとの時間だけのつもりだったし。
まだ雪は降ってきてないけど、今夜降りそうだって姉ちゃんが言っていた。
吐く息は白くなるし、顔は冷たいし、でも赤丸は元気に動き回っている。
寒い。あ、そういえば今日漫画の発売日じゃん。
ポケットを確認すると、かろうじて本一冊買えるぐらいの小銭が入ってた。
散歩がてらに、買いに行こう。
俺は赤丸がついてくるのを確認して大通りに足を向けた。

お目当ての漫画はちゃんとあって、俺はそれを買って店を出た。
そうしたら、向かいに見知った姿を見つけた。
ナルトとシカマルだ。
チョウジと俺を入れた四人で昔はよくアカデミーでイタズラとかしてたけど、
やっぱりあの二人は格段に仲がいい。違う班なのに今もこうして一緒にいるわけだし。
喧嘩とかもかなりやってるけど、それでもいつもつるんでる。
しかもその喧嘩が怖いのなんのって、二人とも別人のように・・
「キバ、さっきから何怪しい独り言してるんだ?」
「・・おわ!!」
いつのまにか目の前にいる二人に、俺は思わず後ずさりした。
「ぶつぶつなんか言っちゃってさー、ぶっちゃけすごい怪しい人物だってばよ?」
「悪かったな!・・・おまえら何してんの?」
「んー・・小腹が空いて、シカマルとなんか食いに来た」
「一応お汁粉ってことで話はまとまったんだがな」
シカマルがそういって指差した方向には、
この寒い日に特設されたテントの店。少し距離のあるここからでも、大鍋が見える。
「あー、いいな。俺も食いてー・・!」
言って気づいた。俺金持ってねぇじゃん。
表情を読み取ったらしい、ナルトはにかっと笑った。
「奢ってやるか?・・・・・・・・・後で返してくれるなら」
「マジか!?あとで返すから頼む!」
両手で手を合わせると、ナルトは頷いて店のほうへさっさと歩いていく。
俺とシカマルもちょっと早足でナルトについていった。

「あー、うめぇ」
受け取ったお椀からは湯気が出ている。
座るところが無いから三人で人の通りの邪魔にならないよう立って食べることにした。
しばらく新しい班がどうとか、他愛ない会話なんかしながら食っていたが、
ナルトが人にぶつかられて、器を落としてしまった。
落ちる器がスローモーションのようにゆっくりと見えた。
バシャっと、お汁粉が土に染みていく。勿体無い、まだほとんど食べてないのに。
・・・・・・・・おかしくないか?
こんな隅っこにいるのに、混んでるわけでもないのに、
どうしてナルトにぶつかるような人がいるんだ?もしかしてわざと・・・?
俺がそんな不穏なことを考えている間、ナルトは割り箸で落ちた餅を拾い上げる。
「・・ナルト?何してんだ?」
掃除なんてほっといて、ぶつかってきた奴に文句とか言わないわけ?
ナルトはしれっとした顔で答える。
「三秒ルール」
・・・・・・・・・やめろ!いや、お願いですからやめてください!!お前はチョウジとは違うんだ!!!
シカマルに頭を軽くはたかれた。
「キバ、てめぇチョウジの事何だと思ってやがる!!
・・ナルトもそんなつまらん冗談いらねーからやめろ」
「っててて・・冗談?」
ナルトはにっと笑った。
「いやー、ツッコむと思ったら、マジに取られてびっくり。
・・キバが、俺のことどういう風に思ってたかがよーくわかったってば!」
心外だぞ!!・・俺はチョウジじゃねーんだから。
ナルト!チョウジもんなもん食わねぇっつーの!!
ナルトとシカマルの悠長な会話。
「おいナルト、さっきの奴わざとぶつかってきたんじゃねぇか?」
「うん、そうだろうな」
「わかってんなら・・!!文句言わねぇのか?」
もったいなかったろ、あのお汁粉。
ナルトとシカマルは顔を見合わせる。
「キバ、お汁粉美味かったか?」
早食いの俺はとっくに食い終わっていた。
ナルトのよくわからない問い。
「あ?・・ああ、美味かった」
「もっかい食べられるなら食べたい?」
「・・・・・・おう。だからよぉ、」
「ストップ。キバの言いたいことはわかってるってば。
そうか、キバはおかわりか。シカマルは?」
「じゃあ俺ももらうかな。どうせナルトは三杯食うんだろ」
「わかってるじゃん。・・・ってことでおっさん?」
ナルトは俺の後ろのほうに声を掛けた。
振り返ると、そこには後ろ向きに止まったおっさんがいた。
なんか不自然な感じで止まってるし。
「ねえ、わざと俺にぶつかってきたんだよねー?
 でも俺ってば寛大だから、五杯分お汁粉奢ってくれれば、許してあげるよ?」
「・・っ・・・・・・誰が!」
ちょっとおじさん怯えてる。
その気持ちわかる。今のナルト、すっげぇ怖いもん。
「もっかい言うよ、可愛い子どもたちにちょっとお汁粉を振舞うだけで、
 問題なく終わるんだってばよ?・・・・・ねぇ?」
ぶあーっと、なんか禍々しいオーラがナルトの背後から漏れ出ている。
赤丸なんか俺の懐に入っちまった。
「きゅ・・・!!」
おっさんが何か口走ろうとしたのをナルトはさっと手で押さえる。
そのまま俺と、シカマルを見る。
「シカ、もういい」
そう言うと、おっさんがぺたっと地べたに座り込んだ。
ああ、そうか。シカマル、影真似の術使ってたのか。
あのおっさんが、ナルトにぶつかった時から、ずっと。

「いやー、美味いってば!」
「おまえ本当よく食うな・・」
ナルトが三杯目のお汁粉に手を伸ばす。
おっさんは金だけ渡してさっさと逃げちまった。
うーん、最初はむかついてたけど・・ちょっと同情だな。
「ああ、キバ」
「ん?」
「それのはいらないけど、最初の一杯分、忘れず払えよ?」
「わぁかってるぜ!」
「いや、今おまえ忘れてただろ」
・・・・・・う、否定できねえ。
笑うナルトとシカマル。うん、やっぱ普通だよな。
さっきのナルトの怖いことと言ったら!
・・・・・・・・・・・食い物の恨みは恐ろしいってことか?
俺も気をつけよう。





ナルトの「三秒ルール」と、
キバのずれた見解が書きたかっただけ。