パーティ
後ろから感じる、小さい視線に最初に気づいたのはナルトだった。
「シカマルー・・なんかいない?」
川釣りを楽しんでいるシカマルはだるそうに後ろを振り返った。
ナルトが親指で場所を指す。
視線をそちらに移すと、確かに小さな幼女がこちらを木に隠れながら覗いていた。
「・・・・・おい、そこで何やってんだ?」
シカマルがそっと声をかけると、一瞬びくっと肩を揺らしながらも子どもは前に出た。
真っ黒な大きな目が印象的で、
着古した赤いコートはその小さい手を余裕で隠すほどぶかぶかなものだった。
「あ、あたしを迎えに来たわけじゃないの?」
「はい?」
「・・・・違うんだ」
ナルトとシカマルの反応で勘違いだと悟った子どもは、目に涙を浮かべて俯いた。
「「・・・・・」」
二人は顔を見合わせて、それから再び子どもに目を向けた。
「・・・なるほど、つまりお母さんとはぐれたんだな」
「うん、お花と食べ物採りに来たんだけど・・・・・・・・」
シカマルは先ほど釣った魚を焼きながら少女を見た。
「気づいたらいなかったんだな」
こくりと頷くのを見て、二人はため息をついた。
「里に連れてってやろうか?」
「ううん、お母さん探すの」
「里に戻れば家族に会えるんじゃねぇか?」
「絶対、ここにいるの!だって今日は私の誕生日だもん、
お母さん、きっと私をびっくりさせるつもりなの!!」
子どもは興奮しているのか、顔を紅潮させてまくしたてる。
はー、とため息をつくシカマル。
「なら、何かしなくても見つけてくれるだろ。俺たちは帰るぜ」
「えー!?お兄ちゃんたち祝ってくれないの?」
「オメデトウ。はい、終わり。んじゃーな」
子どもはむっとしながらポケットを探り、一本の花を出した。
綺麗な銀色をしていて、たとえ薬草の知識がなくともそれが貴重なものだとわかる。
「それ・・!」
真っ先に反応したシカマルににやりと、およそ子どもらしくない笑みで子供は言った。
「これ、レアなものなんでしょ。一つお願い聞いてくれたらあげてもいいよ〜?」
「・・・・・・・・・何だよ」
「お誕生日のパーティ開いて」
「ってわけで、今日の宴会にこの子の誕生日パーティ入れていい?」
数時間後、二人は森で宴会を開こうとしている大人たちに掛け合っていた。
「あー?別にいいぜ。でも酒は飲むからな、そこらへんはわかってくれよ」
「勿論だぜ、山中さん」
お互い知らぬ仲ではないし、特にシカマルの父親もあの集団の中にいるのだ。
ナルトの隣にいた子供はあの中の唯一の紅一点であった紅に髪を綺麗に結ってもらっていた。
「お兄ちゃんたち」
その子どもが唐突に二人の服を強く引っ張った。
「なんだ〜?」
「・・・子どもってお兄ちゃんたち以外いないの?」
「寂しいのか?」
「なんていうかー・・・・・ムサい」
そう言いながらじっと親父たち(アスマ・カカシ・ガイ・元祖猪鹿蝶)を見やる。
「「ああ、確かに」」
「でしょ?」
「「「「「「おい、そりゃ酷いだろっ!!!!」」」」」」
「アスマ先生、カカシ先生、ガイ先生、紅先生」
「何―、ナルト?」
カカシが尋ねると、ナルトは見ているこちらが眩しくなるような笑顔で言った。
「下忍連れて来いってばv」
「やっほー、ナルト!シカマル!あんたたち先に来てたのね〜」
「よぉ、いのにチョウジ。こっち来いよ」
二人がアスマに連れられてやって来たのを見て、シカマルは手招きする。
青いビニールシートには何本かのペットボトルと菓子の入った皿があった。
「あー・・・僕オレンジジュースね」
「チョウジ、がぶ飲みすんなよ」
「お兄ちゃん、この人達は?」
「山中いのと秋道チョウジだ。俺の幼馴染」
「シカマル、この子は?」
「この宴会、こいつの誕生日も兼ねてるから、祝ってやってくれ」
「あら、そうなのおめでとう!」
「おめでとう。じゃあこの菓子あげるよ」
チョウジが持っていたスナック袋を少女に渡す。
少女は嬉しそうに『ありがとう』と言って笑った。
「あー、ヒナタたちも来たってば!こっちこっち!!」
「ぎゃはは!!それじゃ、ここで俺秘伝の腹踊りを伝授してやろう!」
「何だよ、おじさん。腹踊りなんて今どき誰もやんねーよ」
「そんなことねーぞ、キバ君。何せ秘伝だからな!・・・・ま、知りたくねぇなら無理には」
「・・・・・・・・・・何だよ」
「こっち来い!お、シノ君も見たいのか!?」
向こうでは奈良上忍にキバとシノが絡まれていた。
それをのんびり眺めるいのとサクラ。
「ちょっと、シカマルのおじさん大丈夫なの?」
「まだ大丈夫よ。ちょっと酔ったら腹踊りをするのがおじさんの癖なの」
「・・・・・・・・ふーん・・(嫌な癖ね)」
しばらく、奈良上忍の腹踊り講座を遠目で見ていた二人だが、
後ろから何やら叫び声のようなものが聞こえて振り向いた。
「ね、ネジ兄さーん!!わたしのー柔拳〜受けてみなしゃーぃ!!」
ふらふらと顔を真っ赤にしたヒナタが舌足らずな言葉でネジに迫っている。
「うおー!!真の天才とは1%の才能と99%の努力です!ってことでネジ、勝負!」
更に横から、同じく顔を赤くしたリーが迫ってきた。
「誰だ!!?ヒナタ様とリーに酒を飲ませたのは!!!!」
「「すまん、俺だ」」
ガイと山中上忍が手を上げた。
二人とも、生真面目なヒナタとリーが緊張しているのを見て取って、
それを解すつもりでそれぞれにちょっと一口酒を飲ませただけなのだが・・・・。
「いやー、まさかヒナタも酒に弱いとはなぁ」
「いやー、まさかリー君がこんなに弱いとはなぁ」
「和んで笑いあってる場合じゃないだろ!!」
「「頑張れ天才」」
「最悪だー!!!!」
「よし、もう一人天才をつけてやろう」
ガイがどこからかサスケを引っ張ってきて、ネジの前に投げた。
「二対二ならなんとかなるだろー!?」
「そういう問題じゃないんだよ!!」
「ってか、何で俺!?全然関係ねぇじゃねぇか!」
ネジとサスケがじりじりとヒナタとリーに追い込まれながらも叫ぶ。
「・・・・・・・・・・なんか大変なことになってるわね」
「助けに行けば、いの」
「あそこにはいくらサスケ君がいたって行きたくないわね」
「同感」
二人は空になった紙コップにジュースを注ぎ足して、再び座り込んだ。
「・・・・・そういえば、ナルトとシカマルは?」
ぐるりと辺りを見回すが、その二人だけこの場にいなかった。
「さぁ、どうせシカマルはめんどくせーとか言いながらどっかで寝てるわよ」
「そうね。ナルトも一緒なのかも」
だが、二人がそう言い終わったところでナルトとシカマルはどこからか戻ってきた。
騒ぎの場とは少し離れた場所に、少女は連れてこられた。
そこからは小さな明かりが幾つも灯る木の葉の里が一望できる。
感動して口をぽかんと開けている子どもに、シカマルは尋ねた。
「楽しいか?」
「うん!あたし、こんな風に大勢で騒ぐのって初めてだから楽しい!!」
チョウジに貰った菓子の袋を開けて頬張る少女は、とても愛らしく、
シカマルに撫でられながら嬉しさと恥ずかしさの混ざった笑顔を浮かべる。
だがその頭を撫でているシカマルは辛そうな顔をしていた。
それを見かねたナルトが、少女に話しかけた。
「もう、楽しんだんだろ?だったら早く自分のいるべき場所に戻ったほうがいい」
「・・・・・?」
少女が不思議そうな顔でナルトを見上げた。
シカマルの撫でる手も、止まっていた。
「・・・・・こんな山奥にどうしてこんな小さい子をつれて行く母親がいるかわかるか?」
「・・なんで?」
「子どもを養えない親は山奥に子どもをつれて行って置いていくんだ」
「・・・お、お母さんは私を捨てたりしないもん!!」
「ここはそういう山だったんだよ!!!」
少女以上に大きな声でナルトは叫び、ぎゅっと拳をにぎった。
「じゃ、じゃあ・・捨てられたんだったら、あたしどこにも戻る場所なんてないじゃん!」
泣きもせず、立ち上がってナルトとシカマルを見下ろして責めるように睨み付ける。
だが、二人は竦むことも哀れむこともせずただ少女を見ていた。
ナルトが、低く小さい声で呟いた。
「ここは、確かに子供を捨てる山だったけど・・・・・五十年以上も前のことだよ」
シカマルが言葉を続けた。
「気づいてないかもしれないけど、もうとっくに死んでるんだ。お母さんも、あんたも」
そう言い終ると、ナルトは横に置いていた風呂敷を前に出す。
少女は、何も言わずそれに近づき、恐る恐る包みを開ける。
土で汚れてはいたが、それほど色褪せてはいない鮮やかな赤が見え隠れするコートと、
小さな、自分と同じくらいの子どものものであろう白骨が包んであった。
唇を切れそうなほど強く噛んだ少女は、自分の赤いコートの裾を握り締めた。
「・・いつから、私がそういうものだって思ってたの?」
穏やかとも言えるほど、この歳の子どもとは思えない大人びた顔で少女は里を見下ろしながら問う。
「会ったとき、その靴を見て・・・・今時そんな古い靴を履く人間はそういないんだぜ?」
「へー・・・時代は流れてるんだね」
「ああ。何もかも変わったよ。この里で、飢えを知る子どもはそうはいない」
「・・よかった。こんな未来まであの苦しさは残ってほしくないし」
「還って、くれるのか?」
「うん。ありがとう、わがまま付き合ってくれて」
「結構こっちも楽しんでたぜ。こんなに大勢で騒ぐこと、俺たちもなかったしな」
シカマルの言葉にナルトが神妙な顔で頷く。
それが可笑しくて、少女は笑いが噴き出した。
「この花あげるよ。気に入ってたけど、あっちまで持ってくのは勿体無いから」
「いいのか?」
頷きながら少女はポケットに入れていた銀の花を渡した。
シカマルが花を受け取った瞬間、少女の身体の輪郭がぼやけて、消えかかってきた。
「ああ・・・最後にもう一つ、お願い。私の身体、埋葬しておいて」
両手を顔の前で合わせてお願いする少女に、二人は笑った。
「「了解」」
一番見晴らしのいい場所だった。
木の葉の里が望める絶景の場所だから、彼女を連れてきたのだ。
あの後すぐに骨を埋めて、里にあるような立派な墓標ではないが
見目良い石を墓石にして彼女の名前を彫りこんだ。
今思えば、彼女が自分の名前を言わなかったのも、逆に誰かの名前を呼ばなかったのも
無意識とはいえ、本能で危険だとわかっていたのかもしれない。
本当の名前にはそれだけでも力が宿っている。
死者が生者の名を呼ぶだけで、ときにそれは恐ろしい呪いとなるのだから。
「シカマル、その花・・やっぱ供えるのか?」
「いや、持って帰るぜ?・・・一本だけじゃ寂しいだろ」
茎から切らず、根まで丁寧に掘り出してくれた少女のおかげで、この花はまだ生きている。
上手く育てれば、今年の冬には種子を作るかもしれない。
「一面、銀色って綺麗かもな」
「ああ。そしたら、また、あいつら誘って花見できるしな」
「騒がしいの、好きだったみたいだしな」
「・・でも昨日のは酷かったよな」
「・・・・ネジとサスケが半死半生で死に掛けていたときには目を疑ったな」
「ああ、しかもあの後酔っ払いが続出してチョウジとテンテンが介抱してたしな」
「ったく、酒なんかもってのほかだな!」
「でも結構楽しかったな、パーティ」
「じゃあ近いうちに俺たちだけでやってみるか」
「じゃあ、いつやる?四班全部休みの日ってつくれねぇかな」
「三代目に直談判か?そうだなー・・・来月の八日なんて・・・・」
少年たちは一旦会話を止めて、墓石を見た。
「じゃあ、そろそろ行くから」
「またその内来るぜ」
そう言い残し去っていった彼らは、何事も無かったかのように笑いあって話を再開した。
霜莱 霧夜様へ「下忍を巻き込んだ大宴会」
オリキャラ(一発キャラ)出してしまいましたー・・・・。
しかも、妙に暗い話に・・・・。
あー・・・・・・・・・ハハハ♪
NARUTO→