「お前らは再々々試験だ!!一時間後に戻るからな、ちゃんと復習しとけよ!」




イルカ先生にありがたいお説教と共に、教室に取り残された。
残っているのは俺とシカマルだけ。
チョージもキバも、再々試験で受かってしまった。

別に、無視してさっさと帰ってもいいのだが、
流石に四回目の試験ともなると、イルカ先生の苦労がちょっぴり可哀想になる。
確か、確認試験は変化の術だったか?適当に切り抜けよう。

ぐーたらと最後列の窓際というベストポジションで居眠りを続けるシカマルの隣に座る。
俺の気配で、ゆるりとこちらに顔だけ向ける。

「よ」
「おー。久しぶりだな、お前が外出るの」

先日の裏任務で妙な巻物を見つけて以来、部屋に閉じこもって研究に勤しんでいたはずだ。
頻繁に様子を見に行ったりはするが、ここ二週間、外で会うシカマルは例外なく影分身だった。

「やっとな、この前の巻物の術の改良が終わったんだ」
「ああ、そりゃ、おめでとう」

解析じゃなく改良とは、相変わらず自分の趣味には手を抜かない男だ。
俺はあまり忍術研究に詳しくはないが、
きっとその分野の研究者がシカマルの研究成果を読めば、卒倒することだろう。

「ってわけで、ナルト。試せ」
「はいはい」

シカマルは、実験段階に入ると大抵俺に術を使わせる。
初見だとどうしてもチャクラ消費量が上乗せされてしまうらしい。
こちらからすれば、微々たるチャクラで協力するだけで、
新しい術をリスクなく教えてもらえるのだから、かなり好条件。



「チャクラは、火遁と似たような練り方でいい」
「うん」

シカマルは少しだけスピードを抑えて、印を結ぶ。
ちょっと長い。まあ、それはいいんだけど、ちょっと気になるところがあった。

「………最後の印、大丈夫なの?寅の不完全版みたいな形だったけど」
「旧式のを使ってるからな。この形が一番安定するんだ」

まあ、論理実験だけしかしてないから、上手くいくかどうかはわからん。
そう付け足したシカマルに、心から同意した。
才能を生かす分野は全く逆方向だが、この心がけだけは、俺も、こいつも、同じだ。

『やってみなくちゃわからない』

俺は、ちょっとした共通点を見つけたことに気分をよくしつつ、印を組んだ。






結果。大爆発。


















俺は、暗部の中でもそれなりに古今の部類に入る。
だから、と驕るつもりはないが、それでも、何度か死線は潜ってきた。
……今、俺を中心に焼け果てた教室(既に原型はない)は
長い暗部人生の中でも、そうはない凄惨な破壊の痕を残していた。

シカマルは結界でも張ったのか、特に外傷もなく、のほほんと椅子にもたれている。
髪を結わえていた紐だけが、爆風と共に飛ばされてしまったらしい。



「シカマル君。これ、どういうこと、かな?」
「……ナルト、お前の性質は?」

性質?チャクラのことか。
質問に質問で返すのは失礼だと言いたかったが、
シカマルが意外に真剣な表情で聞くのであえて問わない。

「天性のもんは、風だ」
「成程。火の国じゃ珍しいタイプだな………だから、か」
「何?」
「いや、俺はてっきりナルトは火の属性だと思ってたんだ」

ああ、使用者の性質を読み間違えたから、暴発しちまったのか。


「火だったら、もうちょいデカイ火力が使えたんだがなぁ」




シカマルは悪びれる様子もなく、小声で呟いた。
その声には、俺に対する嫌がらせやからかいはなく。
本当に、素直に、心の底から、彼は残念がっているのだ。
予想を下回った実験結果に。この廃墟と化した教室に立ちながらも!



「………どうしたナルト?」



改めて気づいたが、こいつは、そう、きっと化け物なんだ。
力や頭脳が卓越してるとか、そんな生易しいお手軽な意味ではない。


人間の輪に、交わりきれない、誰ともわかりあえない、異物。
俺と同類の、バケモノ。
いいね、うん。背筋がぞくぞくしてきた。久方ぶりの高揚感に、顔が歪む。


「おっまえ、気持ち悪い顔で笑うなよ」


シカマルが俺の両頬を抓った。
容赦なく指先に力を込められてかなり痛い。
仕返しに俺も両手で思いっきり抓り上げた。


この丁度良いタイミングで、教室の後戸がガラリと開け放たれた。
イルカ先生かと思ったが、顔を出したのは三代目だった。
ああ、意外に発覚からの対応が早かった。

じいさんは、俺とシカマルが頬を抓りあっている状態に一瞬目を見開いた。
すぐさま、お説教モードの睨みに戻ったのは、流石だが。

「……………で、どちらの仕業じゃ」
「「こいつです」」

声がハモった瞬間、ガツンと一発拳骨をくらった。


「おぬしら、廊下で立っとれぃぃ!!!!」



この時、自分の違和感に気づく。


「あーあ、面倒くせぇ。廊下行こうぜ、ナルト」
「ん、おお」


背筋の冷たいぞくぞくは、いつのまにか波のようにすっと引いていた。

微妙に痛いタンコブと、引っ張られてジンジンする頬。
爺の説教から脱出するために繋がれた連帯の右手は、妙に温かい。


そして、その温かさに、何故だか安心のような情を覚えた自分がいる。


「おっかしいなぁ」
「何が?」
「いや、別に……」


俺は化け物で、きっとこいつも化け物で、だからこんなぬくぬくした気持ちなんておかしい。


「学校終わったら飯食いに行こうぜ。一楽」
「うわ、まじ?シカマルの奢りだってば!?」
「いや何でだよ。ありえねぇから」


…………………………ま、どっちでもいっか。人間でも化け物でも、きっと悪くない。








05.03.25→07.10.13

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