ある二人組みの青年がスーパーの袋を引っさげて町を歩いていた。
お互い一つずつ袋を持ち、会話は無いが決して険悪なムードでもなく、普通だ。
左の、黒い髪をした青年が立ち止まった。
それを見て右の、明るい茶髪の青年も立ち止まり、隣の人物が見ている方に目をやった。
「あー、ネジじゃん」
そう呟くと黒髪の青年も視線は動かさなかったが頷いた。
ネジ、と呼ばれる少年は濃緑の着流しを着て青年たちとは逆方向から歩いている。
今日は非番か・・?とも思ったが額宛をし、脇には『青春』と書かれた風呂敷を抱えている。
「・・・・ガイの所に寄ったみたいだな」
「ああ、気の毒に」
一箇所だけに書かれているならまだしも、模様のように満遍なく青春と書かれていれば
隠したくとも隠せない。
ネジとの距離がいつのまにか思っていたよりずっと近づいていたので、
茶髪の青年は笑いながらその肩に手を置いた。
「よ、ネジ!」
「・・・・・・・・・・誰ですか?」
一応目上の人として口調は丁寧だが、顔は明らかに警戒心を帯びている。
青年は顔を近づけて囁くように呟いた。
「俺だよ、ナルト」
ネジはじっと青年をしばらく見て、警戒を解いた。
二人の顔を見比べ、同じように小声で呟く。
「どうして変化などしてるんだ?ナルトもシカマルも」
「ほら、俺はあの格好で町でたら色々問題が出るしさ。シカマルは付き合い」
ネジはそれに対して特に何か言うこともなく、適当な相槌を打つ。
ってかよくわかったな、隣がシカマルだと。
ナルトが感心したようにネジを見るが、ネジは二人のスーパー袋を見ていた。
それを傍から見ていたシカマルはにやっと笑いながら言った。
「当ててみろよ」
「豚肉、ほうれん草、しめじ。極めつけにしゃぶしゃぶのタレ。推測するまでもない」
「正解」
「ネジも食べにくる?量はあるってば」
「・・・・・・・・・・・・・・・・」
駄目でもともと、てっきり即否定するかと思ったが随分悩んでいるようだ。
鍋は人数が多いほうが良い。ナルトは更に誘いの言葉を掛けた。
「なー、来いってば。最近立て込んでるし、夕飯だけでもさ!」
失言、立て込んでるのは裏の任務の方です。
ナルトとシカマルは見えないところで冷や汗をかいたが、ネジは気づかなかった。
確かに、下忍の仕事も最近は毎日あった。
「わかった。本当にいいのか?」
「勿論!だってば」


「そういや、何で私服なんだ?」
あらかた準備を終えたところでシカマルがネジに問う。
着物ぐらいあっても可笑しくは無いが、ネジがそういった着物を着るのは中々珍しい。
「ああ・・リーの、見舞いに行こうとしたんだ。任務と修行の後で。
 そうしたらガイ先生に会ってな。汚れた格好で病院に入るなと怒られてしまった」
「それで借りてきたの?」
「・・・・そうだ」
あの家にそんなまともな服があったのか。
二人は同時にそう思ったが、勿論口に出しはしなかった。
確かによく見ると、少し着物は大きめに見える。
ガイの昔のものではあるのだろうが。
「で、もとの服はその風呂敷・・・」
「ああ・・・・・・・・・・・・」
目を伏せてネジは何か考えているようだ。
「風呂敷でも、もうちょっと普通のにすればよかったのに・・」
「これが一番まともだった」
気の毒に。
再び二人は同じことを思った。


「ナルト、タレ取って」
「あい」
沈黙。
「あ、麦茶持ってくる。ネジは何がいい?」
「俺もそれでいい」
「野菜室にある林檎ジュース持って来て」
「はい、三人とも麦茶だな」
再び沈黙。
ナルトとシカマルが喋って、その会話が終わると沈黙が訪れてしまう。
だがこの何ともいえない沈黙の間を破ったのは、意外なことにネジだった。
「仲が良いな」
「「は?」」
「いや、ナルトもシカマルも二人でいるといつもと違うように見える」
「そうか?」
「ああ。ナルトなんか特に」
シカマルはじっとナルトを見る。
見つめられている当人はうろたえてしまう。
あれ、俺何か失敗してる?!
いまだよくわかっていないナルトにため息をつきながらシカマルは教える。
「ダッテバヨ」
「あ」
「無いほうがいいと思うぞ?そのほうが自然だ」
さほど気にしている様子が無いのにほっとする。
時々、ネジは何か感づいているように思える。
九尾のこと、暗部のこと、シカマルのこと。
どれか一つかもしれないし、全部かもしれない。
過大評価しすぎだろうか?
「いやー、ネジ。これ言わないでね?」
「誰に言うんだ」
「・・・・・ヒナタとか?」
まさかそうくるとは思わなかったらしい。
飲んでいた麦茶で咽るネジ。
うわ、面白っ。
シカマルの方をちらりと見ると、口の端が上がっている。
同じようなことを考えたのだろう。


「ほらほら、一杯どうぞ」
ナルトが差し出す一升瓶にネジは嫌な顔をした。
「何でこんなところに酒がある」
「気にしない。ほら、一杯だけでもいいから飲めよ」
無理矢理杯に注がれ、仕方なく飲みだす。
もう一杯注ごうとすると手で止められた。
「で、どこまで聞いたっけなぁ」
「ヒナタと隣町の植物園にデートしに行ったところまでー」
「あれはデートじゃないと何度言ったらわかる?
 ヒナタ様が花が好きで、俺も珍しい植物があると聞いて・・趣向の偶然の一致から」
「「いや、どう見てもデートだろ」」
ネジの言葉を遮ってハモる二人。
「でも明るくなったよな、ヒナタ。前は絶対ネジを誘ったりできなかったぜ?」
「そうそう。服も明るい色とかが多くなったよな。オレンジとか」
どことなく、ナルトを意識しているのかもしれない。
ネジは面白くないかもしれないが、恋愛感情でやっているわけではないのだ、多少は大目に見ているらしい。
「その内、髪を染めて口調を『だってばよ』にしそうで怖い・・」
「は?」
ネジは焦ったように冷や汗が出て、「何でもない」と言いながら急いで立ち上がった。
「ご馳走様。美味かった。今度何かお礼でも・・・」
がたがたと物にぶつかりながら慌てて出て行くネジを二人は見送る。
たった一人いなくなっただけで部屋が広くなったように感じられる。
二人はお互いの顔を見直してゆっくりと言葉を紡ぐ。
「ヒナタが髪を染めて・・・」
「口調を『だってばよ』・・・」
ネジが普段ヒナタを見て考えていることが窺える台詞だ。
それだけ言うと、もう一度ネジが出て行ったドアに視線を向け、また顔を向ける。
「不謹慎だとは思うけどな」
「この際だしな」
二人は机をドンドンと叩きながら腹を押さえて笑いあった。
『ネジ最高!」という笑い声はアパートの外まで響いていたそうだが、そんなことは気にならなかった。