アカデミーの卒業試験は大まかにいうと二つに分けられている。
筆記と実技だ。
筆記では、テスト形式、口頭問題、他にも色々と・・(実は試験日よりも前から
少しずつ行われているのだが)
これはあくまで参考程度のものだ。
実技は、審査官の前で決められた忍術を発動させる。
他にも体術やクナイを投げる精度なども試されている。


空を見ながら寝ていたナルトは、午前中に行われた筆記試験の結果を予想していた。
おそらく、13点。
初歩中の初歩問題は汚い字だが書いた。
何度も書き直して跡や、余白に下手な落書きをした答案。
きっと、あれを採点する奴らは冷笑しているだろう。
・・というか馬鹿らしくないか?何で里一番の稼ぎ頭の俺がテストの点なんか考えて。
ナルトはそう思い、テストのことを頭から追い出した。
今の昼休憩をとって午後一時半から実技試験。
フェンス越しに学校の大きな時計が見えるので、起き上がって覗いてみるともう一時になっていた。
もう一度寝転がり今回の実習課題を思い出す。
今日は分身の術だったか。
俺の次に成績の悪いシカマル君はどうするのだろうか?
だらだらと「めんどくせー」と言いながらもゆっくり印を組むのかな。
「何笑ってんだよ」
横から当の本人に声を掛けられた。
知らず知らずのうちににやついていたらしい自分に驚いた。
「別に、シカマル君はどうしたんですかい?俺に用があんだろ?」
こんな人気の無い屋上でも、シカマルが寝転がることはあるかもしれないが、
それでも自分に用があるのだと妙な確信がナルトにはあった。
「あー、あのよ、兵糧丸持ってねぇ?」
アカデミー生はそういったものはまだ支給されない。
下忍になって初めて、自分のクナイや兵糧丸などを支給されるのだ。
・・といってもほとんどの家、特に名家の子供は早いうちから持たせられているが。
ナルトはポケットをまさぐり、淡い藤色の包みをシカマルに投げた。
「大体なんで兵糧丸?試験なんて分身の術だぜ?」
初級忍術の中でも特に、(アカデミーではそこそこ大切な術だが)チャクラも大して使用しない。
大体シカマルはそんな術とっくにマスターしているだろうに。
疑わしい目つきでシカマルを見ると、彼はつっと目を逸らして薄笑いを浮かべた。
「ナルト君、俺が最近チャクラを利用する実験にはまっているのをよーく存じているだろ」
少し前、自分が遠方の任務でついでとばかりにかっさらってきた巻物は難解な暗号で書かれていた。
それをシカマルに渡し、解読を頼んだ次の日に、シカマルは変な趣味にはまっていた。
その巻物にはどうやら昔の、そのまた昔に滅んだ国の高等忍術書だったらしい。
結界が多くを占めていたが、チャクラを込めると数秒後に爆発を起こす
特殊な火薬の調合法や印を物に刻み込む時の注意点など・・どうやら忍術と道具の融合を主としていたらしい。
シカマルはそれにすっかり夢中になり、特書館のカウンターで怪しげなものを作っては
横に置き、後ろは怪しげな物の山ができていた。
『おい、ここで術を使うなよ。ここの後ろのが暴発して国が消滅するから』
と言われたときは冷や汗が止まらなかった。
おそらく、この巻物を書いた国は・・そういった事情で滅びたに違いない。
とりあえず、その危険な工芸品ともいえるものをシカマルはここ最近熱心に作っているのだ。
ナルトが遠い目をしているのを、シカマルは軽く睨みつけ、話を続けた。
「俺は昨日もそりゃあ頑張って研究していた。自分なりに火薬とチャクラの比を変えてみたりもした」
「ああ・・」
「やりすぎちまって、チャクラがすっからかん」
その言葉が一瞬理解できず、呆けた顔をしているナルトを尻目に
貰った包みの丸薬を二、三度咀嚼して飲み込むシカマル。
「あ、阿呆じゃん!!おめぇ、それでも忍びか?!忍者はチャクラを温存するよう
 アカデミーでだってずっと言われてきてるじゃねぇかよ!!」
「俺はまだアカデミー生だからな」
「でも暗部だろ」
「それはおまえ。俺は暗部である前に司書だ」
「特書館の司書だって忍者だ」
「体術だけでも立派に任務はこなせる」
「あー、リーのこと?ありゃ確かによくやって・・・って違う!!そうゆう意味じゃねぇっつーの!」
ナルトが全力で裏拳を入れようとするが、シカマルは上手くかわした。
避けるついでに兵糧丸の入っていた包みをナルトに投げる。
それを受け取ったナルトはたった今思い出したかのように尋ねた。
「そういえば、わざわざこれを飲むってことは卒業するんだ」
「まーな、もう一年ここにいるのもめんどくせーし。・・ナルトはどうすんだ?」
「卒業しようかと思ってる。試験は失敗するけど」
にやっと人の悪い笑みを浮かべるとその意図を察したらしく、シカマルも笑い返す。
「そうだな・・・あいつが仕掛けるなら、今日が一番か」
あいつとはミズキという中忍なのだが、シカマルは名前を直接言わない。
あえて言わないのではなく・・多分覚えてないだけなのだろう。
「そゆこと。狙いは影分身のやつみたいだけど・・・俺の狙いは」
「「穢土転生の巻物」」
二人は口をそろえて言い、次の瞬間笑いあった。
「だよな!やっぱ、次に読むのは穢土転生だよな!?」
「おう!あれは特書館にはねぇからな。後で俺にも読ませろよ!」
頷きあって頬を染め、はしゃいでいる姿は何とも子供らしいが言っている事は危険極まりない。

『卒業試験を受ける生徒は速やかにホールに集まってください。繰り返します・・・・』

スピーカーが近くにあるせいか、かなり大きな声が頭に響く。
「あー、もうこんな時間か。行くか」
「そうだな。・・・ナルト君、試験頑張ッテクダサイネ」
片言の言葉でシカマルはそう言った。
ナルトは口元を上げて楽しそうに言葉を返した。
「勿論。ドベの俺の出来うる限りをやらせていただきます」













試験が終わってしばらくした後、シカマルとチョウジが座っていた。
チョウジが最初に気づき、手を振ってナルトに話しかけてきた。
「僕合格できたんだよ!シカマルも!!ナルトはどうだった?」
嬉しそうにチョウジが喋っているのを曖昧な笑みで返す。
「はは、俺ってばまた落ちちゃった・・・」
「あ・・・・ごめん」
「気にすんなって!まだ機会はあるってばよ!!」
明るく言うと、ほっとした感じでチョウジが同調して頷く。
シカマルがめんどくさそうに立ち上がってチョウジの肩を叩く。
「ほら、今日は真っ直ぐ帰って来いって親父たちに言われただろ。行くぜ」
あの仲の良い元祖猪鹿蝶トリオは家族ぐるみで卒業祝いをするのだろう。
チョウジは決まり悪そうにナルトを見て、「がんばってね、それじゃ」と言って歩いていく。
その横に行ったシカマルは一度だけ振り向いてナルトを見る。
お互い、小さく笑いあった。