人の命を何だと思っていると咎められるかもしれないが、
俺は殺さない任務より殺す任務の方が好きだ。
というか、楽だ。
同じAランク任務でも、殺すだけなら5分で終わる。
逆に捕縛や交渉の仕事になると、当たり前だが、木の葉の里に戻るまで任務は終わらないわけで。

だから、俺は三代目直々に頼んで、わざわざ殺す任務を請け選ばせてもらっていた。
つまりは得意な任務を選り好みしていたということだ。
気づけば木の葉のトップを担う謎の凄腕暗部に祭り上げられていたが、
勿論、全てにおいて俺が実力を相応に発揮できるわけじゃない。
例えば今。
殺さずに元木の葉上忍を拘束しなきゃいけないが、面倒くさい。
しかも逃げ足だけは妙に速いから、更に面倒くさい。
付け加えるならば九尾事件の関係者らしく、
『うずまきナルト』に逆恨みの念を抱いているというオプション付きで面倒くさい。
殺していいならさっさとこちらの正体ばらして引き付ければいいから楽なのに!
薬でラリったような奇声を発しながら走っていく標的の背を忌々しく睨み、
俺はお馴染みの通学路を駆け抜けていった。












暗部のコノト、またの名をうずまきナルトという少年が
忍耐と戦いながら仕事に勤しんでいるのと同時刻、
表でも裏でも彼の相棒と認識されつつある奈良シカマルはアカデミーの教室で退 屈と戦っていた。
講師のイルカ先生は時折睡魔で頭を揺らす生徒をチェックしているが、
授業の進みが遅れているのか、雑談も無く日常におけるチャクラの存在比率云々を説明する。
サクラやいのは真面目にノートを取っているが、当然シカマルはそんな行動はしない。
簡単な内容だから、というのもあるが、それ以上にメモを取ることが苦手だった。
頭の中で結論が出ているのに、何故その過程をわざわざ書かなければいけないのだろうか。
そうナルトに漏らしたとき、嫌味な奴だと小突かれた。
チャクラ量といい天賦の戦闘センスといい、努力でどうにもならない分、むしろあちらの方が嫌味な奴だろうに。

まるで思考を読んだように、ナルトの分身がぴくりと肩を揺らせてこちらを凝視してきた。
勿論本当に読んだわけではないだろう。
何かあったのかと、分身に倣って真横の窓を確認する。

忍者が二人、アカデミーの門を飛び越えて入り込んでいた。
一人は暗部・・・というか、コノト。
今日は別途任務があると言っていなかったか?
大した推理をするでもなく至った結論に、シカマルは盛大にため息をついた。



「・・・・・・・・・・・・・・面倒くせぇ」



公言することでもないが、奈良シカマルは無神論者だった。
それでも彼はこの瞬間、心の中で真剣に神に祈っていた。

間違っても、あの標的らしき男がこの教室に乗り込んで来ないようにと。


















「み、みんな!ゆっくり、落ち着いて避難しろ!!」

俺が教室に辿り着いたとき、イルカ先生は迅速に生徒たちを避難させていた。
一部好戦的な野郎どもがいないでもなかったが、
そこは中忍、視線で黙らせて退去させていた。
こんな良い人材を万年中忍とほざく奴は誰だ!とこっそり毒づいたが、
よくよく考えてみればほざいているのは俺だった。これからはちょっと気をつけよう。
あらかた生徒たちもいなくなり、先生も退出させたところで俺はドアを閉めた。
忍びを逆上させたくないってタテマエ。何が起こっても気づかれないようにって本音。
まだ自分の窮地に気づいていない可愛そうな抜け忍に向き直り、
彼が不幸にも選んでしまった人質の生徒を確認した。
笑いを抑えようとも、口の端がぴくぴく動いてるのが自分でもわかる。

「・・・さっさと人質の少年を解放してくれないかな?」
「きゅ、九尾のガキと引き換えだ!!」

いきなり緘口令破りやがったよこいつ。
そりゃ今更罪科が一つ二つ増えたってどうってことないかもしれないが、
周囲を気にしないってのはどうかと思う。

「九尾なんて知りませーん。ってわけで少年、自力で頑張ってくれ」
「仕事放棄すんなよ暗部サン。山ん中駆けずり回って狐の子供捜してこいって。
 繁殖期は過ぎてるからいないことはないぜ?」
「何を言ってるんだ少年。仮にも忍者目指してるなら、
 ここは勇ましく敵に立ち向かって男を見せろよ」
「俺は無力で非力なアカデミー生なんだぞ」

なんて生意気でふてぶてしい人質なんだ!
だが何をどう解釈したのか、哀れな男Aは人質の少年、シカマルに
にやにやと嫌らしい笑顔を浮かべて講釈を始めた。

「おいガキ。九尾のガキを知らないのか?」
「あぁ?」
「うずまきナルトっつう薄気味悪いガキのことさ!
 九尾狐と同化しててよ、殺せば英雄扱いだし、
 生かしておいても見世物や実験台としても高く売れる」

尾獣なんてそうそういないし、間違っちゃいない。
俺はこんな話慣れっこなんだけど、シカマルはそうじゃないらしい。
昼行灯も生意気さもすっかり消え去り、
人を人とも見ない冷酷さだけが残った瞳がギラっと光った。
マジ切れモードってやつです。二、三歩下がって見守りましょう。

「コノト」
「おう」
「これ、俺がやる」
「どうぞ」

会話についていけず、訝しげに俺を見る元上忍さん。
駄目だよ、ちゃんと聞いてなかった?やるのは俺じゃなくてあっち。
ほら目ぇ離してる隙に影真似の印組まれて脱出されちゃった。馬鹿だねー。

これで捕獲完了なのに、シカマル君はどこからか取り出した
タオルを無理やり口に押し込めた。
もがもがっ!とくぐもった声で喚くおっさん。

「くっくっく・・・・・誰が無事に引き渡すなんて言ったかねぇ」
「少年。チャクラが禍々しくなってるぞ」

九尾も触発されて俺の腹の中でグルグル唸ってるよ。













「あのー・・・・大丈夫ですか?」
「おう。もう終わったから」

数十分後、イルカ先生がそろーりとドアを開けて様子を伺ってきた。
さっきからずっと誰の声も聞こえなくなって気になったんだろうな。
シカマルが無事にぶすりと立っているのを見て、先生はほっとした様子。
うん、先生がもうちょっと早く来てくれれりゃ、あの上忍さんもここまで痛めつけられなかっただろうが。

「よかった、無事で。シカマル、暗部の方にお礼を言いなさい」
「・・・・・・・・・」
「いやいや、こっちこそシカマル君の冷静な態度に助けられましたよ」
「そんな、勿体無いお言葉ですよこの悪がきには!」

ぐりぐりと悪がきの頭を強く撫でるイルカ先生。
悪がきは悪がきでも、そいつは実は俺の相棒で、
尚且つ木の葉の賞金額でトップタイを飾る悪がきなんだけどね。
俺は苦笑しつつ(面で見えないだろうが)哀れな物体Aを肩に担ぎ、瞬身で帰らせた。
なんか、授業は退屈だけど、折角・・・・・・・・だしねぇ?













「さってと、授業始めるか」
「・・・・先生、まさか今から再開っすか?」
「当たり前だろう?何言ってんだ」

流石アカデミーと言うべきか、先生の神経の図太さを関心するべきか。
後ろからぞろぞろと生徒たちが戻ってきて、
いのやチョウジが大丈夫だったかと気遣わしげに駆け寄ってきた。
ああ、でも授業やるのか。かったりー。

「よっしゃ、授業だってばよ!」
「おぉ、やっとナルトもやる気になったのか!?寝るなよ!」
「それは断言できない!!」

ゴスンと殴られる音。
コントのような先生とナルトのやり取りに笑いが漏れるが、俺には違和感。


「おい、ナルト」
「何だってば?」
「何でここにいるんだよ」
「いちゃ悪いってのかー!?学校は勉強するために来るんだってばよ!」


いつも学校面倒くせぇと言っている癖に。
もしかして、いざ教室入ったら逆に授業が恋しくなったのか・・・・?
なんっていうか。それじゃ、まるで

「ガキ」
「むきぃいいいっ!!うるっさいってばよシカマル!」
「お前がうるさい」
「くぉらっ!!二人とも静かにしろっ!」














061105:書き直しました
051111:作成
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