今夜の任務は抜け忍の始末。
任務自体は取るに足らないものだが、
こうして夜の森を思いっきりカノコと駆け抜けるのは実は結構楽しいものだ。
いつもどおりぱっぱと片付けて跡形もなく全てを焼却するために印を組む。
「お前は、里を抜けようと思ったことねぇのか?」
横からそう呟く声が聞こえた。
カノコは燃え上がる炎を眺めながら言葉を続けた。
「ほら、こいつらよりもよっぽど色々思うところがあるだろ。
 コノトならもっと上手く抜けるだろうし、食うのにも困らない」
九尾のことで里人は最悪を遥かに下回る対応で俺に接してくる。
ちょっと他の里へ足を伸ばせば、ここから遠ざかれば遠ざかるほど
俺の中にいるものを知る奴はいなくなる。
そう、ほんのちょっとここを出てしまえば・・・・
「抜けようと思ったことはない」
「へぇ、何で?」
軽い口調でカノコは聞いてきたが、その顔は思ったよりずっと真剣だった。
「ってか何?怖ぇ顔して」
「モトモトコンナ顔デス、悪カッタデスネ。んで?話し逸らすなよ」
やれやれ、とコノトは諦めたように口を開いた。
「四代目が守ったからだよ」
何か言ってくると予想したが、カノコはただ黙って目を閉じている。
どうやら本当に聞き役に徹しているようだ。
「あの男が命をかけてまで守りたかったものが、本当にこの里にあるなら見たいんだ」
四代目火影が自分の父親であることは知っていた。
物心つく前に死んでしまった者に親しみや家族の情を持つわけではないが。
それでも、興味があった。
「それだけじゃないだろ」
コノトがさっとカノコを見たが、当の本人は木の幹によりかかり寝る体制に入っていた。
それ以上のことは話さないと確信しているようだ。
確かに、話すつもりはないが、こういう態度を取られるとつい天邪鬼になってしまう。
「カノコはまだ何か用事があるのか?」
「あぁ、ここら辺で逢引の約束があってな」
人の悪い顔でカノコが笑う。
勿論本気でこいつが女と会うとは思ってはいない。
「ふーん、そう。じゃあ俺は先に帰るぜ?」
「おう、お疲れさん。またな」
「・・なぁシカマル、俺が里を抜けないのはおまえがここにいるから、ってのもあるんだぜ?」
最後だけ本名を読んで俺は消えた。
あいつの反応を見たかったが今の俺の顔をあいつに見られたくはない。
頬が赤くなるのを感じながら最もよく使う印を組む。













「よう、来たな」
日付が変わるか変わらないかという時間に短髪の眼鏡の男がやってきた。
カノコは目を開けて身体を起こし声を掛けた。
「えぇカノコさん。それではお答えをお聞かせ願いますか?」
「Noだ。俺はあいつにつく」
「・・別にただ任務中の彼のことを報告していただくようお願いしているだけですよ?
 流石に暗殺しろ、とは言ったりしていませんし」
「たとえどんな些細なことでも、俺はコノトを裏切る気はない。あんなこと言われちゃ特にな・・」
「は?」
「いや、なんでもない。ともかくこの依頼はお断りだ。どうせ三代目にも隠してんだろ」
「・・・このことは私どもの間だけの秘密ということで、他言無用ですよ。勿論上層部のことも」
「わかってるよ・・・大体、あんた自身はコノトのことどう思ってんだ?」
「・・・・・火影様は狐同様あいつに甘いんです。甘やかされて付け上がっている様に思います」
「はー、だよな。てめぇみたいな、馬鹿で単細胞な奴はそう思うだろうな」
「んだとこのや・・・・・・痛っ!」
お決まりの台詞で左手にクナイを持ち襲い掛かろうとしてきた男に
カノコは千本をぶすりと差し込んだ。
軽い痙攣を起こし男はクナイを落とし、膝を突いた。
「てめぇがそれ以上動いたら、まずお前のこの左腕は使い物にならなくなると思ってくれていい。
 大体、断ったら殺るって顔にもろ書いてあるし。やっぱ馬鹿か・・」
「た、助けて・・・・・・」
「殺らねぇよ、今日は気分がいい。だが、もう俺にもコノトにも関わるな。
 このことも口外するな、これは契約だ。破れば即殺す・・・・・わかったな?」
「は、はい!」
男が逃げるように去った後、カノコはイラついたように今まで自分が寄りかかっていた木を殴った。
揺れる木の上から何かがぼたっと落ちてきた。
ナルトが落ちてきた。
「・・・・てめぇは影分身の方だな?」
胸倉を掴んで揺さぶるとナルトの分身は頭を勢いよく振って頷いた。
「いいか、さっきのことは絶対あいつには言うなよ」
カノコは顔を赤くしながら声を低くして脅した。
だが分身は首を横に振った。
「無理だって、もう知ってるから」
苦しそうに右手で何かを指している。
カノコが恐る恐るそちらを見上げると、もう一人、ナルトが枝の上に立っていた。
「ナルト?」
「え・・と、さ、流石俺の相棒だな!!あの千本の攻撃は良かったと思うぞ!!!」
どもりながらそう言うとナルトは今までに無いほど速く消えてしまった。
呆然としているシカマルに、分身のナルトが肩を叩いた。
「照れてんだよ・・・あ、俺も消える」
ボフッと煙と共に分身も消えた。ナルトが消したのであろう。
一人になって今までのやり取りが頭の中でリピートされた。
「・・・・・聞かれてたのかよ・・」
カノコは耳まで赤くして顔を隠すように座り込んだ。