飛べるだろうか
この世を憂うような繊細な心は、ないけれど。
もしも今、目の前のフェンスを飛び越えたら
・・・自分は飛べるだろうか。
ヒトは空を飛べない。
それでも、飛ぶことができたら。
きっと素晴らしい景色だろうと勝手に想像する。
この里は地上からではちっとも綺麗に見えない。
俺限定だろうけど、人の冷え切った眼や醜い言葉で溢れているから。
毎日のように、俺は一番空に近い場所に来る。
扉を開けて足を踏み出すとじゃりじゃりと砂っぽい音がした。
火影岩の上でも、特に街が綺麗に見渡せる場所に移動する。
更にもう一歩踏み出せば、人生に幕を引くのを余儀なくされるだろう。
相容れないはずの生と死が曖昧に混ざり、滲み、
そしてやっぱり明確に分けられている一線。
越えてしまえば、もう余計なことを考えなくていい。
「何してんだ?」
「・・・・・シカマル」
びっくりした。
まさか、シカマルがいるなんて思わなかった。
「いつからここにいた?」
「おまえがここに来て、すっげー面白い顔で里眺めてた時ぐらいかな」
「最初っからじゃん」
「まぁな」
しれっとした顔。
それ以上、何も俺の行動を詮索するようなことはしない。
そういうところが、俺は好き。とても心地いい距離感。
だから、ちょっと俺の方から会話なんてしてみた。
「どんな顔してたの?」
「んー・・・・」
何か考えている。
そこまで考えるほどでもないだろうに。
先を急かそうとしたが、その前にシカマルは答えた。
「泣きそうな顔」
・・・・・・・・・・・・予想外。
あまりに、予想外な、核心を突いた言葉。
でも、シカマルはそれ以上何も言わず俺の隣に寝ころんだ。
・ ・・・・・そばに、いてくれるってことかな。
「俺ね、飛びたいの」
「飛ぶ?」
「そう。ここから、勢いよくバーッ!、って」
「ふーん」
突拍子もないことを言っている自覚はあったけど、止まらない。
こうして、否定もせずに静かに聞いてくれるシカマル。
今までそんな人、いなかったから。
多分己の心情を言い当てられて動揺してるせいだ。
こんなに、自分のことを喋るなんて俺らしくないもん。
「じゃ、飛ぶか」
「は?」
そう言われたのは、結構唐突だった。
もうすっかり飛ぶことから話題は逸れていて、
俺も半分ぐらい忘れていた。
シカマルは戸惑う俺を差し置いて、服の汚れを払い落としている。
何か尋ねる前にいきなり手を掴まれて一言。
「ナルトも、ちゃんと踏み出せよ」
そう言って走り出した。
俺も手を掴まれているから走り出さざるを得ない。
・・・いや、止まろうと思えば止まることもできたけど。
シカマルの目を見たら、そんな考えなくなって、
いつの間にか楽しくなって俺も馬鹿笑いしながら一生懸命走っていた。
死ぬ間際が一番楽しく感じるのは、すごく幸せだと思う。
「それで、それでどーなったんだ?!火影様!!」
「それでなぁ・・・俺たちは」
「こら六代目!また君は公務をサボってアカデミーまで来たのか!!」
ナルト、と呼ばれた青年はつまらなそうな眼でリーを見た。
だがリーは、同じぐらい険しい眼でナルトを見返した。
何せ今は授業中なのだ。
なのに子供たちはナルトの周りに集まって興味深げに彼の話を聞いている。
授業妨害というよりも学級崩壊と言ったほうが正しそうだ。
「リーせんせーまでシカマルと同じようなこと言い始めたー」
「言い始めたー」
ナルトの言葉を子供達が真似をして同じようなことを言う。
その光景に頭を抑えるリー。
大人になり、火影にさえなった今も、彼の性格は変わっていない。
人を惹きつける・・というのは素晴らしいことだが、
それで授業を崩されてはたまったもんじゃない。
「でも、火影様も火影岩から飛び降りるぐらい、嫌なことがあったんだね・・」
「九尾のお話は習ってるけど、ナルト兄ちゃん可哀想・・・・」
『未来の子供達には、表裏関係なく、真実を知ってもらいたい』
それがナルトが六代目火影になったときに、初めて出した宣言だった。
その宣言を受け入れ、今ではアカデミーの子供達は皆九尾の話を知っている。
だからか、余計、教室はしんみりとした空気になった。
自分の親たち、祖父母たちが、今目の前にいるこの明るく優しい青年を、
気嫌って、酷い扱いをしたかもしれないのだ。
どうしようもないことだけれど、悲しい。
「こらこら、騙されちゃだめですよ」
「へ?」
「あのうずまきナルトがそんな柔な性格なわけないじゃないですか」
呆れたようなリーの声に、戸惑う子供達。
当の本人の六代目はにこにこと笑いながら傍観者を気取っている。
リーは、ため息をつきながら説明を始める。
今日の授業はこの話で終わりそうだ。
「シカマル君と火影岩から飛び降り云々は本当のことですけど。
全くもって目的が違います」
「あー、リーは知ってたのか?」
茶化すような声音のナルト。
「喧嘩の決着をつけるために空中耐久勝負をしたんです」
「「「「「・・・・・・・・・は?」」」」」
「しかも妨害アリのルールにしたせいで、
武器、術、何でもあり、使い放題ですよ?里の上空で」
「・・・」
「空からクナイの雨に晒されたガイ先生・・・・
うぉーっ!!!火影様、いい加減に落ち着きってものを持ちなさーいっ!!」
その当時を思い出したのか、いきなり怒りに燃えたリー。
今にも熱血指導をしかねない彼を見て、ナルトは同情の眼で子供達を見る。
「・・・おまえら、臨時だけどリーが先生だと大変だな」
「わかってるなら早く他の先生にしてください」
「あ、無理。そういう仕事はシカマルだから」
「じゃあ、シカマル兄ちゃんに頼んでよ」
「・・・・・・・・絶対イヤ」
また喧嘩したな。
子供達は深いため息をついて、自分の席に戻っていった。
「今日もまた自習かぁ・・・」
「もう、諦めようぜ・・・・」
過去の真実(おまけ)
「ナルト、間違えるなよ。妨害は飛び出してから二秒後からだからな」
「そっちこそ」
「勝った方は」
「「今日の罰当番の教室掃除を相手の分肩代わり」」
にやりと不敵に笑う二人。
火影岩から数歩下がったところで手をつなぎ合う。
・・・・お互いが妨害しないように。
「よーい」
「ドン!」
その瞬間おw偶然にも目撃した忍者たちは語る。
「最初、何か黒い点みたいなものが火影岩から飛び出してきたんです。
そして数秒後、いきなり片方から大きな火の塊が放出されて、
もう一方から水の塊が出てきたんです・・・・・」
「暗雲がいきなり立ちこめました」
「雷が鳴り始めました」
「見たこともない生物が空を飛んでいました」
「・・・・・・こんなことをできる奴ぁ、わしは二人しか知らんのぉ」
「おい猿飛、あまり怒ると頭の血管が切れてしまぞ?」
「・・・・ふっ・・・・ナルトとシカマルつれてこーいっ!!!!!」
今にも口から炎でも吐きそうな三代目火影を見て、
サコウは面白そうに笑った。
「子育ては大変だな」
「そんな生やさしいもんか!!あの悪ガキどもはっ!!!!」
補足説明(せなあかんような小説を書くなよ馬鹿)
・木の葉の里の例の天変地異現象は、七不思議みたいなので言い伝えとして残っています。
・ぶっちゃけナルトたちが↑の原因だと今でも知らない人は多いです。
・ナルトとシカマルの喧嘩の原因はシカマルのとっておいたプリンをナルトが食べたからです。
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