生ぬるい湿気が混じった風を顔で受ける。
嫌な風だ、シカマルはそう感じながらナルトを見やる。
そちらは大して気にした風はなく、ただ黙々と死体を燃やしていた。
多少の湿気では、炎の勢いに影響を与えることは無い。
標的はたった二人ではあったが、思ったより手こずったのは確かだ。
上手い連携を組んで戦い、そして追い忍を仕向けられたときの
対策もきちんと立てていたようだ。
カノコとコノトは二人を分断し、それぞれサシで戦った。
相手は木の葉の山の神社に住み込んでいる元忍者。
俗世を離れ、自然の中で隠居することを選んだ老人たちであった。
それでも年のことは一切関係ないと思わせる俊敏な動きだ。
カノコは苦戦しながらも、相手の攻撃をぎりぎりで避けて首にクナイを突き立てた。
避けきれず頬に一本の血の筋が入ったが、気にするほどのものでもなかった。
袖で拭って、少し離れた場所でまだ戦っているコノトを見る。
無表情だった。
今まで、結構それなりの任務を一緒にこなしてきたがこんなことは無かった。
自分に憎まれ口を叩くこともあれば挑発してくることもある。
嫌な任務であってもどこか余裕はあった。
それが今のコノトにはないことをカノコはわかっていた。
今日は一言も会話をしていない。
ただ任務を受け取り、集合し、そして戦っている。
もしや死ぬ気では・・と思ったが、そんなこともなくコノトは
相手の腹部に刃を突き刺した。
すぐには死なないが、致命傷になったことは間違いない。
横たわった老人に、コノトはすぐ側まで近寄って変化を解き面を外した。
ナルトはさらに相手の顔の近くまで寄って呟いた。
ごめんね。
その呟きと共に、ナルトのクナイは心臓を正確に貫いた。
ナルトはシカマルが殺した男を燃やした。
シカマルがこちらを燃やし、ナルトがあちらで横たわって死んだ男を
燃やせば効率はいいはずだ。
だが今日は『俺が全部後片付けするから』と言って印を組もうとするシカマルを制した。
シカマルは何も言わず近くの木に寄りかかり、ただじっとナルトを見る。
燃え尽き、灰となったものは風と共にすぐに飛んでいってしまった。
眼に入らないよう軽く両眼を瞑る。
風がやんだと感じ、目を開けるとナルトはシカマルを一瞥し、もう一つの死体の方へ歩き出した。
ナルトは膝をついてまじまじと自分が殺した男を見る。
その行動を不思議に思いながらもつられてシカマルも後ろのほうから同じように眺めた。
生ぬるい風と血の臭気が相まって肺にまとわりつくようだ。
思わず顔を顰めたが、ナルトは気にしている様子は無かった。
この男とシカマルは二、三度最初のうちに対峙したぐらいだったが、
あの時はもっと大きい印象を持った。
今のこの躯は子供の自分たちの身長と頭一つ分ほどしかない。
自らの血で赤くなった元は白い髭、だらしなく開かれた口。
それでも目だけは妙な温かさを持っていた。
「この人さ、何で殺されなきゃいけなかったと思う?」
問うような口調、だが答えは求めていないのだろう。
黙っているシカマルを気にすることもなくナルトは続ける。
「この人達、山で暮らしてて、森の動物とか妖怪の類とか、
そんな奴らたちとも共存して暮らしてたらしい」
「それで九尾のこともそこまで敵視してなくて、俺にも結構優しかった」
声は決して震えていない。むしろしっかりとしている。
だが何故か、今にも泣きそうだとシカマルは思った。
「上とかに色々文句言ってたらしい。『おまえらは九尾の器となったあの御子に
どうしてこのような仕打ちにするんじゃ!』って」
その話は初耳だった。
そんな話なら噂なり何なりで耳に届きそうなものだが。
・・・・もしかしたら噂になる前に上が潰していたのかもしれない。
「他にも色々やって・・そのせいで結構上からは異分子として嫌われてた。
だからこうして、暗部トップに直々で命が下されたわけ」
ナルトは一息つくと、近くの雑草を引き抜いた。
白い小さな花がついている。
それを老人の胸元にそっと置いて印を組んだ。
とても強い、炎だった。
青なんてものじゃない・・白だ。
白い炎は彼の躯を包み込み、あっという間に灰にした。
ゆっくりと後ろを、シカマルを肩越しに見上げた。
「シカマルも、いつかは俺の前からいなくなるのかな」
んなことねぇぜ、と笑い飛ばしてやろうと思ったのに、
底の無い、青いはずなのに闇を思わせる瞳を見ると喉で詰まってしまった。
ゆっくりと息を吐き、それから自分もナルトの前に膝をつく。
「知ってるか?俺とナルト、両方とも歴代で類を見ない天才なんだと」
ナルトはじっとシカマルの顔を見つめる。
そうやって、いつも大切なものを奪われていったのだろうか。
「つまり俺たちは今までの火影より理論上では才能は上ってことだ。
・・・・・・俺たちで里を変えることが、できないはずがない」
そう言って立ち上がり手を伸ばす。
「おまえは独りで、一生上の奴らに怯えて与えられる手を拒絶していくか。
それとも俺の手を取ってこの里を変えるか。どっちだ?」
自分が変わるか里を変えるか。
どちらが簡単で手っ取り早いかなんて考えるまでも無い。
それでも、
ナルトはシカマルの手をしっかりと掴んだ。
おまけ・帰り道
「にしても、本当にここの空気酷くないか?生暖かいって感じで」
シカマルが言うと、ナルトも首を縦に振る。
「うん、でもあれやるのには丁度いいと思わねぇ?」
この暗さといい、空気といい、さらにいい感じに血がこびりついた岩。
「「肝試し」」
言葉が重なり、笑いがこぼれる。
「あー、そのうちできないかな」
「無理じゃねぇの?一応ここ立ち入り禁止区域だろ」
「忍者の死体が転がってるかもしれないから子供は駄目よーってやつ?」
シカマルが頷くのを見てナルトは顔をゆがめる。
「大体、子供でも忍者目指してるんだろ?死体ぐらい・・・」
「そう言うなって、死体のほかにも色々あるかもしれねぇだろ」
「何?」
「トラップ」
あー、とナルトは納得する。
「そういえば、あの人らも結構トラップ用意してたけど、ちゃんと回収したか?」
ナルトは回収した覚えが無い。
シカマルは奇妙に口元を歪めて言った。
「俺はおまえがやってると思ってやらなかった」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
つまり、おそらくあそこら辺にはまだ自分たち用のトラップが仕掛けられている、と。
「「・・・・・・・・・・」」
「大丈夫、だよね?なんか、あそこら辺にいくつかトラップがありそうだけど」
ナルトは指を刺した。こちらからわかるだけでも3つはある。
「お・・おう、ここに入るのは忍者なわけだし、大丈夫・・・だろ」
「ぎゃーーーーーーーーーー!!」
タイミング良く、自分たちが言った『あそこら辺』で悲鳴が上がった。
二人はぎこちなく笑いあうと、帰路を急いで走り去った。
自分を守ろうとした老人を、殺す任務を請け負ったナルト。
こいつ、シリアス書こうとして失敗したな!と感じたあなたは正解です。