「ったく、いつもいつも人のこと見下しやがって。何様かっつーの!!」
登校一番、挨拶代わりの城乃内のその叫びに、
遊戯たちは「ああ、海馬君に会っちゃったんだ」と事情を察した。
「今日さ、新聞配達のバイト中に海馬の車とすれ違ってよー」
周囲の友人たちは苦笑した。
まさに犬猿の仲。
城乃内が負け犬なら、海馬君は猿なんだろうか。
親友の愚痴を聞き流しながら、遊戯はとりとめもなくそんなことを考えた。
「あー、もう。マジで海馬って嫌な奴だよな!」
「うーん、そうなのかも、ねぇ」
だが、海馬が興味の無い人間とここまで衝突するのはあまりない。
本当に見下した人間は、まず存在すら認知されないのだから、
まあ…………認められていないこともないのだろう。
「でも、そんな嫌な人ってわけじゃないと思うよ」
遊戯がフォローに回る前に、のんびりとした獏良の声が入ってきた。
割り込むというよりは独り言のようにやんわりとした言葉だったが、
それでも、城乃内も遊戯も、勢いよく獏良を振り向いてしまった。
無理もない。あの獏良が、あの海馬を肯定したのだから。
あのストーカーとして通報されてもしょうがない海馬を!!
(一度本当に通報したが、KCの力で握りつぶされたと獏良がぼやいていたのを思い出す)
城乃内はおそるおそる、勇気を持って聞き返した。
「ば、獏良って……海馬のこと好きだったのか?」
「何でそんな結論に至るのかな」
獏良がパーフェクトスマイルで筆箱を投げてきた。
布製じゃない、金属製だ。
喧嘩で磨かれた素晴らしい反射神経で城乃内は避けたが、
当たれば容赦なく顔面にめり込んでいたに違いない。
「あぶねーって獏良!」
「ごめんごめん。でも、城乃内君が気味悪いこと言うからだよー」
穏やかな笑顔で筆箱を拾う獏良が、ちょっと怖いと思った。
ほわほわとした外見とは裏腹に、内面はかなり激しい性格だ。
昔はそうでもなかったのだが、千年リングの人格と我の強い社長により、
大分性格に影響が出てきたのだろう。
遅れて教室にやってきた御伽と杏子と話を始め、
城乃内はとりあえずこの危ういやり取りに終止符が打たれたことに安堵した。
遊戯がお疲れさま、と笑う。
もうこれ以上海馬の話題を続ける気にもなれなくて、
二人はぼんやりと窓によった。
「本田君は来ないのかなー」
「ああ、面倒だからフケるって言ってたな」
「え、本田の奴来ないの!?今日CD返すって言ってたのに!」
こちらの話を聞いて、杏子が頬を膨らませる。
それが可笑しくて皆で笑うと、ふと、獏良の背中にキラキラ光るものが見えた。
日の光に反射したのだろうが、何だろう。
最初に気づいた遊戯がそっと隣に目配せすると、城乃内も頷いた。
こっそり近づき、背後から光った物を摘む。
ボタンかと思っていたが、ソレは小型の精密機械に見えた。
「「…………」」
城乃内は、窓の日光に翳して色々調べた後、遊戯にそれを渡した。
遊戯も同じく眼を凝らして検分する。
小さな機械の表面には、更に小さな文字で「KC」と刻まれていた。
十中八九、仕掛けたのは『あの人』に違いない。
そして、『あの人』が獏良に仕掛けるのだから、
きっとこの機械は、盗聴器………もしくは発信機の類だろう。
もう一度、遊戯と城乃内はお互いの顔を見合わせた。
少なくとも、この機械をもう一度獏良に付け直すほど、海馬の味方にはなれない。
どうするのが一番いいだろうか。
しばらく悩んだ後、城乃内はジェスチャーで『それを貸して』と伝えた。
遊戯が渡す。
城乃内は、三本の指でそれを掴み、パキリと潰した。
残骸は窓から投げ捨てる。
「………今日は、いい天気だな」
「うん、そうだね」
窓からは清清しい青空が見える。
今日も良い一日になりそうだ。
もう機械云々の話は口に出さない。
お互い、このひと時の平和に浸り続けようと決めた。
午後の授業から海馬がやってくるまで、
二人は心から、平和のありがたみとその貴重さを実感した。
070624:校正
050325:作成
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