最近、親父からよく電話がかかってくる。
内容はいつもどおり。
どうせ母ちゃんに漫画捨てられそうになって、必死に機嫌を直したいんだろう。

まさか、今ここで正義の味方と談合しているとも言えず、
適当に相槌を入れて話を打ち切ったが。






「なぁ、ポーちゃん」
「何だよ」
「もしも俺が本気で世界征服するって言ったら、どうする?」


俺の作った次の台本に目を通していたポーちゃんは、
面倒そうに眉をしかめつつ顔を上げた。


「お前が?」
「俺が」


ゆるゆると小首を傾げて、考えこむ仕草のポーちゃん。
その動作が妙に幼い。

(あ、今眠いんだ)

その程度なら言わずとも察せられる程度には、浅くない関係。
眠りやすいようにと傍にあったクッションを渡すと、案の定顔を埋めて眠る体勢に入る。
無断宿泊は許さないだろうが、帰りが遅くなることぐらいは伝えたほうがいい。
携帯からセラヴィの家の番号を呼び出し、いざかけようとしたところで
いきなりポーちゃんがこちらを向いた。


「どうしたの?寝てていいぜ」
「理由を聞く」
「…………はい?」
「平八が、どうしてそんなことするか、まず聞く」


ああ、そういえば、質問していたんだっけ。
ポーちゃんなら遠慮なくどついて止めるとか言いそうだったので、少し意外だった。


「平八は、理由もなくそんなことしねぇもん」


無垢な信頼。
裏切られるとか、傷つけられるとか一切考えていない。
最初の頃はいつ秘密をバラすんじゃないかといつも警戒して、
脅されるたびに睨んで、お世辞にも良い関係ではなかった。

別に今の関係に不満があるわけじゃないが、
悔しそうに唇を引き結んで、屈辱に耐えるポーちゃんの表情が、好きだったのに。




いつからポーちゃんは変わってしまったんだろう。



「おまえが変わったからだろ」
「…ポーちゃん、俺の心読んだ?」
「…………読んでない」
「読んだでしょ?」
「読んでない」
「正義の味方が嘘つくなんていっけないんだー、ぜっ!」


じゃれるように引っ付いたポーちゃんはポカポカ温かく、
最近徹夜でゲーム三昧だった自分も、眠気に襲われる。
このまま寝てもいいかな、と頭の片隅で考えた。



ポーちゃんの泣き顔が好きだった。
悔しがる顔が好きだった。怒った顔が好きだった。
怖がる顔が好きだった。俺だけに、強い感情を向けるポーちゃんが好きだった。




なのに、無条件に信頼されて、ガキみたいに一緒に添い寝して、
それを心地よいと思う俺は、気づいてみると確かに、変わってしまった気がする。


「うん」
「…だからポーちゃん、人の心を読むのは止めようね」


熟睡モードに入ったポーちゃんのうずまきを指でぐりぐり押しながら、ため息一つ。






もう、なるようになれ。









その後、セラヴィたちに連絡し忘れて、二人ともこっぴどく怒られました。





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