珍しくも無い客の突然の来訪。
が、二人きりになるのは、思い返せば初めてだった。




「サンダルの兄貴ぃ」
「次にその名で呼んだら、潰しますよ?」


おー怖い怖い、と大仰に振舞う年の離れた実の弟。
子どもたちが不在の今、話し相手は必然的に自分となる。
迷惑そうな顔を作っているが、勝手知ったるとばかりに冷蔵庫からジュースを出し、
彼はすっかり自分の家のように寛いでいた。
なんと図太い神経だろう。

「ゲームならにゃんこハウスですよ」
「そんな遠まわしに出てけって言うなよ。
 たまには兄弟で旧交を深めつつ語り合おうぜぇ」
「ほー…で、大体予想はつきますけど、何が言いたいんですか?」
「まぁ、言いたいことがあるとすれば…………早くどろしーとくっつけ」

ああ、わかりやすい。

「おやぁ、素直に応援してくれてたんですか?嬉しいですねぇ」
「微塵もんなこと考えてねぇくせに」
「そんなに心配しなくても、彼はいずれ気づきますよ」

つまらなそうな顔。この男は、一応気づいていたらしい。

『彼』のどろしーちゃんへの情は、恋心ではない。
病気で弱っていたときに甲斐甲斐しく世話をされて……
(そういえば、彼は超能力のせいで両親とも上手くいっていなかった)
母性への憧憬、と表すのが最も適当か。
もう少し成長して親離れの年頃を迎えれば、自ずと心の整理はつくだろう。

「そういう問題じゃないんだって」

しかし、目の前の青年は否定的な言葉を呟く。
低く、執念じみた声音だ。
子どもたちには決して出さない暗い感情が滲んでいて、何故だか妙に関心した。
思ったよりも………随分と、独占欲が強い。

「自分だけを見てほしいと?餓鬼っぽいですね〜」
「あんただけには言われたくないぜ、セラヴィ」

そう、確かに彼は自分によく似ている。
貪欲で、手段を選ばず、結果的に対象を追い詰めることも辞さない。
…………加減がわからないのだ。

これ以上の会話は不毛と感じ取ったのか、
平八は温くなったジュースの残りを一気に飲み干し、片付けた。

「んじゃ、俺はそろそろお暇しますか」
「やっとですか」
「酷ぇなー」

ケラケラと笑いながら、さっさと席を立つ弟。
どうせ城に帰る前にポピィに会いに行くのだろう。健気なことだ。
こいつに言われたからというわけではないが、
今日は夕食の買い物にどろしーちゃんを誘ってみようと思った。


玄関を出たところで、振り返りもしない平八に、一言。
意地悪半分、興味半分の、ちょっとした疑問。



「ポピィ君が誰か別の人に心を向けたら、どうするつもりなんですか?」





返答は、とても早く、簡潔なものだった。





「早いうちに消す」

存外真剣な言葉に、苦笑が漏れる。
見た目も中身も軽いくせに、この執着心だけは、どうしようもなく、重い。

「ポピィ君も、こんな男に好かれて災難ですね」
「それを自分のケースに当てはめないところが、流石兄貴だな」




本当に、厭になるほどの血の繋がりだ!












BACK→