騒いでいた拍子に消しゴムを窓から落とした。
何で騒いでいたのかはもう覚えていないけど、
その消しゴムは、オレにとってすごく大切なものだった。
「あぅ、あう……オレの消しゴム!!」
オレの泣き声で、教室の皆が一斉に心配そうに見てたけど、
しいねちゃんが「大丈夫、何でもないです」って収めてくれた。
「どこに飛んでったか見えた?」
「全然なのだ!オレの消しゴム!!!」
窓から一面に広がる草っぱらに、まず間違いなく飛んでいったのだろう。
青々と茂る葉っぱは、オレの消しゴムを跡形も無く隠してしまった。
「でも、消しゴムなんでしょう?」
「あれは、とっても気にいってたのだ!!」
「うーん……魔法で、なんとか………」
三人で窓から外を眺める。
魔法は便利だから、きっと何とかなると思ったんだけど、
チャチャもしいねちゃんも黙って考え込む。
「あんなに広いと、見つけるのは難しいですよ」
「じゃあ、草がなければいいんじゃない?」
「でも、あそこは下級生が花を植えてるところですし……」
二人は顔を見合わせて、オレの両肩をポンと叩いた。
「諦めろバカ犬」「リーヤ、諦めよう?」
「いーやーなーのーだーっ!!」
狼化してじたばたしていると、ふと、赤目の子と目が合った。
確か、ポピィ君。転入したばっかりで、いつも一人でいる子だ。
「ポピィ君?どうしたのだ?」
「………べ、つに。何でもねぇよ」
声をかけたらすぐに顔を背けらた。
何か言いたそうだったけど、気のせいだったのかな。
放課後、忘れ物を取りに行ったしいねちゃんが、なくした消しゴムを持ってきてくれた。
オレの席に置いてあったらしい。
教室を出てそんなに時間は経ってないのに、誰が見つけてくれたんだろう?
微かに嗅ぎ覚えのない匂いが残っていたから、それを辿ってみる。
匂いの濃くなった道を曲がると、知り合いがいた。
「あ、ポピィ君」
「奇遇ですね」
チャチャとしいねちゃんが挨拶。
オレも後に続いて、ポピィ君の間近まで来て、気づいた。
匂いの主はこの子だ。
嬉しくなってポピィ君に勢いよく抱きつく。
「ポピィ君、消しゴム見つけてくれてありがとうなのだ!」
「なっ!?」
「え、ポピィ君が見つけたの?」
「いや」
「絶対!オレの鼻がそう言ってるっ」
「違っ……」
オレたちが「凄い!」とか「カッコいい!」とか言ってまとわりつくと、
ポピィ君は真っ赤になってどもってた。
褒められるのにあんまり慣れてないのかな。
でも、折角仲良くなれるチャンスだから、いっぱいお話したかった。
だから、気になってたことを聞いた。
「あのさ、ポピィ君はどうやって消しゴム見つけたのだ?」
ポピィ君が、ぴくって反応した。
「あ、それ僕も気になってました」
「何か凄い魔法が使えるの!?」
教えて、教えて、とオレたちが群がると、
ポピィ君は俯いたまま、一言、呟いた。
「………うっせぇんだよ」
「え?」
悲しそうな声だった。
「俺じゃねぇって、言ってんだろ」
そんなことないって、オレが一番よくわかっていたけど。
すごく辛そうな顔で走って行ったポピィ君に、それ以上何も言えなかった。
そこまで聞かれたくなかったのかな。
どうしてだろう。
ポピィ君、ちょっと泣いてた。
どうしてだろう。
涙ぐんだポピィ君を思い出したら、胸がドキドキした。
どうしてだろう。
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