席が隣同士だった同級生。
片手で数えるほどしか喋ったことがない、無口な奴だった。

最初の頃は苛められることもあったみたいだけど、
人の心が読めるあいつには、全然効果がなかったらしい。
あいつに話しかける奴なんていない。
嫌われてたってこともあったけど、
話しかけたらこっちまでハブにされるって方が、主な理由だった。


だから、あいつは、いつも一人でいた印象しかない。








そんなあいつが転向して半年。
同級生たちも誰も気にかけたことなどなかったし、
俺もあまり気にしたことは無かった。
ただ、少しだけ、罪悪感が胸に残った。






淡い桃色の髪が人通りの多い商店街でちらちらと視界を横切る。
両手で抱えるように抱いている子は、きっと弟なんだろう。
(だって頬の渦巻きがそっくりだ)

あいつは赤子が人ごみで泣かないように軽く揺らしながら、小声で唄を口ずさんでいた。
確か、昔もみじ学園の音楽祭で歌わされた唄だ。
音楽祭で選曲されるほど人気はあったけれど、あいつも、好きだったんだ。

妙な懐かしさと、寂しさがない交ぜになる。


何となく、もうこんな機会は無い気がして、
それが勿体無い、と思う自分がいた。

今更、何を話せばいいんだろう。
まずは、もみじ学園で一緒のクラスだったけど覚えてる?、と言うべきか。
それとも、今は何をしている、と尋ねてみようか。


一歩、二歩と近づくと、あいつがふらふらとよろけた。
よく見れば、大きな買い物袋を肩にかけていた。
赤ん坊を持ってるんじゃ、きっと大変だろう。

よし、掛ける言葉が見つかった。




「大丈夫?」



俺が掛けようとした言葉が、誰か別の男の口から紡がれた。



「ちっ、平八かよ」
「酷ーい。ポーちゃんったら何か冷たい」


あいつの肩を叩こうとした手は、無様に伸びたまま。
完全に話しかけるタイミングを失ってしまい、俺は仕方なく手を下ろした。
何だか、かっこわるい。

「荷物重そうじゃん。持ってやるよ」
「……サンキュ。卵入ってるから気をつけろよ」
「任せろって」

あいつよりそこそこ年の離れた男。
俺がしようと思ったことを、自然にやり遂げて、するりと隣を陣取る。





その瞬間、男がちらりとこちらを見て、笑った気がした。














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