山手線周辺で藁にもすがる思いで聞き込み捜査をしていたが、やはり収穫は無かった。
もともと人通りが多く、レイ・ペンバーの事件より日数が経ちすぎているのも問題だった。
竜崎も「有力な証言が得られる可能性はほぼ0%ですし、聞き込みはいいですよ」
と言っていたが、やはりじっと捜査本部にいるのは気が引けた。
書類整理や何やらは新しく入ってきた月君の方が的確にずっと速くやれるし、
何より二人の会話に時々付いていけなくなる時がある。
あの中で自分が無能だと再認識するより、僅かな可能性に賭けて
自分の足で情報を集める方が良いと思った。
だがこうして何の収穫も無くホテルに戻ってきてしまうあたり、本当に自分は役に立っていない。
嫌な気持ちになったが、できるだけそれを顔に出さないようにして部屋のドアを開けた。
中には竜崎しかいなかった。
局長は元々忙しい身であり、いないのはわかる。
相沢は電話番で模木は・・そういえば月君の尾行だったか。
月君はおそらく大学に行っているわけで、竜崎が一人なのも納得がいった。
改めて彼を見ると、何かの雑誌を読んでいる。
竜崎はキラに関する資料を全て把握しているといっていい。
直接的な資料は勿論、マスコミが報道したキラの記事も読んでいる。
週刊誌の類なのかと思ったが、その割に表紙は文字っぽくなく、少し違う気がした。
集中しているのか、自分が入ってきたことにも気づかず雑誌を熟読しているLの
背後に回りこみ中を覗き見た。
・・・・ファッション誌だった。
いや、まさか誰がそんなもの読んでると予想できますか?
そもそもこんな男所帯で、週刊誌以外の雑誌が置いてあることも極端に無いのに。
「あの、竜崎・・どうしたんですか?」
思わず声に出して尋ねてしまった。
竜崎は僅かに肩をぴくっと揺らして、それから顔だけこちらに向けた。
「いつの間に帰ってきたんですか、驚きました。・・・あぁ、おかえりなさいご苦労様です」
自分の戸惑いには全く気づいていないようで、いつもどおり普通にねぎらいの言葉をかけてくる。
だがここで引き下がっては気になってしょうがない。
「竜崎、それってファッション誌ですよね?いきなりどうしたんですか、そっちの方がびっくりしますよ」
竜崎は自分が今まで読んでいた雑誌をぺらぺらと捲り、あるページを開いてこちらに見せた。
可愛らしい女の子が黒いフリルのついたキャミソールを着て笑っている写真だった。
あまりこういった類の雑誌は読まないが、似合っていると思う。
さらによく見ると一番下に小さくプロフィールが載ってあった。
「・・・や・・・ミサ」
「あまねみさ、です」
「彼女がどうかしたんですか?」
まさか竜崎がこのモデルのファンだということはあるまい。
芸能人どころか誰かに個人的に憧れるようなことがあるのかどうかもちょっと怪しい。
「私は月君がキラだとするならば、第二のキラと接触している可能性があると思っています。
模木さんに月君を尾行してもらっていますが、彼は最近になっていきなり四人もの
女性と交際しています。とりあえず一人ずつ調べているのです」
「・・ってことは月君、このモデルの女性と付き合っているんですか!?」
「えぇ、どういった経緯でそうなったかはわかりませんが」
だが確かにあの容姿ならそういった子と付き合っているのもおかしくはない。
むしろあんなに真面目そうな彼が四股をかけているほうが信じられない。
竜崎は誰かの差し入れであろう、チョコボールを一つずつ摘まんで食べながら
再び雑誌を開き読み始めた。
机を見ると他の月君の彼女らしき三人の顔写真と紙の束がクリップで留めて無造作に置いてあった。
・・これはまるで
「夫の浮気を調査する奥さんみたいですね」
笑いながら言ったが、竜崎は流石に笑ってくれなかった。
しばらくこちらをじっと見て、軽く頭を振りながらため息をつき視線を雑誌に戻した。
何かを諦められた気がした。