「あー・・・めんどい」

人・人・人でごった返すどこにでもある街道に、
どこにでもいそうなごく一般的な容姿の青年が、
どこにでもいるようにだるそうに愚痴りながら歩いていた。
まさかこの濃い茶色の髪の持主が、
忍びの世界に名を轟かせる『コノト』とは、
ましてや木の葉の里では最も悪名高い『うずまきナルト』とは、誰も気づきはしないだろう。

ちなみに、ここは木の葉の里ではない。
本日の任務は他国の隠れ里との取引なので、
お互いが不利、有利にならないよう第三国が選ばれた。
決められた取引なのに地の利が必要?と思うかもしれないが、
そこは忍びの世界。
信用問題云々は表向きで、裏ではそりゃあそりゃあ黒い。
物々交換ならば相手の物品をこっそり奪って、
相手が約束を破棄しなければならないような状況にするのは常套手段。
(上手くいけば違約賠償で好き勝手注文つけられるし、
 要は、『バレなきゃ』いいのだ。大人の世界って汚いよね)
それにモノによっては他国の忍びまで絡んでくるから、
大きな面倒ごとはできるだけ自分の国に持ち込みたくないのが心情。
んなことで知らずに取引場所に指定される国はたまったもんじゃないだろうけど。


「おー、忍者さんうようよしてる。取引条件完璧に無視ってるじゃん」

一対一の約束でしょうに、ここまで堂々と破ってくれると逆に清々しい。
向こうは『コノト』が来ることを知らされているし、だからこその大増員か。
一応、髪色を変えたのは正解だったかもしれない。
ビンゴブックには金髪で載ってたはずだ。
もし変えなかったら、徹底マークは免れなかっただろう。

・・・こちらとしては、穏便に巻物交換で終わらせたいのだけれど、ね。
信じてくれないって、悲しい。



もう面倒くさいし、帰っちゃだめかな。任務失敗でいいし。
そもそも、この任務だって街中だから力いっぱい暴れられないから
絶対イヤだって言ったのに三代目が独断で入れやがったもんで。
いやいやいや、だめだぞナルト。
木の葉に身をおいて忍者やってる以上、任務放棄はやっちゃいけない。
そうだ、それは流石にどうかなって感じだべ。頑張れ俺。
(いい加減、心の中で一人掛け合いは寂しすぎてやめた)
ひとまず、コノトっぽい影分身を用意して通りを歩かせる。
これで巻物取ってきてくれたら万々歳。
駄目だったら、またその時適当に考えればいい。

というわけで、俺は軽い足取りで町の定食屋を捜し歩く。
決して、決して任務を分身に押し付けたわけではない。
待つことも大事だとどこかの忍術書に書いてあった気がする、きっと。





「らっしゃーい」
「ん、塩ラーメン一つ」
「塩一つぅ。お客さん、適当に座ってくださいな」

適当に、と言われたから適当にカウンターに腰掛けた。
他の里まで来たんだからラーメン食べ比べは欠かせない。
店内は広いけど、そこそこに混んでいて、
浴衣姿の子どもが目立つから、祭りでもあるのか。
・・・・・だから、妙に人でごった返してたんだな。


あれ?






俺は、不意に、どういうわけか後ろを向いた。
特段おかしな気配があったわけではない。
だけど、ここの店員とばっちり目があった。
あちらも目を逸らす気配はない。お互い、相手の顔を見て呆けてた。

容姿もチャクラも諸々の所作でさえ似通っていないのに、
何故だか直感的に、「あいつ」だと気づいた。










「まさか・・・お前もこっちに来てたなんて」
「いやはや偶然って怖いね、シカ」

店の裏口から出てきたシカマルは、わざとらしく深い溜息をつく。
やっぱりどう見ても『シカマル』には見えないのに、
俺は当たり前のように気軽に接している。違ったらどうしよう、なんて微塵も考えてない。
(あまりに俺らしくなくて、でも今は忙しいので考察は放棄)

「ここ数日で一気に忍者の密度が増えたのっておまえの任務のせいだろ?」
「いや、それはどうだろ」

適当に流すと、体に悪い特大級の殺気で睨み付けられた。
どうやら、忍者が増えたせいでシカの任務によろしくない影響が出たらしい。
うん、俺ももし同じ立場だったらかなりムカつくわね。

「もうそっちの任務終わったの?」
「一応な。今は後始末中」
「じゃあ、とりあえずフリーってこと?」
「・・・・・・・・・・・・」
「ま、何も言わなくても手伝ってもらうけど」
「貸しだからな」
「ケチなこと言うなよ。心の友」

その素晴らしくよく回る頭を利用してくれれば
こんな問題もぱぱっと即解決に違いない。
期待をこめてキラキラ輝く瞳で懇願するように見上げると、
我らが天才代表・シカマル君は蔑んだような視線を返してくださった。
あーあ、だめだねその態度。
そういう自分を優位に持ち上げて他者を見下すって、
あんまカリスマ性無いよ?たとえどんなに馬鹿に見えても、
まず相手を認めなくっちゃぁ何事も始まらないって。
そんなこともわかんないようじゃシカマル君もまだまだお・子・様。

「さっきから思ってることが駄々漏れなのは、
 わざとですかねぇナルト君」
「俺がうっかり自分の本音を漏らすような
 お馬鹿さんじゃないことはシカマル君もよくわかってるだろ?」
「てめぇ・・・あちらさんにお前がコノトだってバラすぞ?」
「そしたら俺は、お前がコノトの相方のカノコだって叫んでまわるし」

そう言いながらも、ちょっとヤバいな、と思った。
俺はともかく、まだ暗部として新米のカノコの存在を、
相手方は知らない可能性だってあるわけで。
だけどシカマルはそれ以上文句は言わず、俺に手を貸してくれた。
やっさし〜。流石俺の相棒。心が広い!








「・・いやぁ、まさかこうも上手くいくとは思わなかった」
「というか、お前ら任務を履き違えてんじゃねぇよ」

手元には標準サイズのどこにでもありそうな巻物。
(勿論、中身は一般人が読んだら情報隠匿のために消されそうな内容だが)
俺も、多分相手の忍者さんたちも、戦うことばっか考えてて。


まさかこっそりスリ紛いの行為で入れ替えるなんて
狡い手を使うとは思わなかっただろう。

殺気と武器と忍者にはどこまでも警戒していた忍者さんたちだったが、
食べ物売りやらか弱い一般人の接近には警戒0だった。
好戦的なバトル忍者としてはとーってもつまらない任務だったけど、
まあ、とりあえず完了できて良かった良かった。

「・・・・・・・おまえ、忍者に向いてねぇって」
「そんなこと初めて言われたんだけど?」
「・・そうだな。おまえは強さこそが、一番必要な環境だったか」

ぽつりと。しみじみと呟いて、一瞬寂しそうな目をした。
他の奴みたいに同情してるわけじゃないことはわかる。
だけど、どうしてそんなことを言うのか理解できなかった。
・・・・・それでも、今のシカマルが言ったことは、
俺が持っていない人として大切な部分を補うヒントのような気がしたから。



何でもないフリを装って、こっそり彼の言葉を心の中にしまいこんだ。








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